12月にモロッコがイスラエルの承認を発表した。これで2020年には4つのアラブ国家がイスラエルを承認した計算になる。アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン、モロッコである。次にオマーンがイスラエル承認に踏み切るだろうとの観測もしきりである。アラブ諸国にとってイスラエルを承認するメリットは何だろうか。


イスラエルの技術はアラブ諸国には魅力的である。例えば乾燥地での農業の技術である。イスラエルは優れた水利用の技術を開発してきた。比較的によく知られている例を挙げると、点滴灌漑である。地中に走らせたチューブから植物の根や土壌に直接に点滴のように水と肥料を施す技術である。これで必要な水も肥料も大幅に節約できる。またハイテクの監視技術も見逃せない。強権的で国民の民意に基づいていない体制の指導層には、イスラエル製の反体制派を監視する技術はありがたい。


しかし、イスラエルを承認する最大のメリットは、アメリカの対応の変化である。イスラエルと仲良くするとアメリカとの関係が滑らかになる。ホワイトハウスや議会の親イスラエル勢力との連携が可能になる。


スーダンは、イスラエルの承認と引き換えにテロ支援国リストから除外された。これで海外からの投資の増大が期待される。またアラブ首長国連邦は米国製の最新鋭航空機であるF35が輸入できそうである。この種の兵器の輸出に関しては議会の監視が厳しい。特にイスラエルと周辺諸国に関しては、議会が法律を成立させてイスラエルの技術的な優位を保障している。平たく言うと米政府はイスラエルを脅かすようなハイテク兵器はアラブ諸国に供与できない。となるとF35はアラブ首長国連邦には輸出できない。


ところがアラブ首長国連邦との国交樹立を受けてイスラエルが議会にF35の輸出に反対しないようにと働きかけ始めた。かつてならばアラブ諸国への米国製の兵器の輸出を懸命に阻止しようとしていたイスラエルが、方向を変えた。となるとイスラエルに配慮する議員が多いので、米議会も変わるだろう。


またモロッコの場合は、同国が占領している西サハラに対する主権を米国が承認した。西サハラはスペインの植民地だったが、1970年代に同国が撤退した。現地の人々の独立の希望を無視して北の隣国のモロッコが一方的に併合を宣言して、現在に至るまで紛争が続いている。国際法上は違法な占領状態である。その地域への主権を米国が認めたわけだ。


トランプ政権は、これまでもエルサレムのイスラエルの首都としての承認や、シリアからイスラエルが奪ったゴラン高原への同国の主権の承認などを連発してきたが、今回は、いよいよ閉店間際のトランプ商店が、何とか米国が維持していた中東での外交資産を叩き売りでもしているかのようである。


ドナルド・トランプは米国内のイスラエル支持派に最後まで尽くし抜いて、4年後の大統領選への再出馬を狙っているのだろうか。


-了-


※『経済界』(2021年2月号)116ページに掲載