今年の10冊

 年の瀬も押し迫りまして今年も恒例のこれを。相変わらずというかいつにも増してというか(笑)雑多というか脈絡のない代物になっておりますが勝手選書なのでそのようにご了解を、ということで例年どおり1著者1冊・著者名50音順となっております。

いっくん『数学クラスタが集まって本気で大喜利してみた』

 著者は数学を愛する会会長で早稲田大学の学生さんとか。twitter上で「ケーキを三等分せよ」「ハートのグラフを描け」「1=2を証明せよ」などの「お題」を提示し、それに対して数学クラスタの面々がより面白い、エレガントな解答を競い合う「大喜利」をやっていて、それをまとめた本ということです。まあ正直なところ文系の私にはまったくお手上げの領域もあるのですが(笑)、しかし感心させられる解答も多々提示されていて非常に楽しく、いやこういうことを考えつく人というのはどういうアタマの構造をしているのかなどと思うことしきり。
ちなみに見本 

梅崎修『日本のキャリア形成と労使関係ー調査の労働経済学』

 簡単なご紹介はこちら。年末年始のお休みに、とか書きましたが年内に読み切ってしまいました(笑)。実務実感に一致した結果も多く、労使の取り組みをサポートしてくれる内容が豊富なのがうれしいところです。

貴田正子『深大寺の白鳳仏-武蔵野にもたらされた奇跡の国宝』

 私は調布市民なので深大寺は徒歩圏内であり、白鳳仏(釈迦如来倚像)が国宝指定された際にはたいへん喜ばしく思いましたが、たしかに飛鳥時代の逸品がなぜ調布にあるのか?というのは謎でした。その謎に挑んだ本で、地元の話ということもあって非常に興味深く読みました。まあ正直な感想として、史料調べなどはかなり手薄で(まあそもそも史料が残されていないという事情はありましょうが)かなりの部分は推測で占められているのでどこまで真相に迫っているのかはなんともいえないように思うのではありますが、それでも調査や思考の過程は楽しく、ここは地元枠ということでひとつ。

草野隆彦『雇用システムの生成と変貌-政策との関連で』

草野隆彦『雇用システムの生成と変貌-政策との関連で』
 簡単なご紹介はこちら。実は通読していないのですが、まあ資料として活用する本であって通読するものではないですよね?と逃げる私(笑)。JILPTならではの力作で座右に置いております。

小林佳世子『最後通牒ゲームの謎』

 最後通牒ゲームを中心に、さまざまな経済学の実験結果が経済学が想定する合理的な結果にならない理由を進化心理学の観点から解き明かしていく本です。人類が進化の過程で生き延びていくために身につけてきた本能のようなものが背後にあるという話は興味深く、また随所で今般のコロナ禍下における人々のさまざまなふるまいについて「ああなるほど」と感じさせられるのも面白いところです。私には「裏切り者を見つける力」の中で、ある種の4枚ゲームでは労組の活動家が一般人と異なる結果を示すという話が面白かった。第64回日経・経済図書文化賞受賞作で、大竹文雄先生の書評がこちらにあります。

佐々木勝『経済学者が語るスポーツの力』

 書名のとおり、「スポーツの力」を経済学的に示した本です。スポーツを通じて非認知能力を向上させるといった人材育成・人材活用の観点、企業スポーツが企業の生産性や職場管理の改善に結び付くといった経営の観点、さらにはスポーツが社会に及ぼす好ましい影響やその促進といったさまざまな見地から「スポーツの力」が経済学的に解説され、実は経済学や統計の入門にもなるという本です。非認知能力の話は授業でも紹介していますし、実は私が参加した調査の結果も紹介されたりしています(論文も紹介いただいております。ありがたやありがたや)。

仁田道夫・中村圭介・野川忍編『労働組合の基礎-働く人の未来をつくる』

 簡単なご紹介はこちら。集団的労使関係の重要性が高まっている(と私は信じている)中、残念ながら労働組合の組織化、運営の適切なガイドブックがあまり見当たらない中で、待望の一冊と申し上げるべきでしょう。これが具体的な組織化へと結びつくことを期待するばかりです。

濱口桂一郎『団結と参加-労使関係法政策の近現代史

 簡単なご紹介はこちら。1著者1冊ということで岩波新書の『ジョブ型雇用社会とは何かー正社員体制の矛盾と転換』(簡単なご紹介はこちら)と少し迷ったのですが、やはり集団的労使関係に関する貴重な業績ということでこちらを採らせていただきました。

(一社)福井県眼鏡協会監修『鯖江の眼鏡-一般社団法人福井県眼鏡協会公式ガイドブック』

 世界に冠たる高級眼鏡「鯖江の眼鏡」の歴史からひもとき、その設計思想、製品の特徴、素材、製法、技能などなどを解説したガイドブックで、多くの図版を中心に編集されていて非常に楽しい一冊です。私は幸いにもまだ裸眼で視力1.5なので眼鏡のお世話にならずにすんでいるのですが(笑)

村尾隆介『ミズノ本-世界で愛される”日本的企業”の秘密』

 ミズノ様には仕事でたいへんお世話になりました。なぜ。経営者の方にもお目にかかりましたがたいへん教養豊かで円満な紳士であり、社員のみなさまも私が知るかぎり親切でエネルギッシュな方が揃っていて魅力的な会社だと思っていたのですが、この本はミズノとともにプロジェクトを推進したコンサルタントが組織内に入り込んで調査した「ミズノの全容」という感じの本です。佐々木先生の本もそうですがこれもスポーツ関連書籍で、これも東京大会のレガシーなのかもしれません。

番外:穂村弘『シンジケート[新装版]』

 穂村弘のデビュー歌集の新装版です。俵万智が大賞を獲得した角川短歌賞の次点作で、高橋源一郎氏が絶賛して話題になったのですが、当初自費出版で読めなかった記憶があります(私の手元にあるのは2006年の沖積舎版)。絵と装丁が一新され、高橋氏が新装版向けの解説を書くなどの追加があります。若かりし日をまざまざと思い出させる一冊ですが、ほとんど内容に変化のない新装版ということで番外としました。