アメリカは、なぜイスラエルを支持するのだろうか。


昨年5月のガザに対するイスラエルの攻撃に、国連の安保理が何度も即時停戦を求める決議を採択しようとした。だが、その度にアメリカがそれを阻止した。安保理ではアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5大国の1カ国でも反対すると決議は成立しない。この5カ国が拒否権を持っている。アメリカは、その拒否権でイスラエルを守り通した。その間ガザでは、イスラエルの攻撃の巻き添えで多くの子どもたちが殺された。なぜこれほどまでにイスラエルを支持するのだろうか。


それは、アメリカ国内にイスラエルを支持する人々がいるからだ。ユダヤ系の人たちのイスラエル支持は、良く知られている。アメリカには750万人のユダヤ系の人々が生活している。アメリカの総人口を3億3千万人とすれば、2・4パーセントに当たる。バイデン大統領は1970年代の議員への初当選以来、その支持を受けて歩んで来た政治家である。バイデンが頻繁に口にする言葉がある。それは、「シオニストになるのにユダヤ人である必要はない。私はシオニストだ」である。


ちなみに同大統領はカトリック教徒である。しかし、最近ではユダヤ人の間でも若い層からイスラエルの政策に批判的な声も上がるようになった。こうした声の受け皿が、バーニー・サンダース上院議員である。2020年の大統領選挙で最後まで民主党の候補者指名をバイデンと争った人物である。サンダースに投票した人々の多くが、ガザに対するイスラエルの攻撃を止めるようにとバイデン大統領に強く働きかけた。


さて、イスラエル支持者として数的にはユダヤ人よりも重要なのが、キリスト教福音派である。アメリカ人の4人に1人は福音派に属している。実数にして8千万人強である。その多くが、イスラエルの成立を古代のイスラエル王国の再生と見なしている。そして、聖地パレスチナ全体のユダヤ化がイエスの再臨の準備となる、と信じている。それゆえ熱烈にイスラエルの占領地への入植を支持している、とされてきた。


ところが、アメリカの福音派に関する最新の世論調査の結果が公表され、注目を集めている。それによれば、18~29歳の層では、イスラエル支持が33パーセントなのに対して、パレスチナ支持が24パーセントであった。3年前の調査ではイスラエル支持が69 パーセントで、パレスチナ支持はわずか5・6パーセントだった。なにが、この驚くほどの変化をもたらしたのだろう。


SNSなどを通じて現地から提供される映像の量が爆発的に増えているのが大きな要因ではないかと想像される。しかも、この年代層の45パーセントがパレスチナ人国家の樹立を支持している。ということは全パレスチナのユダヤ化に反対なわけだ。イエスの再来の準備としての聖地全体のユダヤ化という神学を信じていないわけだ。


福音派がアメリカの人口の4分の1もいるのならば、福音派の中にもいろいろな考えがあって当然だろう。福音派という集団が政治的には一様でなくて当たり前だろう。少なくとも世代によって変化がある。これはユダヤ教徒の間で起っているのだからキリスト教徒の間で起っても不思議はない。この調査は福音派の人々の間の多様性と変化を教えてくれる。


福音派の変化が、長期的にアメリカとイスラエルの関係に大きな意味を持ちそうである。もし、この層の中東認識が変わるのならば、政治家の言動も変わるだろう。福音派はとくに白人は、共和党の岩盤とされてきた。中東問題に関しては、イスラエルへの熱過ぎるほどの支持で知られてきた。したがって、なにがあっても、なにをしても、なにがなんでもイスラエル支持を表明というのが、多くのアメリカの政治家のとくに共和党の政治家の条件反射的な反応だった。それが次の選挙で福音派の票を得るための安全な選択だったからだ。しかし、有権者の変化は政治家に一呼吸する余裕を与えるだろう。そして、その呼吸の間にパレスチナ人の苦しみにも目を向けるようになって欲しいものだ。


-了-


「キャラバンサライ(第115回)キリスト教福音派とイスラエル」、
『まなぶ』(2021年7月号)44~45ページに掲載