だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

蒲郡市

2020-07-27 23:24:45 | Weblog

 縁あって愛知県蒲郡市の総合計画づくりに審議会の委員として関わることになった。私は「いなかのいなか」の地域再生に携わってきていて、こういう都市の地域づくりはあまり経験がない。というのは、私には都市よりも「いなかのいなか」の方が将来展望が立てやすいと思ったからである。実際、2010年代に入って都市から若い世代がいなかに移住するようになった。いなかには山があり田畑がある。農的暮らしをしながら自然の中で子育てしたいという世代にとっていなかは魅力的だ。若い移住者が地域づくりの担い手として登場し、あちこちで新しい動きが生まれている。

 それに対して「まち」の地域づくり・地域再生は難しい。特に難しいのが蒲郡市のような県庁所在地でもない地方都市のまちなかの再生である。

 蒲郡は江戸時代には三河木綿の産地としてワタの栽培が盛んだった。明治に入ってからは紡織業が盛んになり、第2次大戦後に経済が復興すると、「ガチャ万」景気に沸いた。織り機が「ガチャン」と動くと「一万円」というわけだ。いなかから若者たちが集まって三角屋根の工場で働いた。

 また蒲郡は三河湾に面した海のまちでもある。沿海漁業の基地として賑わった。風光明媚な海岸地帯は観光地としても開発され、明治に開業した旅館、常盤館は戦前の富裕層の滞在先として有名になった。

 高度成長時代に干潟が埋め立てられ港と工場地帯ができた。蒲郡も工業のまちとして発展した。一方で三河湾全体で工業化が進み、水質は損なわれ漁業は衰退していった。

 蒲郡市が競艇場を作ったのは1955年。この収入が行政を支えた。現在の人口は8万人の小都市であるが、それにしては立派な公共施設が多い。今から30年前に建てられた体育館は鳥が羽を広げたような屋根の斬新なデザイン。立派な武道場も併設されている。博物館とは別に科学館がある。竹島水族館は一時来客減により存続が危ぶまれたものの、職員の工夫で今では人気スポットになっている。これも市の直営だ。大ホールだけでなく中ホールのある市民会館などなど。これらは競艇収入のなせる技だろう。頼りの競艇は一時売り上げを大きく減らしたものの、最近は夜間レースとして持ち直しているらしい。

 そして1985年のプラザ合意による円高で日本の繊維産業は大打撃を受ける。安い中国製の繊維製品の輸入に押されて全国の地場の繊維産業は急速に衰退した。蒲郡でも今では三角屋根の工場ははとんど残っていない。

 かつて駅の海(南)側には歓楽街があってたいそう栄えたそうだが、現在は区画整理・再開発によって消滅した。今は駅を出ると大きな立体駐車場付きの量販店がドーンとそびえるだけで商店街の賑わいはない。駅の山(北)側に商店街が残るが典型的なシャッター街である。

 「まち」はもっとも栄えた時代で時間が止まる。蒲郡は高度経済成長時代で時間が止まっているように見える。繊維業の活気が失われたことに正確に比例してまちは活気を失ったのだろう。高度成長時代に建てられた家屋もビルも老朽化し、まち全体がくたびれた感じがある。

 2021年度からの10年間の総合計画を策定するにあたって、市役所は市民や中学生、高校生にアンケート調査を行った。市民アンケート(無作為抽出で2000通郵送、778通回答)によれば、「住みやすい・どちらかといえば住みやすい」75.6%で多くの市民が今の暮らしに満足している。「蒲郡市に対しどのような良い印象をお持ちですか」という質問(複数回答)には、「海や山林などの自然が残っており、環境がよい」が60.8%でだんとつトップである。

 中学生(2年生対象、市内に7つある中学校で配布・579通回収、回収率82.2%)、高校生(2年生対象、市内に3つある高校で配布・584通回収、回収率95.7%)のアンケート結果はよく似ている。「蒲郡市のことが好きですか」という質問に「好き・どちらかといえば好き」90.0%(中学生)、83.2%(蒲郡市在住高校生)でまちのことが好きな生徒が圧倒的に多い。蒲郡市の良いところは「海や山林など自然が豊か」がやはりだんとつで、60.1%(中学生)、54.5%(蒲郡市在住高校生)である。

 しかしながら、「大人になっても蒲郡市で暮らしたいと思いますか」という質問には、38.3%(中学生)45.1%(蒲郡市在住高校生)が「暮らしたいとは思わない・どちらかといえば暮らしたくない」という回答である。「将来、蒲郡市で働きたいと思いますか」という質問におよそ半分は「わからない」と答えているものの「蒲郡市内で働きたい」と答えたのはわずか15.2%(中学生)、17.2%(蒲郡市在住高校生)で、「蒲郡市外で働きたい」32.0%(中学生)、36.3%(蒲郡市在住高校生)の半分程度でしかない。「蒲郡市の欠点」については上位に来るのは「行きたいお店が少なく、買い物が不便」、「開発が遅れていて田舎の雰囲気がある」、「働きたいと思える会社等が少ない」、「公共交通機関が利用しにくく、交通が不便」である。

 総合すると、大人も中高生も、今の暮らしにはおおむね満足しており、まちに愛着があるものの、中高生は将来はまちを出て行くつもりの人が多い。おそらく2/3くらいは出て行くものと思う。中高生たちの不満は「行きたいお店がない」、「田舎の雰囲気」、「交通が不便」など、都市としての魅力に欠けるところである。中高生たちはまちの将来に展望を見いだせず期待もしていないようである。

 一方、まちの良いところは「自然が豊か」ということで、まちづくりの大切な資源であるが、これは都市としての魅力に欠けるという見方の裏返しとも言える。

 ここから自ずとまちづくりの方向性が見えてくるのではないだろうか。若者たちに「見捨てられない」まちにするために、自然が豊かという資源を活かしつつ、都市としての魅力を高めること。そのためにまず大切なのは中心市街地の再生ではないだろうか。シャッターが下りていたお店に若い人たちがこだわりのショップやギャラリー、カフェやゲストハウスなどを開いて行けば、まちの雰囲気がガラリと変わる。三角屋根の工場がいくつかは残っているとのことなので、それらを改装してレストランやライブハウスなどにするのもおもしろい。名古屋市の円頓寺商店街や愛知県常滑市の古い窯工房を改装したお店群などが参考になるだろう。市役所担当課の説明によれば、近年商店街組合の解散があいつぎ、商店街の衰退に歯止めがかからない状況のようである。このことをむしろチャンスと捉えて大胆な商店街の再生策をとってほしいものである。

 総合計画の審議会は市内の各種団体の代表のいわゆる「当て職」の委員ばかりでほとんどがリタイヤ世代。難易度の高い会となるが、若い世代に「見捨てられない」まちにするためにできるだけの努力をしたいと思う。

 

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