積水ハウス、ここへきて「前会長 VS. 現経営陣」委任状争奪戦へ  経営責任追及か権力闘争か

現代ビジネスに3月11日に掲載されました。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71009

4月23日、株主総会で激突

積水ハウスで2018年1月に会長兼CEO(最高経営責任者)を事実上解任された和田勇氏らが、4月に行われる同社の株主総会に向けて、取締役の入れ替えを求める株主提案を提出している問題で、3月5日に会社側が取締役会を開き、提案に反対することを決議した。

その上で、会社側として議案にする取締役候補を公表、4月23日に行われる総会に向けて双方が賛同株主を集めるプロキシーファイト(委任状争奪戦)になることが確定的になった。

和田氏らが問題にしているのは、2017年に発覚した東京・西五反田の土地取引に絡む地面師事件。偽の所有者との売買契約を結んだことで、積水ハウスが55億円あまりを騙し取られた。

当時社長だった阿部俊則・現会長らは、本当の所有者から契約は虚偽であるという内容証明郵便が繰り返し届いていたにもかかわらず取引を強行。しかも、振込ではなく「預金小切手」を使うという「業界の常識では考えられない異常な取引」を行なったと和田氏らは指摘する。

単なる詐欺被害などではなく、「経営者として信じ難い判断を重ねたことによる不正取引」だと現経営陣を批判、退陣を求めているわけだ。

双方が社外取締役候補を選定

これに対して積水ハウス側は、真っ向から反論している。地面師事件については、不正取引は存在しないと全面的に否定。また、和田氏らが調査報告書の公開を拒み続け「隠ぺいを続けた」と批判していることについても、『経緯概要等のご報告』を公表しており、隠ぺいではない、とした。

会社側が同時に発表した取締役候補は社内取締役候補8人と社外取締役4人の合計12人。阿部会長や仲井嘉浩社長ら4人の代表取締役はいずれも留任する内容だ。

他の4人の社内取締役は、現役の取締役専務執行役員として和田氏に同調し株主提案の候補者名簿に名を連ねた勝呂文康氏を除く3人を再任とし、勝呂氏の代わりに新任候補をひとり加えた。また、社外取締役候補は従来の3人から4人に増員。ガバナンス改革に取り組んでいる姿勢を強調した。

一方の和田氏らが株主提案した取締役選任議案は、和田氏のほか、昨年6月まで常務執行役員だった藤原元彦氏、同じく昨年まで北米子会社のCEOだった山田浩司氏と勝呂氏の4人の積水ハウス関係者に加えて、米国人のクリストファー・ダグラズ・ブレイディ氏など7人の独立社外取締役を揃えた。社内取締役4人と社外取締役7人という構成だ。

どちらにも不透明さが

果たして、この候補者に、株主たちはどんな審判を下すのか。

持ち株比率などからみて、株主提案が全面的に採用され、会社側提案が否定される和田氏側の「完勝」は難しそうだ。「和田氏はコーポレートガバナンスの不備を理由に現経営陣の再任に反対しているが、自らが候補者になっていることで、返り咲きを狙う権力闘争に見えてしまう」と金融機関のアナリストは言う。

会社側にも反対する理由を示した文書で次のように書かれてしまっている。

「本株主提案は、和田氏が『当社の現状を憂い立ち上がった』(本株主提案の理由)ものではなく、あくまでも提案株主の私的な理由によるものである可能性が高く、当社の企業価値及び株主共同の利益向上を実現するためのものではないと考えざるを得ません」

株主提案は、解任されたことを恨みに思っている和田氏が、取締役復帰を狙ったリベンジだというのである。

和田氏は会見で「代表取締役に就くつもりは毛頭ない」と繰り返していたが、では誰が社長候補なのか、と問われると口を濁していた。

海外投資家、機関投資家の判断は

株主総会で海外投資家や機関投資家がどんな投票行動を取るのか。地面師事件に関して経営責任を問うのならば、賛同するかもしれないが、権力闘争だと見なせば、株主提案に賛成はし難い。

会社側提案にバツを付けるのもハードルは高いが、さらに株主提案にも賛成させようと思えば、よほど説得力がなければ、機関投資家は賛同しない。

積水ハウスの発行済み株式数は、2019年1月末現在で6億9068万株。大株主名簿ではトップは信託銀行の信託口となっている。実際には「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が、2019年3月末で同社株を5872万9500株保有していることを公表している。発行済み株式数の8.5%に相当する株数で、実質の筆頭株主だとみられる。

さらに、米投資会社のブラックロック・グループが合計6.16%を保有していることが分かっている。

海外投資家は企業の不祥事やガバナンス問題に敏感で、積水ハウスの現経営者に向ける視線は厳しい。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)のような議決権行使助言会社が、会社側提案に反対票を投じるよう推奨することになれば、阿部会長や仲井社長らに多くのバツが付く可能性は大いにある。

見通しは全く不明

昨年6月のLIXILグループ株主総会では、前年に潮田洋一郎取締役会議長(当時)に社長兼CEOを解任された瀬戸欣哉氏が、海外ファンドなどの支援を受けて株主提案を行い、賛成多数で取締役に復帰した。LIXILでは会社側提案の候補と株主提案の双方の候補の多くが選ばれる結果になり、「呉越同舟」の取締役会ができた。かろうじて瀬戸派が多数を制して、瀬戸氏がCEOに復帰した。

積水ハウスも似たようなプロキシーファイトの展開になりそうで、「呉越同舟」の取締役会になる可能性もある。ただし、現状では和田氏の取締役復帰に機関投資家が賛成するかどうかは微妙。長年積水ハウスでワンマンと言われてきた人物を復帰させることがガバナンスの強化につながるというのは説得力に欠けるからだ。

一方、不透明感が依然として強い地面師事件に自らも大きな責任があると認める阿部氏や稲垣士郎副会長(事件当時・副社長)が、すんなり再任されるかどうかも分からない。カギを握るのはどちらの社外取締役候補が大株主たちに支持されるかどうか。取締役会の過半を現経営陣側と和田氏側のどちらが取れるかを左右することになるからだ。

社外取締役の多くが過半の議決を得て選任され、事件当時、役員だった積水ハウス関係者は皆、選任されないという異常事態に陥る可能性もありそうだ。4月の総会に向けて、今後、和田氏と会社側の主張がたたかわされることになるのだろうが、それを機関投資家がどう聞くかが帰趨を決めることになる。