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8月11日(木) 参院選の結果と憲法運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 参院選が終了し、与党の勝利、野党の敗北という結果が出ました。野党にとっては厳しい情勢の下での選挙となり、結果も残念なものとなりました。とりわけ、改憲勢力とされる政党の合計議席が参院での発議に必要な3分の2を超えたことは重大です。
 この結果が憲法の改定を目指す勢力にとっては有利に、改憲阻止を目指す勢力にとっては不利に働くことは否定できません。9条改憲を阻もうとする憲法運動にとっては重大かつ危険な局面が生じ、大きな課題を提起するものとなりました。
 このような結果になった背景としては、新型コロナウイルス感染第6波の収束、ウクライナ侵略による好戦的雰囲気の強まり、大軍拡と改憲の大合唱、岸田政権の支持率の安定と自民党支持率の高さ、野党の分断と一人区での共闘の不十分さがありました。それに加えて、選挙最終盤での安倍晋三元首相への銃撃・殺害による自民党への同情票の増大などがあったと思われます。
 参院選がなぜ、どのようにしてこのような結果になったのか。各党の選挙結果とその意味はどのようなものなのか。それが今後の政治と憲法運動にどのような課題を提起することになるのか。憲法運動はどう対応するべきなのか。以下、これらの問題について検討したいと思います。

1 参院選の結果

(1)勝たせてもらった与党

 参院選での各党の当選者数は、別表(省略)の通りになっています。全体の特徴は「与党が勝利した」というよりも、野党間の共闘の不十分さや乱立による票の分散などで対応を間違え、「野党が敗北した」といった方が良いような形になりました。オウンゴールによって自民党は勝利を「プレゼント」されたのです。
 自民党は選挙区で45議席、比例で18議席の合計63議席となり、改選前から8議席増やしました。今回の選挙で争われた選挙区74議席と比例50議席に神奈川選挙区の欠員を合わせた125議席の過半数を単独で確保し、メディアでは「大勝」「圧勝」などと報じられています。
 しかし、その内実は全く違っています。自民党が支持を増やした結果ではないからです。政党支持の実態が比較的正確に示される比例で昨年10月の総選挙と比べれば165万票も減らし、議席で1議席減となっています。有権者全体の中での支持を示す絶対得票率は16.8%にすぎず、2割を切りました。
 自民党が支持を減らしているにもかかわらず議席を増やした秘密は選挙区にあります。特に32ある一人区では28勝4敗となり、前回より6議席も増やしています。特に沖縄県を除く西日本では自民党が全勝しました。
 公明党は選挙区で現職7人が立候補して全議席を維持しましたが、比例では昨年の総選挙に比べて93万票減らし、1議席減の6議席となって計13議席にとどまりました。支持者の高齢化などに加え、自民との相互推薦の難航が背景にあるとみられています。
 公明党も選挙区では野党乱立の恩恵を受けました。大阪の場合、59万票で最下位の4位当選でしたが、共産・立憲・れいわが調整して一本化すれば65万票となり、当選は難しかったかもしれません。
 
(2) 試練に直面した立憲野党
 
 立憲民主党は神奈川県選挙区での5位補欠当選(任期3年)を含めて選挙区6減の10議席、比例は改選7を維持して合計17議席を獲得しました。改選前からは6議席減ですが、それは全て一人区での敗北でした。一人区では、青森と長野で勝利しただけで、旧民主党の力が強かった岩手と新潟でも議席を失っています。
 一人区での議席減は野党共闘が不十分だったことの結果です。前回は全てで共闘が成立し10勝をあげましたが、今回は11選挙区に限られ、青森と長野、沖縄で当選しただけです。本来であれば、野党第一党として共闘のかなめになるべき立憲民主が十分な役割を果たすことできず、野党支持者の失望を招きました。
 立憲民主の得票は、昨年の総選挙での比例と比べて472万票も激減しています。これは共闘しなければ勝てないことが分かっているのに背を向けた立憲への支持者の怒りの表れではないでしょうか。支持団体である連合の干渉と妨害に屈し、国民民主の与党へのすり寄りに動揺して共闘に積極的に取り組まず、市民と野党の政策合意にしても協定に各党の党首が署名するのではなく口頭での約束にとどまりました。
 日本共産党は東京選挙区で議席を維持しましたが、比例では2議席減の3議席となって合計4議席にとどまっています。昨年の総選挙の比例から55万票も減らし、3年前の19年参院選比例と比べても86万票の減です。
 共産党はその要因について、常任幹部会声明で「指導的イニシアチブを十分に果たせなかった」ことと「自力をつけるとりくみ」の「立ち遅れ」を指摘しています。野党共闘を進めるとともに、共産党の自力を強め支持をどう増やすのか、有事における自衛隊「活用」論についての理解をどう広げていくのかが今後の課題でしょう。
 同時に、東京で示された前進面を学ぶ必要もあります。NHKの出口調査では無党派層の投票先で1位でした。選挙ボランティアに若い人の姿も目立ち、SNS(ネット交流サービス)での情報発信も有効でした。山添拓候補は憲法9条にもとづく平和構築を直球で訴え、ほかの野党との違いを明確にし、大軍拡や9条改憲に反対する都民の願いを受け止め維新を退けて当選することができたのです。
 れいわ新選組も東京選挙区で山本太郎代表を当選させ、比例で2議席を得て合計3議席となりました。若い層や革新無党派層からの支持を広げ、一定の地歩を確保しています。
 社会民主党は比例で福島瑞穂党首が当選して改選前の1議席を維持し、得票率も2%を超えたために政党要件を維持できました。2%に達しなかった昨年の総選挙より24万票増やしたためですが、それは共産支持者による戦略的投票の結果かもしれません。

(3) 存在感を示した補完野党

 日本維新の会は選挙区で4議席、比例で8議席の合計12議席を獲得し、改選前の6議席から倍増しました。特に、比例区では立憲民主党を上回り、野党第一党となって存在感を示しました。
 しかし、東京と京都では次点で落選しています。大阪・兵庫などの近畿以外での当選は神奈川だけでしたが、松沢成文候補は元県知事ですべてが「維新票」とは言えません。基本的に「全国政党」化は成功せず、一時の勢いを失って頭打ちとなりました。
 昨年の総選挙での比例と比べても、20万票ほど減らしています。その支持層の多くは比較的恵まれた現役世代のホワイトカラーなどで、貧困化が進み中間層が没落するなかで不満を強め、将来への不安もあって「改革幻想」に期待を寄せた人ではないかとみられます。その一部は同じような性格のNHK党や参政党に流れたかもしれません。また、維新は暴言やスキャンダルなどが多く、問題候補者の「吹き溜まり」のようになっています。その実態が知られるようになって支持を失っている可能性もあります。
 国民民主党は選挙区で2議席、比例区で3議席の合計5議席を獲得しました。改選前からは2議席の後退です。「対決から解決へ」と言って予算案に賛成し、政権への接近を強めた国民民主の変身は必ずしも効果を生んでいるとは言えません。
 NHK党は82人を立候補させて比例で1議席を獲得し、選挙区・比例とも得票率2%に達して政党要件を維持しました。立花孝志党首は政党助成金目当ての大量立候補を公言し、22年度は2億6000万円が助成されると推計されています。このような立候補が許されるのか、改めて助成金の趣旨に反する問題点を浮かび上がらせました。
 諸派では新たに参政党が比例で1議席を獲得し、政党要件を満たしました。参政党が力を入れて取り組んだユーチューブへの動画投稿などSNSを通じて急速に関心を広げた結果だとみられています。

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