phaの日記

パーティーは終わった

恋とセックスに振り回された人生だった



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今までにあまり書いてこなかった恋愛やセックスの話を書いてみようと思ったのは四十歳になったのが一つのきっかけだった。
書いてはこなかったけれど、それは自分の人生の中ですごく重要な位置にあるものだった。
もともと自分は引っ込み思案で人と積極的に関わろうとする性質ではない。なので、恋愛感情や性的衝動に突き動かされることがなければ、もっと内向的で変化のない人生を送っていただろう。恋愛や性欲というのは閉じている自分を切り開いてくれるものだった。それはときどき妄想に近くなって、人に迷惑をかけたりもするものだったけれど。
三十代も終わり、自分の中の衝動が少し落ち着いてきたのもあって、自分のこれまでの右往左往を振り返ってみたいと思った。これを書かないと自分の人生が前に進まない、と思ったのだ。


最初は恋愛のことだけを書くつもりだった。だけど、恋愛というのは人生のさまざまな要素に絡んでくるものなので、結局、自分の人生全部の総決算のような内容になってしまった。
なぜ定職につかずにふらふらと生きてきたのか、なぜ結婚をしたりするのではなくずっとシェアハウスに住んでいたのか、そしてなぜシェアハウスをやめたのか。そうしたことを全部この小説の中で書き切ってしまった。
こんなに自分の中のものを全てさらけ出してしまったら、自分の人生が空っぽであったことがはっきりわかってしまって、このあと死んでしまうんじゃないか、と思うくらいの気分だ。『豊饒の海』を書き上げてすぐに腹を切ってしまった三島由紀夫のように*1。いや、多分死なないけど。


そんな感じで書いた僕の初の小説『夜のこと』が扶桑社から11月15日に発売予定です。興味を持った方は読んでみてください。同人誌版(全2巻)にかなり書き下ろしを加えて、1.5倍くらいの分量になっているので、同人誌版を既読の方も読んでほしいです。

夜のこと

夜のこと

  • 作者:pha
  • 発売日: 2020/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


大ざっぱなあらすじとしては、自分の今までの恋愛遍歴を元に小説にしたもので、二十人くらいの女性が出てきてセックスをしたりしなかったりする、さまざまな夜の話を集めた短編集です。
以下は本文からの引用です。

 今年の終わりに僕は四十歳になる。人生で一番恋愛沙汰が多かった三十代が終わろうとしている。
 歳をとるにつれて、少しずつ恋愛感情や性的衝動が減退してきているのを感じていた。ならば、記憶と性欲が薄れてしまう前に、体験したことを書き残しておきたい、と思ったのだ。
 シェアハウスで真上の部屋に住んでいた女性の話。ネットで知り合っていきなりセックスをした女性の話。カッターナイフをいつも手にしていた女性の話。夫と彼氏が両方いた女性の話。
 そんな話を次から次へと書いては、僕は彼女に送り続けた。恋バナが好きな彼女は、送るたびに「面白い」と言ってくれた。


短編の試し読みの第1回がウェブで公開されています。週一のペースで全4回が公開される予定です。

joshi-spa.jp


[追記1]
好きな物書きのお二人である、最果タヒさんとこだまさんに帯コメントを書いてもらいました。
www.cinra.net

最果タヒのコメント
「そこまでして幸せになりたいか? もう、面倒じゃね?」っていう人類の本音が、たくさん読めて幸せです。

こだまのコメント
こっそり書いてみたくなる。情けなくて後ろめたい「夜」のこと。昼と夜がつながらない人生のこと。
行き場を失った小説にはそんな力があった。

phaのコメント
20人くらいの女の子が出てきてセックスしたりしなかったりする短編集です。私小説は自分の恥ずかしい部分を出せば出すほど面白いと思っているので、隠さずに全部さらけ出しました。恋愛、セックス、交際、結婚は全部違っていて、その「ずれ」の中で考えたことを書いています。


[追記2]

序盤の導入部分の試し読みです。よかったら読んでみてください。

fusosha.tameshiyo.me


[追記3]
インタビューや対談を以下に追加していきます。

nikkan-spa.jp

著書『愛や家族を探して』で、普通の形にとらわれないさまざまな家族の形を紹介している、佐々木ののかさんとの対談です。恋愛、セックス、交際、結婚、それらをひとまとまりのものとして扱うことへの違和感の話などをしています。


ddnavi.com

ダ・ヴィンチニュースでのインタビューです。「恋愛は、惰性を打ち破るエネルギーになる」という話が好きな部分です。あと、悩んでいる人はみんな文章を書くといいと思う。

*1:この件については橋本治『三島由紀夫とはなにものだったのか』がすごく面白い本です