中流の暮らし(2)

 昨日の続きです。JILPTのなかの先生にご教示いただいたところクロ現ではなくNHKスペシャルであり、2回特集のうち1回めはすでに放送済とのことでした(
“中流危機”を越えて 「第1回 企業依存を抜け出せるか」 - NHKスペシャル - NHK、台風の影響で放送日が変更になったとか。なるほど放送に合わせてプレスリリースされたのでしょう)。2回めは9月25日のようです。いわく「かつて一億総中流と呼ばれた日本で、豊かさを体現した所得中間層がいま、危機に立たされている。世帯所得の中央値は、この25年で約130万円減少。その大きな要因が“企業依存システム”、社員の生涯を企業が丸抱えする雇用慣行の限界だった。技術革新が進む世界の潮流に遅れ、稼げない企業・下がる所得・消費の減少、という悪循環から脱却できずにいる。厳しさを増す中流の実態に迫り、解決策を模索する2回シリーズ。」だそうですよ。
 いや「この25年で約130万円減少」ってかなりの部分は高齢化と世帯人員の減少で説明できるんじゃねえかとか思うわけですが(良し悪しは別として)、それはそれとしてJILPTとNHKの共同調査の続きに戻りましょう。
 さて昨日ご紹介した前半とは異なり、後半は「中流」や所得からは少し離れて「意識」の調査がメインになってきます。まず「努力に対する考え」というのが来て、「日本では、努力さえすれば誰でも豊かになることができると思うか」への回答は「どちらかと言うと思わない」(47.7%)がもっとも高く、次いで「どちらかと言うと思う」(31.5%)、「全く思わない」(17.9%)、「強く思う」(3.0%)の順となっており、約3分の2では努力しても豊かになれないと考えているとの結果のようです。女性より男性、無配偶より有配偶、高卒等より大卒等、低年収より高年収のほうがより「なれる」と思っている割合が高いのはまあ予想どおりですが、収入を除くとそれほど目立った差とはいえない感じです(年収に関してはさすがに200万円未満と600万円以上で20%ポイントの差がある)。
 年齢階層別に見ると20代は45%と半数近くが「なれる」と考えていて頼もしいのですが、30代で4割に低下、40代以降は3割程度で横ばいであり、まあ年齢を重ねるにつけ人生の理不尽に遭遇して40代にはだいたい勝負がつくという、まあそんな感じでしょうか。就業形態別で面白いのは自営業者のほうが正社員より「なれる」が多く、またこれについては非正規・フリーランスのほうが無業者より「なれる」が多くなっています。こういうことを書くと激しく怒られそうな気もしなくはないのですが無業者については努力より「結婚運」が豊かさを左右することを実感している人たちがいるいうことではないでしょうか。
 次に「よい人生を送るための条件としてもっとも重要なこと」というのが5択できて、「真面目に努力すること」が46.1%で最多、次いで「よい教育を受けられること」が16.7%、「人脈やコネに恵まれること」が15.5%、「景気のいい時代に生まれ育つこと」が14.8%、「親の収入や学歴が高いこと」が6.9%という結果になっています。いや「真面目に努力」もなかなか健闘しているなと私は思うのですが、このあたりNスぺさんのご見解はどうなのかしら。女性より男性、無配偶より有配偶のほうが努力重視なのは想定どおりですが、学歴別にみると高卒等のほうが大卒等より明らかに努力重視となっています。でまあその差はどこで出ているかというともっぱら「よい教育」となっていて、高学歴者はそれなりに自らの学歴が恵まれているということに自覚的なようです。年収でみると600万円以上は52%と努力重視が多いのですが、それ以下の年収階層では40%台なかばでほとんど違いが見られないのも興味深いところです。あと目立つ結果としては「人脈やコネ」について無配偶18.5%に対して有配偶13.0%と大差がついているのはああという感じですし、若年層になるほど「真面目に努力」が少ないのに応じて「人脈やコネ」が多くなっているのもまあねえという感じです。これは時代背景によるものなのか単に結果が出てしまった人とこれからの人の違いなのか(まあ両方あるだろうと思う)、追加的な分析が期待されるところです。
 あと、例の「景気のいい時代に生まれ育つ」をみると実は性別、学歴、年齢による違いはあまりなく、差が出ているのが無配偶(16.6%)と有配偶(13.3%)、正規(14.0%)と非正規・フリーランス(17.3%)で、特に後者は「努力」の評価にあまり差がない(45.1%と44.6%)のもうーんという感じです。
 次がいよいよ中流危機とか中間層崩壊とかいう話のメインディッシュだろうと思うのですが「親より経済的に豊かになれると思うか」で、結果は「なれると思う」が 18.6%、「同じくらいの豊かさになると思う」が 27.7%と、計46.3%が同等以上は確保できると案外に強気であり、弱気な「なれないと思う」は36.2%にとどまっています(「分からない」は 17.5%)。まあ「かつて一億総中流と呼ばれた日本」であれば大半が強気だっただろうと思われるわけで、それに較べれば楽観できませんねと言われればそのとおりかもしれません。
 ここでも目立っているのは有配偶と無配偶の差で、有配偶では54.7%と過半が強気なのに対し、無配偶では36.1%にとどまっています。これには年齢の違いによる部分もありそうですが、年齢階級別にみると40代を底にして若年層と高齢層が強気になっているのでそれほど大きな影響はなさそうです。
 さらにこの設問に関しては「15 歳時の家庭の世帯年収階級別」という他にはない集計もされていて、これは回答者の半数以上が「わからない」と回答しているのですが、回答があった人を集計すると15 歳時の家庭の世帯年収が高いほど「なれると思う」割合が低くなり、「なれないと思う」割合は高くなるという結果が出ていて、どうやら「富める者はますます富み、貧しきものはますます貧しく」とは必ずしもなっていないといえそうです(まあ順当な結果だと思うのですが違うのでしょうか)。
 重ねてここでは「卒業時の労働市場の状況別」という集計もあり、20~24 歳の若年層の完全失業率が 7.5%を超えた年を「雇用状況が厳しい年」として、そこで卒業した人(全体の約1/4が該当)とそうでない人とで意識の違いを確認しています。結果をみると「厳しい年に卒業」では強気32.1%に対して弱気41.6%、そうでない人は強気48.0%に対して弱気34.7%という結果になっており、新卒就職時の雇用情勢の影響はかなりあるように見えます。これは就業形態別集計の正規と非正規・フリーランスの結果とよく似ていて、「雇用状況が厳しい年」に卒業した人に非正規・フリーランスが実際に多いのか、といったところの分析を見てみたいように思います。
 「なれないと思う」と回答した人にはその理由についても聞いていて、「親の時代と景気が異なるから」が 60.9%、「親とは就業先の給与水準が異なるから」が41.9%、「親に比べて、生活コストが上がっているから」が 39.1%、「親とは雇用形態が異なるから」30.3%という結果になっています。まあ数十年にわたって経済成長率が低下・低迷を続けているわが国においては妥当な結果といえましょう。「就業先の給与水準が異なる」は賃金が上がらないのが悪いと言いたいのかなあ。これはよくわかりません。
 最後は親より経済的に豊かになれるか、なれないかと、ここまでの価値観とのクロス集計で、まず「日本では努力さえすれば誰でも豊かになることができる」に関しては、強気な人は43-44%が肯定的なのに対して弱気な人は26%、「よい人生を送るための条件としてもっとも重要なこと」として「真面目に努力すること」をあげた人は強気な人では52-53%なのに対して弱気な人は38.5%、その分、「人脈やコネに恵まれる」「景気のいい時代に生まれ育つ」が明らかに多くなっています。まあ情においてうなずける結果と申せましょうか。社会との関わりについても強気な人ほど積極的、成功者に対する感情も強気な人はそれを見て発奮するのに対し弱気な人は羨望するという傾向があるようです。
 ということでプレスリリースのヘッダーは昨日ご紹介したように「 「中流の暮らし」を送るのに必要な年収を 600 万円以上とする割合が高く、過半数(55.7%)は「中流より下の暮らしをしている」と回答。4割弱は「親より経済的に豊かになれない」と考えており、そうした個人は「日本では、努力さえすれば誰でも豊かになれる」という考えに否定的な傾向」というもので、JILPTにしてはだいぶん価値判断をともなうものになっていますが、まあこれはNHKさんのご意向ということでしょうか。Nスぺは見逃し配信もあるようですが、さて見てみようか、どうしたものか。時間の無駄になりそうな予感もひしひしとする(失礼)のではありますが…。