No. 2115 マイケル・ハドソン:米国の新冷戦の巻き添えとなったドイツ

Michael Hudson: Germany as Collateral Damage in America’s New Cold War

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 欧米の評論家は、対ロシア制裁の影響をどれだけ過大評価していたかを認めたがらないだけでなく、ロシアが自国経済を方向転換させるという驚くべき仕事をしたことも認めたくないようだ。ロシアはヨーロッパの輸出品のほとんどを急速に代替し(自動車や航空機部品など、埋めるのが難しいものもあった)、貿易活動を中国、インド、トルコ、アフリカその他の「グローバル・マジョリティ」メンバーにシフトさせた。しかしロシアは自国主義国であり、原材料にも恵まれていた。対照的に、ドイツは、かつて依存していたロシアから非常に有利な価格で輸入していたエネルギーに代わる解決策は何もない。

 それにしても……もしドイツがノルドストリームの爆破事件の背後に米国がいると非難していたら、どうなっていただろうか?米国(とイギリスとバルト諸国)は、ドイツは非常識な言いがかりをつけ、邪悪なプーチンを手助けしていると叫んだだろう。そして、もしショルツがそうする勇気があったなら、ロベルト・ハベックやアンネレーナ・バーボックも米国と一緒にショルツを吊るし上げただろう。

以下、マイケル・ハドソン。ミズーリ大学カンザスシティ校経済学部教授、バード大学レヴィ経済研究所研究員。近著に『文明の運命』(2022年)。原著はメキシコ自治大学(UNAM)制作の『Investigación Económica(経済研究)』。

2022年以降のドイツ産業の解体は、中国、ロシアを孤立させ、その同盟国の繁栄と自給自足の高まりを米国の覇権に対する容認しがたい挑戦とみなす米国の地政学的戦争における巻き添え被害である。長く犠牲の大きい戦いになると予想される事態に備えるため、米国の戦略家たちは2022年、ヨーロッパをロシアとの貿易・投資関係から遠ざける先手を打った。事実上、彼らはドイツに産業自殺を図らせ、米国の従属国になるよう求めたのである。これによりドイツは米国の新冷戦の、最初の、そして最も直接的な標的となった。

2021年1月に大統領に就任したジョー・バイデンと彼の国家安全保障スタッフは、中国を米国の第一の敵と宣言し、中国の経済的成功を米国の覇権に対する存亡の危機とみなした。自国の軍事防衛を強化する中国の市場機会が欧州の参加を呼び込むのを防ぐため、バイデンチームは中国とその支持者を孤立させようとする動きの一環として、欧州を米国の経済軌道に引き込もうとした。そうすることで彼らの経済を混乱させ、新たな多極的経済秩序への希望を放棄させようとする民衆の圧力を生み出そうとしたのである。

この戦略には、欧州の対ロシア貿易制裁と、欧州が中国中心の新興共栄圏に押し流されるのを防ぐために中国との貿易を阻止する同様の動きが必要だった。米中戦争に備えるため、米国の戦略家は中国がロシアの軍事支援を受けるのを阻止しようとした。その計画とは、ウクライナを武装させることでロシアの軍事力を消耗させ、ロシアを血なまぐさい戦いに引きずり込み、願わくばロシアを政権交代させるというものだった。非現実的な望みは、ソビエト連邦を終わらせたアフガニスタンでの戦争に憤慨したように、有権者が戦争に憤慨することだった。そうなれば有権者はプーチンに代わって、エリツィン政権と同じような新自由主義的な親米政策を追求するオリガルヒ指導者を選ぶかもしれない。しかし結果は正反対だった。ロシアの有権者は、攻撃を受けている国民なら誰でもすることをした。プーチンの周りに集結したのだ。そして西側の制裁はロシアと中国により自給自足になることを強いたのである。

世界規模の新冷戦に拡大するという米国の計画には問題があった。ドイツ経済は工業製品をロシアに輸出し、ポストソビエト市場に投資することで繁栄を謳歌する一方で、ロシアのガスやその他の原材料を比較的安い国際価格で輸入していた。通常の条件下では、国際外交が国家の利己主義に従うのは自明の理である。米国の冷戦戦士たちにとって問題だったのはロシアとの有益な貿易を放棄するという不経済な選択をするよう、ドイツの指導者たちをいかに説得するかということだった。解決策はウクライナでロシアとの戦争を煽り、ロシア恐怖症を煽って、欧州の対ロ通商を妨害する膨大な制裁を課すことを正当化することだった。

その結果、ドイツやフランスをはじめとする国々は米国への依存関係に陥ってしまった。米国人が婉曲にオーウェル流の二重表現を用いてNATOが支援したこれらの貿易・金融制裁を説明するように、ヨーロッパは、3倍から4倍の価格で米国の液化天然ガス(LNG)を輸入し、ロシアとのビジネス関係を切り離し、製造業や化学製品の生産に必要なガスを得るために主要な工業企業のいくつかを米国(あるいは中国)に移転することによって、ロシアのガスへの依存から「解放」されたのである。

ウクライナの戦争に参加したことでヨーロッパの軍需在庫は枯渇した。現在、欧州は再軍備のために米国のサプライヤーを頼るよう圧力をかけられている。米政府高官はロシアが西ヨーロッパに侵攻してくるかもしれないという幻想を宣伝している。米国の兵器でヨーロッパを再武装させるだけでなく、ロシアがNATOの軍事費に対抗して自国の軍事費を増やし、自らを疲弊させることを期待しているのだ。ロシアの政策が、攻撃を続けさらにはエスカレートさせてロシアのクリミア海軍基地を奪い、ロシア解体の夢を追い求めるNATOの脅威に対する防衛的なものであるという見方は一般的には拒否されている。

現実には、ロシアは長期的な方針として東方への転換を決めた。世界経済は相反する2つの体制に分裂しつつあり、ドイツはその中間に立たされている。米国中心の覇権を維持するというアメリカン・ドリームに生きるという選択の代償として、ドイツは産業恐慌に見舞われている。米国人がロシアへの「依存」と呼ぶものは、より高価な米国のサプライヤーへの依存に取って代わられ、ドイツはロシアとアジアの市場を失った。この選択の代償は甚大である。ドイツの工業雇用と生産は終わりを告げた。それは長い間ユーロ圏の為替相場を支えてきた。EUの未来は長期的に下降線をたどることになりそうである。

これまでのところ、米国の新冷戦の敗者はドイツとその他のヨーロッパ諸国である。米国に経済的に臣従することは、急成長する世界市場との相互繁栄の機会を失うことに値するのだろうか?

Michael Hudson: Germany as Collateral Damage in America’s New Cold War