アゼルバイジャンとアルメニアがナゴルノ・カラバフという地域を巡って衝突している。そして両国と国境を接するイランは、これに頭を抱えている。アゼルバイジャンとアルメニアの衝突と書くと長いので勝手にアア衝突と略したい。


ソ連が崩壊した際に他の連邦の国々と同じようにアルメニアとアゼルバイジャンも独立した。その過程で、アゼルバイジャンの中にアルメニア人が多いナゴルノ・カラバフという地域が飛び地のように残った。


ソ連という1つの国の内部に両国が含まれていた際にも対立があった。2つの国に分かれてしまうと事態が、深刻化した。アルメニア側は武力に訴えてナゴルノ・カラバフを制圧した。しかも、この土地とアルメニアを結ぶ地帯も征服してしまった。ソ連崩壊後の1990年代の展開であった。アルメニア側の武力がアゼルバイジャン側を上まった結果だった。


そして、アルメニアは、この両地域から多くのアゼルバイジャン人を追放した。追われた人々はアゼルバイジャンの首都バクーの内外の難民収容施設で不自由な生活をしながら、故郷に帰る日を夢見てきた。これが大まかな状況だった。


さてアゼルバイジャンは石油と天然ガスに恵まれている。その豊富なエネルギー収入を投じて軍事力を育成してきた。特にイスラエルとトルコからの兵器の購入が目立っていた。そして9月にアア両国の間で軍事衝突が発生した。アゼルバイジャン側は、トルコ軍の支援を受けているようだ。しかもイスラエル製の最新のドローンなどで攻撃している。アルメニア側はスカッド・ミサイルで反撃している。


この衝突に両国と国境を接するイランは、苦慮している。というのはイランにはアゼルバイジャン系の人々もいるし、アルメニア人もいる。両国の対立はイラン国内での対立の引き金となりかねない。


イランは多民族国家でペルシア語のみを母語とする人々は人口の半分くらいである。他は少数民族ということになる。その中でも数も政治的な力も一番強いのがアゼルバイジャン系の人々である。イランではアーゼリーと呼ばれている。最高指導者のアリー・ハメネイも、その1人に数えられている。


また隣国のアゼルバイジャンにイスラエルの影響力が伸びて来るのはイランにとっては脅威である。イランが恐れているシナリオの1つはイスラエル空軍による攻撃である。核関連施設が狙われるのではないかとの懸念が長らく抱かれている。


救いはイランとイスラエルの距離である。イスラエルから重い爆弾を積んでイランを爆撃し帰国するのは、航続距離の問題からイスラエル空軍にとっても負担である。そこで帰りはイスラエルではなく、どこかイランの周辺国に着陸できれば、作戦はずっと容易になる。その候補の1つと噂されているのがアゼルバイジャンである。この国は独立後イスラエルとの関係を深めてきた。アゼルバイジャンとアルメニアのアア対立が、イランを憂鬱にさせている。


-了-


※『経済界』2021年1月号94ページ掲載