大前研一「ニュースの視点」Blog

KON822「新型コロナ/ドイツ/イギリス/イスラエル/国内イベント~新型コロナウイルス感染拡大に伴う各国の対応」

2020年3月30日 イギリス イスラエル ドイツ 国内イベント 新型コロナ

本文の内容
  • ドイツ 総額上限なしの信用供与実施
  • イギリス ベーシック・インカム検討の考え
  • イスラエル 感染拡大防止へサイバー技術を活用
  • 国内イベント 音楽ライブ中止などの対応策検討

EUが一丸となって事態を収拾することが最優先


ドイツ政府は13日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた企業などの資金繰りを支援するため、総額に上限を設けない無制限の信用供与を実施すると発表しました。

ドイツ政府はこれまで健全財政を重視して大胆な景気対策に及び腰でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて企業の救済に全力をあげる考えです。

ユーロ加盟国は財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内、債務残高はGDP比60%以内に抑えるように、EUはルールを定めています。

ドイツはこれまで他のEU加盟国に対して、頑なにルールを厳守するように求めてきましたが、今回の事態に至り、ルールを緩めてでも事態の収拾を最優先する態度を示しました。

実際ドイツ企業を見ても、非常に厳しい状況に追い込まれているところが多数あります。

例えば、ルフトハンザドイツ航空は米国便の多くが運休になるなど、全体としてもかなりの減便になっていて、国家として支援が必要なほど大打撃を受けていると思います。

独メルケル首相にとっても、今回の事態は新しい経験であり、自らの任期中にまさかこんな事態が訪れるとは思っていなかったはずです。

この緊急事態にいたって、何よりも自国民を守ることが最優先であり、同時にEU全体で見たときには、イタリアなど援助が必要な国もあるということを、EU各国の指導者は理解することが大切でしょう。




英ジョンソン首相の判断は見習う価値がある


国が無条件に国民に一定額を支給し、最低限の所得を保証するユニバーサル・ベーシック・インカムについて、英ジョンソン首相は18日、議会で導入の可能性について問われ、「考慮すべきアイデアの1つ」との見方を示しました。

英政府はすでに休業者への手当の支給や企業の資金繰り支援策を打ち出していますが、国民の先行き懸念が強まる中、さらなる対策も辞さない考えです。

英国のEU離脱を敢行したジョンソン首相に対して、私はずっと良い印象を持っていませんでした。

しかし、今回の事態におけるジョンソン首相の演説内容や打ち出した施策を見て、非常に好感を持ちました。

新型コロナウイルス対策で、英国政府は飲食店の休業要請を出しました。

ホテル、パブ、レストランなど、あらゆるところで失業者がでてきています。

それに対して、ジョンソン首相は、休業従業員の給与の8割を政府が補償するとしています。

ベーシック・インカムはこういう時こそ必要なものであり、素晴らしい判断だと思います。

いまだに満足な補償を定めきれていない日本政府とは対照的です。

日本でも、これまでの収入が途絶えた人が山のように出てきています。

企業の内定取り消しも相次いでいます。

こういう時こそベーシック・インカムでカバーするべきです。

例えば、再就職が決まるまでという条件を付けてもいいかもしれません。

日本の失業保険、生活保護の基準で考えれば、月額16万円くらいが妥当な金額だと私は見ています。

英ジョンソン首相の下した判断は申し分がなく、いずれも日本でも必要な施策だと私は思います。




イスラエルに遠く及ばない日本の監視体制


イスラエルのネタニヤフ首相は14日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ新たな対策として、通常は犯罪捜査の容疑者追跡で使うサイバー技術を活用すると発表しました。

感染者や自宅隔離を命じられた人たちが外出禁止などのルールを守っているか監視を強める必要があるとして、警察が携帯電話の通信データを傍受できるように許可するとのことです。

もともと監視はしていたと私は思いますが、それを正式に許可して体裁を整えたのでしょう。

ちなみに、香港、台湾などは同じようなことを実現できますが、残念ながら日本では行政が整っていないために実現できません。

日本で実現するなら、たとえばマイナンバーにSIMカードのような機能を搭載させてもいいかもしれません。




専門家会議が明確な条件を提示するべき


新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の自粛要請で、音楽のライブなどを開催できない事態を受けて、超党派の国会議員有志が対応策を協議する会合を開きました。

会合には興行事業者らで作る音楽関連団体が出席し、イベント中止による損害への経済的支援を要請しました。

有志議員らは今後、損失補償などの支援策を検討する考えを示しています。

音楽関連団体が立ち上がったということですが、こういう業界団体がないところもあります。

その点まで考慮して、対応策を考える必要があると思います。

また、損失補償するといっても、どうやってその損失を証明するのかなども課題でしょう。

そんな中、国や埼玉県が開催自粛を求めていた格闘技イベント「K-1」が、主催者判断により予定通り開催されましたが、ここにも問題が見え隠れしています。

今の日本の法律では、強制的にこういったイベントを中止させることはできません。

このこと自体も問題ですが、主催者判断で実施した場合、いつの間にか主催者が「悪者」として扱われてしまう風潮があることも問題だと私は思います。

また、そもそも主催者判断に任せるといっても、今のままでは判断することは非常に難しいと言わざるを得ません。

本来なら、主催者が迷うことがないように、専門家会議が開催するべきか中止にするべきかの判断材料を提示するべきだと私は思います。

イタリアや韓国でオーバーシュートした例など、世界各国で様々な現象が起きています。

それらを分析し、こういう条件で感染は起きやすいので中止にすべき、逆にこういう条件では感染は起こっていないので比較的安全、などの指針を示せるはずです。

それらを具体的に示すことこそ、専門家会議の役割だと私は思います。

こうした材料が提示されないまま、スポーツイベントなども、とりあえず無観客で行うという事態が続いています。

先日、千秋楽を迎えた相撲放送を観ましたが、明らかに盛り上がりに欠けていましたし、力士の取り組みにも気合が入っていないように感じてしまいました。

これだけ世界中に感染が広がり、逆に言うとさまざまな事例や条件が提示されてきているのですから、なんとなく自粛というのではなく、具体的な条件を提示し今後の方向性を示してほしいと思います。

安倍首相は「専門家会議の言う通りにしてくれ」などと発言していますが、そもそも専門家会議が提言していることが曖昧で意味不明ですし、この期に及んで安倍首相は何を言っているのでしょうか。

イベントの開催条件にしても、休業者の補償条件にしても、日本政府の対応は問題だらけだと感じます。

英ジョンソン首相の判断を見習って、もう少しまともな対応を見せてほしいところです。

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※この記事は3月22日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は新型コロナウイルス感染拡大に伴う各国の対応を大前が解説しました。

日本と海外各国の経済対策の違いが出てきています。

施策の違いは「何を問題とするか」という認識の違いから生まれているように感じます。

・これは誰の問題なのか?
・どういう問題なのか?

問題を正しく認識することから、問題解決が始まります。


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