日本で「コロナ倒産」が少ないワケ…これは“嵐の前の静けさ”なのか  確かに派手にばらまいたものの…

現代ビジネスに7月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74093

欧米では老舗企業倒産

新型コロナウイルスの蔓延にも関わらず、日本での死者が少ないことが疑問視されているが、同様に欧米と大きく異なることがある。経済の大収縮に伴う企業倒産が欧米に比べて少ないのだ。

これは安倍晋三首相が胸を張る「世界最大級の経済対策」が奏功しているのか。それとも「嵐の前の静けさ」にすぎないのか。

米国では大手企業の経営破綻が相次いでいる。米連邦破産法11条を申請して経営破綻し、会社更生手続きに入った企業を見ると、老舗や大手の企業にも経済収縮の波が襲いかかっていることがわかる。

5月には高級百貨店の「ニーマン・ルーカス」や老舗百貨店「JCペニー」、レンタカーの「ハーツ・グローバル・ホールディングス」が破綻。

それ以降も、ヘルスケアチェーンの「GNCホールディングス」、シェール開発大手の「チェサピーク・エナジー」、ピザハットウェンディーズを運営する「NPCインターナショナル」、そして、老舗アパレルブランドの「ブルックスブラザーズ」と経営が行き詰まるところが相次いだ。

米国では日系企業も例外ではなく、「無印良品」を米国で展開する良品計画の米国子会社が7月に入って破産法11条を申請したと報じられた。

米国だけではない。人の移動が止まったことで、世界の航空会社も軒並み経営危機に直面している。

5月にはタイ国際航空が破産法に基づく会社更生手続きを申請して経営破綻。6月末から7月上旬にかけて、メキシコの航空大手アエロメヒコ航空やブラジルの航空最大手LATAMグループなどが経営破綻している。

日本は「急増」見られず

ところが、である。日本は大手の経営破綻がほとんど起こっていない。企業倒産自体も目に見えて急増していないのが実情なのだ。

東京商工リサーチの調べによれば、6月の倒産件数は780件、前年同月の734件に比べれば増えているものの、昨年8月は802件で、10月の消費増税以降は700件台が続いてきた。新型コロナの影響で倒産が急増している、とは言えない状況なのだ。

これはなぜなのか。新型コロナの日本経済への影響が小さいから、というわけではないはずだ。

日本にやってくる訪日外国人旅行者の数は4月も5月も99%減っており、経済を下支えしていた「インバウンド消費」が消えている。

また、4月に出された緊急事態宣言による営業自粛で、百貨店の売り上げも4月は前年同月比72.8%減、5月は65.6%減と大幅に落ち込んだ。


6月に入って経済活動が徐々に再開されたものの、すでに速報が発表されている6月の新車販売台数(軽自動車を含む)は23%減と、「回復」と言うには程遠い状況だ。

記録的な低水準⁉

では、日本政府の政策が効を奏しているからなのだろうか。

安倍首相は1次補正と2次補正を合わせて事業規模で200兆円を超える経済対策を決めたことについて「GDPの4割に上る空前絶後の規模。世界最大の対策により100年に1度の危機から日本経済を守り抜く」と述べている。

国民ひとり当たり10万円の給付に加え、中小企業への「持続化給付金」や企業への資金繰り支援など「オールジャパンで圧倒的な量の資金を投入し、日本企業の資金繰りを全面的に支える」と強調している。

確かに、巨額の資金を「ばらまいた」結果、経営破綻の増加を抑えている面もある。

東京商工リサーチの調査では、5月の倒産件数は314件と前年同月の半分以下に急減した。4月は743件だったから、まさに急減である。水準としては1964年6月の295件以来、56年ぶりの記録的な低水準だったという。

政府が支えた宿泊・外食・小売

東京商工リサーチでは、「政府の資金繰り支援に加え、リスケ対応も動き出した。また、新型コロナ感染拡大で裁判所の一部業務の縮小や、手形の不渡り猶予などの支援策に加え、経済活動を休止していた企業・店舗の再開や廃業、倒産の判断先送りも記録的な減少を後押ししたとみられる」と分析していた。

経済活動が止まってしまったため、法的処理などが進まず件数が減ったというわけだが、政府の対策が下支えになったことは間違いない。


新型コロナの影響が最も大きいのは「ホテル・旅館」など宿泊業や、居酒屋やレストランなどの「外食」、衣料品などを扱う「小売店」といった業種だ。

こうした業種では、東京や大阪など大都市圏を中心に、営業を停止するところが相次いだ。店舗を閉めていれば、水道光熱費や食材や在庫の仕入れなども止まる。

家賃や人件費は簡単には減らないが、中にはパートやアルバイトを雇い止めしたところもある。人件費を払っていても休業中の人件費は「雇用調整助成金」などで政府が事後補填してくれる。2次補正予算では家賃の助成も組み込まれた。つまり、「休業」していることで、何とか耐え忍ぶことができ、倒産を免れていたわけだ。

営業再開後が恐ろしい

問題は今後、である。6月以降、営業を再開すれば、政府からの助成金は期待できなくなる。

売り上げが元に戻れば問題ないが、良くても前年同月の7割から8割という声が多い中で、今後、経営問題が深刻化してくる。

お店を開ければ当然、水道光熱費も、従業員の人件費もフルにかかる。仕入れも再開しなくてはならない。企業倒産は景気がどん底の時よりも、回復期に増加するとされる。支出の増加に売り上げが追いつかず、資金繰が悪化するからだ。


固定費が大きい、大手の外食チェーンなどが、早々に店舗閉鎖などを打ち出しているが、売り上げが2割減少すると仮定した中で、固定費を吸収できる態勢作りを急いでいるとみられる。

当然、雇用も「聖域」ではなく、人員削減が始まることになる。雇用不安や賃金の減少などが起きれば、それが消費の減退に結びつき、さらに企業経営を圧迫する「デフレ・スパイラル」に再び突入することになりかねない。

どうやら現状は「嵐の前の静けさ」だと覚悟しておく方が良さそうだ。