『まなぶ』(2020年4月号、40~41ページ)に掲載された連載エッセイの拙文です。ちょうど百回目となります。


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民主党の大統領候補者選びが進んでいる。2月に最初の党員集会のあったアイオワ州と、そして、やはり同月に最初の予備選挙を行ったニューハンプシャー州の両州では、ピート・ブティジェッジとバーニー・サンダースが、トップを僅差で争った。


どちらの州も白人の割合が圧倒的に多い。しかし、これから党員集会や予備選挙の行われる州では、黒人つまりアフリカ系の人々やラテンアメリカ系の人々の割合が多くなる。勝負は黒人とラティーノとかヒスパニックと呼ばれるラテンアメリカ系の人々の支持をだれが獲得するかである。


黒人に関しては、ジョー・バイデン候補への支持が強いとされている。オバマ前大統領の黒人の間での支持率は9割を超えていた。これが、そのまま、オバマの忠実な副大統領を8年間務めたバイデン支持へと翻訳されるかどうかが注目される。アフリカ系の人口はアメリカの総人口の13パーセントを占める。実数でいうと4千万人である。ちなみにアメリカの総人口は3億2千万を超えている。


さらに大きな存在がラティーノである。つまりヒスパニックである。ヒスパニックの人口は約6千万人でアメリカの総人口の18パーセントに当たる。2016年の民主党の指名を争う予備選挙において、ヒスパニックの支持では、ヒラリー・クリントン候補がサンダースに差をつけた。黒人の支持でもクリントンはサンダースを上回った。


人口の面でアメリカ最大の州はカリフォルニアである。その有権者の3割はヒスパニックである。2番目に大きいテキサス州でもヒスパニックの割合は3割を超える。しかも伝統的に低いとされてきたヒスパニックの投票率が上がっている。18年の中間選挙でのヒスパニックの投票率は、その前の選挙の2倍であった。


サンダース陣営は、そのヒスパニックに的を絞った戦略を展開してきた。移民してきたばかりの層の多いヒスパニックに向けては、サンダース自身が移民の子であると強調している。サンダースの父親はナチスから逃れてポーランドからアメリカに到着した。お金は持っていなかったし、英語もしゃべれなかった。自分は、そうした貧しい移民の子なのだ。だから多くのヒスパニックの境遇が実感できるのだと訴えている。


また、大統領に就任すれば、初日にトランプが大統領権限で下したさまざまなヒスパニックに不利な決断を覆くつがえすと公約している。そして移民法を根本的に改正して、すでにアメリカ国内で生活する違法状態のヒスパニックの人々が市民権を得やすくすると訴えている。その数は推定で700万人以上だ。もちろんこの人たちに投票権はないので、サンダースに投票はできない。しかし、その親族などでアメリカ市民権を持っている人々は、相当な数になるだろう。サンダース陣営はこの人たちの支持を求めている。その一つが、ヒスパニックに配慮したキャンペーンである。たとえば、スペイン語のツイッターを発信したり、サンダース支持のヒスパニック系の政治家の助けを借りてスペイン語での集会を主催したりしている。


そして、サンダース候補のヒスパニック対策の切り札は、アレクサンドリア・オカシオコルテス議員の応援である。


この30歳の史上最年少の女性議員は、いまのアメリカでは一番「旬しゅん」な政治家である。バーテンダーなどで生計を立てていた人物だが、草の根的な選挙活動で2018年の中間選挙で彗すいせい星のように登場した。シンデレラ・ストリーの主役である。オカシオコルテス議員はプエルトリコ系であり英語とスペイン語を操あやつるアメリカの進歩勢力のアイドル的な存在である。そもそも自分が政治を志したのは、生涯をかけて貧しい人々のためにたたかってきたサンダースの進歩的な政策と姿勢に共鳴し共感したからだと、熱く熱く支持を訴えている。


78歳で心臓発作の経験のある候補者中の最年長のサンダースを最年少の議員のコルテスが応援している。ヒスパニックの支持を得て当選すれば、オカシオコルテスはサンダースを大統領にした女と呼ばれるだろう。


-了-