- 本文の内容
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- 国内エネルギー政策 エネルギー危機、日本の選択
- 電気料金 電気代、世界で上昇続く
- 韓国原子力政策 韓国原発回帰「小型」に照準
- 福島第一原発事故 岸田首相、福島県葛尾村を視察
予備率と省電との二本柱でいくべき
次の冬が厳冬となった場合、電力需要に対する供給の余裕を示す予備率が東電管内で-0.6%に落ち込む見通しです。
火力発電所の相次ぐ休廃止や原発再稼働の遅れなど、抜本改革を放置してきたツケが回ってくることになるかもしれません。
私の意見は3.11以降に何度も繰り返している通りです。
予備率だけで乗り切ろうとせず、節電・省電をもっとやるべきなのです。
3.11以降、日本の電力供給は極めて不安定になり、脱炭素の流れからも逆行しています。
この状況下でブラックアウトを絶対に起こさないためには、予備率5%以下は緊急事態、3%以下の時には何らかの強制的な制限をかけるといった仕掛けが必要で、国民もこの制限に協力すべきです。
一方で、節電・省電の取り組みももっと推進しなくてはいけません。
効率のいいコンプレッサーとモーターの導入やLEDへの切り替え、そして家屋の断熱性向上を徹底すれば、電力使用量は半分くらいに減らすことができます。
予備率は今よりも厚めに安全バッファを持ち、節電・省電を徹底することが電力の安定のために必要な施策です。
燃料の消費削減から燃料不足へ急転回
日経新聞は8日、「電気代、世界で上昇続く」と題する記事を掲載しました。
政府のエネルギー白書によりますと今年2022年3月の電気代は2019年1月に比べてEUで4割、日米で1割増加しました。
ヨーロッパは値動きの大きい天然ガスのスポット価格と連動するため上昇が大きいとし、エネルギー価格がけん引するインフレが新型コロナ禍から回復してきた個人消費を冷やしかねないとしています。
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で国際的に合意したCO2の排出削減目標があるにもかかわらず、世界では燃料に対して100兆円もの補助金が使われています。
天然ガスの先物価格も2020年の水準から約3倍に急騰しており、エネルギー・燃料をめぐる潮流は大きく変わりました。
足踏みする日本を尻目に世界の原子力は先へ行く
韓国の財閥系企業が原発設備に相次いで参入しています。
SKが次世代小型原発を開発する米国・テラパワーと提携したほか、サムスン重工業は洋上式でデンマーク企業と組むということです。
日本が原子力活用を躊躇している間に、韓国が先に行ってしまったような形です。
現在小さな原子炉を集めて運用する小型モジュール炉(SMR)が注目されていますが、韓国もテラパワーと組むことでこうした安全性の高い次世代の原子力発電に踏み出しました。
現在の世界の建設中・計画中の原発基数を比較すると、かつて東芝が保有していたウェスティングハウスのAP1000のような安全性が高い原子炉が中国で続々と実績を上げています。
一方で、日本の原子力発電所は建設中のものも計画中のものもすべて止まっています。
せっかく日本は原子力の強みがあったのに、3.11のショックで二の足を踏んでいるうちに中国にも韓国にも先に行かれてしまいました。
核燃料の処理に関しても、むつ小川原でのガラス固化体の処理やプルサーマル計画などは完全に止まってしまっています。
日本の問題は、政府にも議会にも原子力の専門家がいないことです。
担当者はいても専門家ではないため、政治的なリスクを避けるために何もやりたがらない人ばかりです。
岸田政権では原子力には前向きに取り組むと明言していますが、誰がやるのかをはっきりさせないと事態が前に進むことはないと考えます。
現実と当事者の生活に立脚した問題解決を望む
岸田首相は5日、福島第一原発事故からの復興状況を視察するため、福島県葛尾村を訪れました。
帰還困難区域は12日に一部で避難指示が解除され、居住再開につながる初のケースとなります。
岸田首相は住民らへの挨拶で「将来的には必ず、すべての避難指示解除を成し遂げたい」と語りました。
住民の帰還を目指すには時間が経ちすぎてしまったように思います。
3.11から10年以上が経ち、既に避難先や近隣の大都市へ定住している方々がほとんどです。
さらに、今の避難区域は生活インフラがなく、コンビニ一つありません。
元々高齢者が多い過疎地域だったのに、被災から10年経って今さら避難指示を解除されたところで、戻って来られる人は十数人だと考えられます。
私に言わせれば、双葉町、大熊町は国が買い上げるしかないと思います。
原発から北西方向の風によって汚染されてしまった地域に関しては、帰還を前提としない使い方を考えるべきです。
もし住民の方が帰還を望むのであれば、ある程度の人数を集めて帰還後の生活をどうするかも検討したうえでの帰還計画を立てる必要があります。
そうでなければ、あまりにも現実の生活を軽視していると言わざるを得ません。
いずれにせよ、政府の対応は後手に回りすぎていました。
帰還を前提に進めるのであれば、もっと人々の生活をよく考えたうえでの解決策を出してほしいところです。
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※この記事は6月12日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は福島第一原発のニュースを大前が解説しました。
大前は帰還困難区域について「東日本大震災から10年以上経過して生活インフラがなくなっており、たとえ戻っても生活が難しい状態になっている」と現地の状況を踏まえて指摘し、「帰還を前提として進めるのであれば、人々の生活をよく考えた上で解決策を出すべき」と述べています。
解決策を立案する際は目の前のゴールに囚われすぎないよう注意することが必要です。
あるべき姿を再確認し、真の課題解決のためにはどのような解決策がふさわしいか検討することが求められます。
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