大前研一「ニュースの視点」Blog

KON847「英国情勢/英EU離脱問題/日英貿易~移民は本当に英国民の仕事を奪っていたのか?」

2020年9月21日 日英貿易 英EU離脱問題 英国情勢

本文の内容
  • 英国情勢 揺らぐ「移民制限論」
  • 英EU離脱問題 EUとの合意なければ「FTAなし」
  • 日英貿易 EPA締結で大筋合意

英国の移民は、決して仕事を奪っていたのではない


日経新聞は2日、「揺らぐ『移民制限論』」と題する記事を掲載しました。

英国が移民を締め出し、主権を取り戻す狙いで1月末に欧州連合(EU)から離脱したものの、直後に襲ったコロナ禍で医療や介護など様々な分野が移民依存であることが浮き彫りになったと紹介。

現実を直視し、移民制限を緩めるべきとの声が強まる一方、ナショナリズムの壁も厚い現状としています。

英国は母国語が英語ということもあって、移民が生活しやすい国です。

医療関係、介護関係、税理士や弁護士といった士業など、幅広い職種で移民が働いています。

その様な状況で、英国は強引に移民を制限してEU離脱を図っています。

もともと英国の主張としては「移民が英国民の仕事を奪っている」ということでしたが、実際はそうではないということでしょう。

移民は仕事を奪っていたのではなく、英国社会の必要なところを支える重要な役割を果たしてくれていたわけです。

英国における外国人労働者の中で、医療関係のスタッフの出身国を見ると、インド系やパキスタン系など移民が無視できない存在感を示しており、医師、看護師も海外出身者が少なくなく、このような人達が全員いなくなってしまうと大変なことになるのは当然でしょう。

医療関係の人たちに限らず、税理士や弁護士などもインド系や東欧系の移民が大勢働いています。

こうした実情を理解せずに移民を締め出してしまったら、英国はもはや国として成り立たないレベルになってしまうかもしれません。




今さら、北アイルランドに風穴をあけたい英国の主張は受け入れられない


英ジョンソン首相は7日、欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)をめぐる交渉について、「10月15日に開かれるEU首脳会議までに合意できなければFTAなしを決断すべき」との声明を発表しました。

一方、EUのフォン・デア・ライエン欧州委員長は9日、英国政府が議会に提出した法案が離脱協定の一部を修正する内容だと英国政府を批判しました。

これは予想通りのことで、英国の都合が良い条件のみを押し付けて簡単にEUを離脱できるわけがないのは当初からわかっていたことです。

離脱協定では、北アイルランドとアイルランド共和国間は、歴史的な背景も考慮して、国境を越えた自由な貿易を許可する、となっています。

すなわち、パスポートコントロールや税関チェックなしで自由に行き来できるようにする、というものです。

一方、EUは北アイルランドと英国本土間に関しては検問が必要になる場合があるという見解です。

ジョンソン首相は英国議会の承認を得るためにそうした義務付けの排除を主張していますが、EU側からすれば、北アイルランドに風穴が開いてしまうことになるので、到底容認することはできないはずです。

今頃になってこんな国際法に違反することを言い出すとは、私としてはジョンソン首相に呆れるばかりです。




日本と英国の貿易など規模が小さすぎて喜ぶに値しない


日経新聞は11日、「EPA締結で大筋合意」と題する記事を掲載しました。

日英両政府が11日、経済連携協定(EPA)の締結で大筋合意し、日本と欧州連合(EU)とのEPAの優遇関税をおおむね踏襲すると紹介。

また茂木外相は「日EUの下で日本が得ていた利益を継続し、英国にある日系企業のビジネスの継続性も確保することが可能となる」と語ったとのことです。

英国の主な貿易相手国を見ると、輸入相手としても輸出相手としてもEUが圧倒的にトップです。

米国、中国と続いていますが、EUには遠く及びません。

日本は輸出相手国としてはほとんど影響力がないほど下位で、輸入相手国としても中の下レベルです。

茂木外相は英国との間にEPAを実現させたと息巻いているようですが、私に言わせると、正直言って規模が小さすぎてお話になりません。

英国にとっても日本にとっても喜べるレベルではないと思います。

言うまでもなく、英国にとってはEUとの関係性のほうが極めて重要です。

それを解決せずに10月15日を迎えてしまうと、合意事項がないままにEUを離脱する、という最悪の事態になります。

もしそうなってしまったら、スコットランドは「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」から独立して、スコットランド単体でEUに加盟すると明言しています。

その際には国民投票でも合意する人が多くなるでしょうから、本当に「連合王国が空中分解する」という事態に発展してしまう可能性があります。

そうなると、北アイルランドもひと悶着あるかもしれません。

英国がEUから離脱して孤立してしまったら、北アイルランドはもはやアイルランド共和国の一部といったほうが実態に近くなります。

今でも北アイルランドには、英国国教会とカトリック教会が混在しています。

かつて北アイルランドの領有を巡って英国とアイルランド共和国は争いましたが、再び北アイルランドは血を見てしまうかもしれません。




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※この記事は9月13日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は英国情勢のニュースを大前が解説しました。

大前は「『連合王国が空中分解する』という事態に発展してしまう可能性がある」と述べています。

ニュースを読むときには、事実を知るだけでなく、「いま起こっていることが今後どのような影響を及ぼすのか」考えることが大切です。

思考力は、日々のニュースからも鍛えることができます。


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