- 本文の内容
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- 行政デジタル化 運転免許証のデジタル化など議論
- 中小企業支援策 委託、制度設計詰め甘く
- はんこ文化 5月にはんこ議連会長を辞任
日本の行政デジタル化の遅れは深刻
政府は先月23日、行政のデジタル化を進めるワーキンググループの初会合を開きました。
会議では運転免許証や国家資格証のデジタル化、および、それらをマイナンバーカードや外国人在留カードなどと一体化することなどが議論されました。
政府はこれらの意見を踏まえ、年内に工程表を作成し、実現可能なものから順次実施していく方針です。
ようやく政府自身がマイナンバーカードの問題を自覚したようですが、それでもなお既存のマイナンバーカードを活用しようとする理由がわかりません。
私に言わせれば、マイナンバーカードなどは捨て去って、ゼロベースで国民データーベース・コモンデータベースを作るべきです。
これは私が27年前からずっと一貫して主張していることです。
結局、ゼロベースで新しく作っても、政府は「マイナンバー」という呼称を残すなど小賢しい作戦に出ると思いますが、それでも構いません。
重要なのは、サイバーゼネコンの手垢がついた役に立たないマイナンバーカードではなく、きちんと機能するモノを作ることです。
主要国の番号制度を見てみると、年金や保険とからめて運用している国が多くなっています。
例えば、米国は年金番号、英国は保険制度の番号、ドイツは納税者番号になっています。
日本のマイナンバーのように、全く個人番号として機能していないものなど見当たりません。
菅官房長官は、今頃になって「コロナで社会のデジタル化の遅れを認識した」などと発言していますが、呆れるしかありません。
IT化・デジタル化できる政治家が日本にはいない
日経新聞は先月23日、「委託、制度設計詰め甘く」と題する記事を掲載しました。
2020年度補正予算の主な事業のうち、旅行需要の喚起策は8月にずれ込むほか、家賃給付も7月以降になる公算とのこと。
高額な委託費が問題となったことで、省庁を分けて事務局を募集することになったほか、給付の条件を定めるのに難航し時間がかかったことが要因で、このままでは支援を必要とする事業者にいつまで経ってもお金が届かない、としています。
わけのわからない組織に委託され、それが電通経由でまた、おかしな業者に委託されていきます。
10万円給付も、いくつかの自治体では90%以上配布が完了しているようですが、自治体によってはまだ3%程度しか配布できていないところもあります。
こんなことでは、今後の家賃給付はさらに厳しいことになるでしょう。
証拠書類も必要でしょうし、まともに対応できるとは全く思えません。
ここに来て、日本全体が番号制度の活用を軽視してきたツケが、明るみに出てきてしまったという印象です。
政府は「新型コロナ経済対策200兆円超」と発表していますが、実体としては影も形もありません。
「何とかしなくてはいけない事態」だと、事の重要性にようやく気付いたようですが、現実問題として「何とかできる人物がいない」というのが、根本的な問題です。
他国の例を見ると、組織上は「デジタルIT化大臣」が担当することになるのでしょうが、日本には完全に合致する職がありません。
現状で言えば、総務省の管轄が妥当かもしれませんが、総務相の高市氏が適任かと言われると難しいでしょう。
経済再生担当相の西村氏も得意な分野ではないと私は感じますし、適任者が全く見当たりません。
はんこ議連をめぐる辞任劇は、最初からずれている
同様に適任者とは程遠い事例で言えば、竹本IT・科学技術担当相は先月26日、自民党の「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(通称:はんこ議連)の会長職を5月に辞任したことを明らかにしました。
「はんこ議連の会長を務めていると、デジタル化に反対だと思われるので辞任した」と竹本氏は発言していますが、この発言そのものがおかしいと私は感じます。
はんこ議連は、もともとデジタル化・IT化に反対の組織であることは自明です。
IT・科学技術担当相になった時点ですぐに辞任しているべきで、いまさら何を言っているのでしょうか。
また、竹本氏がIT・科学技術担当相に相応しいのかという点も、それらしい経験もなさそうですし、私は大いに疑問を感じます。
こうした事例を見ていると、いま、真面目に日本という国の中で、政府をデジタル化しようと考えている人は、少なくとも政治家の中にはいないと私は感じます。
非常に残念でなりません。
政府の的はずれな施策は、デジタル化以外にも
行政のデジタル化のみならず、政府の施策は的外れなモノが続いています。
話題になっている、旅行業や観光業支援のために打ち出した施策「Go To Travel キャンペーン」も、私に言わせれば、経営を理解しない政治家による的外れなモノです。
確かに旅行業や観光業は、このコロナ禍の影響で大きく傷ついているので、経営を支援してあげるべきです。
しかし、「Go To Travel キャンペーン」のように旅行代金そのものを支援するのは良くないのです。
なぜなら、支援施策でお金そのものを出してしまうと、旅館や飲食店などが「自分たちで値段を決められなくなってしまう」からです。
経営にとって、顧客との接点を持ちながら、価格を設定する能力は非常に重要な要素です。
安易にお金を支援することで、それが歪んでしまうのです。
以前、富士山静岡空港が利用者増加を図るために、5億円の財源を使って、「空港を利用して静岡に宿泊したら1万円プレゼント」というキャンペーンを実施したことがあります。
中国から観光客が殺到し、一時的には賑わいました。
しかし、5億円を使い果たしてキャンペーンが終了したときには、また元の状態に戻ってしまいました。
こうした安易にお金をあげるという施策は、会社の経営にとっては「モルヒネ」のようなものであり、長い目で見て全く役に立つものではないと私は思います。
私が経営している「ATAMI せかいえ」でも、もしかすると今後の状況によっては値段を下げざるを得ないかもしれません。
しかしそれは、顧客とのコンスタントな接点を保ちながら値段を設定していくという重要なことであり、それをないがしろにするべきではありません。
日本の政治家は、経営の経験もなく積極的に勉強することもないから、このようなことを理解しておらず、的外れな施策ばかりになってしまうのでしょう。
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※この記事は6月28日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は行政デジタル化のニュースを大前が解説しました。
大前は「マイナンバーカードなどは捨てて、ゼロベースで国民データーベースを作るべき」と述べています。
問題解決に取り組む際、ゼロベースでの作り直しを考慮することで、より良いアイデアが生まれることもあります。
「もったいない精神」はいったん抜きにして、まっさらな状態で最善の案を見極めることが大切です。
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