都知事選については先日、高橋亮平のコラムでも『データで見る都知事選と、永田町で噂される9月解散総選挙・小池総理の可能性』と書かせてもらったが、今回は、同日に実施された東京都議会議員補欠選挙について、データから来年実施される都議選の本選などについて想定しながら、今回の都議補選の真の勝者は誰だったのかを考えてみたい。

今回、都議補選が行われたのは、大田区、北区、日野市、北多摩第三の4選挙区。
大田区と北区は、維新の柳ヶ瀬議員と音喜多議員が共に参議院選挙への転身で辞職して欠員になった議席を、日野市は、自民の古賀 元議員の死去による欠員、北多摩第三は、共産のいび 元議員の辞職による欠員となった議席を、それぞれ補うために実施されたものだった。
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元々議席を持っていた政党からすれば、その議席は守りたいものとも考えがちだが、複数議席を争う本選の都議会議員選挙と、欠員となった1議席を争う補欠選挙とでは、その情勢は大きく異なる。
先日のコラムにも書いたが、自民党にとっては、今回の4つの都議補選に全勝したことで、早期解散への追い風が吹き始めている。
1議席を争う都議補選は、2021年に行われる都議選の本選より、衆議院選挙の小選挙区の構図と似ている。
選挙で自公が連携すれば勝てることが見えたことが、衆院選における小選挙区での勝算が見えてきことが背景にあるからだ。

さて今回は、そんな都議補選を来年の都議本選でどう影響するのかという視点で、あらためて選挙区別に見ていくことにしたい。
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まず最初は、定数8と都議選の中でも最大となる大田区から見ていこう。
先述の通り、2017年の都議選で唯一の維新の議席だった柳ヶ瀬議員が、参院選出馬のために辞職して欠員となった1議席を争うことになった選挙に、自民党の元職の鈴木氏のほか、野党共闘候補として立憲の松木氏、維新の松田氏など今回の4補選で最多の6候補が乱立した。
結果の得票だけを見ると、自民の鈴木氏が11万票を獲得して圧勝という形にも見えるが、次回都議選を考えると、鈴木氏にとっては、非常に厳しい結果とも言えるかもしれない。
前回行われた2017年の都議会議員選挙は、小池知事による都民ファーストブームが起こった選挙であり、自民党にとっても、民進党にとっても大変な逆風の中で行われた選挙だった。
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大田区での都議選、都議補選の得票を政党ごとに推移で見ていくと、2013年に自民・公明を合わせると13万票獲得していたものが、2017年の逆風の中で自民党単独では2万票ほど減らしているが、公明党が5千票ほど増やし自公では12万票と微減。
これが今回の補選では、自公連携の中にあったにも関わらず、自民候補の鈴木氏が獲得したのは、さらに1万票少ない11万票だった。
野党共闘の枠組みについても見ていこう。
都議選本選においては、旧民主党系と共産党はこれまで連携することはなく、むしろ単独政党としてそれぞれ所属候補で戦ってきたわけだが、この民主系候補と共産系候補の得票を足して仮に野党共闘票としてその得票の推移を見ていくことにする。
2013年の都議選では、民主候補と共産候補の得票を足すと5万5千票ほどだったが、2017年の都議選では共産党が躍進したこともあリ6万票ほどに増えていた。
これが今回の都議補選ではさらに上乗せし、7万票ほどに伸びた。
このことから考えると、立民候補は3着になったものの、2021年の都議本選では野党共闘枠で2議席、上手く枠配分すれば3議席の可能性すら見えてきたようにも見える。
しかし、そうは言っても野党共闘で今回積み増ししたのは1万票ほど。
今回の大田区における都議補選で各党が本来めざすべきは、2017年の選挙で都民ファーストが獲得した9万票ほどをどこが上積みできるかということだったはずだ。
この争いは、結果的には、維新の1人勝ちだったことが見えてくる。
維新は、2013年の都議選では2人擁立で2万5千票以上獲得していたが、2017年の本選では柳ケ瀬氏に1本化したことで2万票ほどに減らしたものの維新唯一の都議会の議席を確保したのがこの選挙区となった。
この票が、今回の都議補選では一気に8万票ほどまで約4倍に伸びているのだ。
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今回の自民党候補の11万票を自公連立が最大限に機能した票だとすると、この内約5万票は公明党の票ということになる。
今回の補選で鈴木氏が当選したことで自民党の現職は3人になったわけだが、3人で6万票しかないと考えると、現職とはいえこの票数だけでは3人全員の当選は非常に厳しい状況になる可能性が高い。
候補者を2名に絞れば確実に当選できるだろうが、今回の補選で現職が3人に戻ったことで、逆に本選に大きな課題が生まれた可能性もある。
この大田区の情勢だけで言えば、小池知事や都民ファーストがどうなっていくのか、自民党の関係性などにも大きく左右されることになりそうだ。
一方で維新は今回の得票だけ見れば3議席を取れるだけの得票。
本選には都民ファーストの現職2人が出てくるほか、来年の都議選までには政界再編なども含め、この枠組がどうなって行くかはわからないが、維新と都民ファーストを合わせて2議席はほぼ確定、3議席も見えてきている。
今回の得票だけ見ると、大田区は維新で松田氏ともう1枠合わせ2議席も固くなってきているのではないだろうか。
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野党共闘の方も2から3枠を争う構造になりそう。
共産は2人擁立しても当選は現職1人、立憲も松木氏に1本化すれば1議席は確実だと思える。
不確定要素としては、今回の都知事選でも一定数の得票のあったれいわなども候補者を出せば議席を獲得する可能性があり、その擁立の仕方によっては立憲は影響を受ける可能性もある。
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では続いて2つ目の選挙区、北区を見ていこう。
北区の都議会本選は3議席、2013年の都議選では4議席から2017年の都議選では3議席に減ったことで激戦となり、現職の自民党都議が落選し、3議席の選挙区でありながら自民党が議席を持たないという2017年の都議選の象徴的な選挙区の1つとなった。
ちなみにこの落選した都議は、その後の衆議院選で比例当選し、現在は衆議院議員になっている。
今回の都議補選は、現職だった音喜多議員が、参院選出馬のために辞職して欠員となった1議席を争うことになった選挙に、自民党の山田氏、都民ファーストの天風氏、維新の佐藤氏、立憲の斉藤氏など5人が立候補した。
維新の参議院議員となった音喜多氏の議席であることから維新としても重要選挙区だが、2017年当時音喜多氏は都民ファーストに所属して取った議席でもあり、都民ファーストとしては現職のいない選挙区ということで今回の補選で唯一新人候補を擁立した。
結果は、自民党の山田氏が5万票を獲得したわけだが、次回都議選を考えると、この選挙区の山田氏にとっても、非常に厳しい結果とも言えるかもしれない。
北区での都議選、都議補選の得票を政党ごとに推移で見ていくと、2013年の都議選では自公候補の得票数を合わせると6万3千票、2017年は自民党は5千票減らして現職を落選させたが、公明党は6千票増やしており、自公でも6万4千票と増やしている。
ところが今回、この自公票は5万2千票へと1万2千票も減らしているのだ。
一方で野党共闘の方も、2013年の都議選の民主票と共産票を合わせると4万5千票あったものが、2017年の都議選では3万8千票に減らし、今回の都議補選ではさらに3万6千票へと減らしている。
今回の北区の補選で最も注目されたのが、都知事選の小池知事とのセットで選挙を行なった際に都民ファーストがどれだけ取るかというところだったが、大方の予想通り不発に終わった。
面白いのが、2017年の都議選で音喜多氏が都民ファーストで圧勝した際に獲得した票が5万6千票だったが、今回、都民ファーストと、音喜多氏が所属する維新の得票を合わせると5万7千票と、ほぼ同じ票が出たことだ。
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今回の補選を受けて、現状のデータから2021年の都議選を予想すると、北区の3議席のうちの1議席は実質、公明党で確定している選挙区。
残りの2議席を自民党、共産党、第3局で争うことになるのだが、今回の都議選の立憲票を見ると2017年の票を共産が維持していれば、1議席は共産で、立憲は厳しい状況になる。逆に共産が票を減らして立憲に流れていると共倒れの可能性もある。
今回で2議席目に一番近づいたのは維新の佐藤氏だと言える。
むしろ当選した山田氏は上積みされたであろう公明票を差し引いて考えると逆にかなり厳しい状況だと言える。
3議席目を共産と自民が争う構造は変わらずで、野党共闘で候補者1本化などしてきた際には、自民がまたもや議席を失う可能性すらある。
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3つ目の選挙区は、日野市。
今回の4都議補選で個人的に最も驚かされたのが、この選挙区でもある。
今回の都議補選は4選挙区とも自民党が議席を取ったわけだが、2位の惜敗率を見ると、大田区の松田氏(維新)が71.8%、北区の斉藤氏(立憲)が69.3%、北多摩第三の田中氏(共産)が57.6%だったのに対し、日野市の清水氏(共産)は75.4%と、当選した自民候補の西野氏の4万6千票に対し、3万5千票と9千票まで迫った。
日野市は、現職の自民党古賀氏の死去によって行われた今回の補欠選挙の中で唯一元々自民党だった議席を守る選挙であったことに加え、唯一、野党共闘系の現職がいない選挙区であったにも関わらず、共産党候補がここまで得票したことはある種驚異的だったとも言える。
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政党別のこれまでの得票の推移を見ると、自民は2013年の都議選の際には2万1千票、2017年に1万6千票だったが、今回は4万6千票まで伸ばした。
2017年の自民票と都民ファーストの票を加えると4万7千票になるので、ちょうどこれと同じくらいに票を伸ばしたことになる。
今回の自民4候補の中で、2017年の自公獲得票に最も上乗せできたのがこの選挙区だった。
逆に言うと、公明候補のいなかったこの選挙区においては、2017年の選挙では一定票が都民ファーストにいっていたようにも見える。
野党共闘の方は、2013年の都議選の民主と共産の票を足すと2万9千票、2017年は民主党都議が無所属での立候補になったため無所属と共産の票の和になるがこれも2万7千票だった。
今回の共産候補だった清水氏は、これに8,000票ほど上乗せしたことになる。
日野市選挙区は、2議席の選挙区、今回の選挙で当選した自民党の西野氏の議席はおそらく2021年の本選でも固い。
現状の都民ファーストの状況から考えれば、野党共闘で候補者調整するのであれば共産の清水氏が取る可能性がある。
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今回の都議補選、最後の選挙区は、調布市・狛江市にまたがる北多摩第三。
北多摩第三は、共産党現職の井樋議員の辞職に伴い欠員となった1議席を争うことになった選挙に、自民党の林氏と、共産党の田中氏、生活者ネットのドゥマンジュ氏の3候補の争いとなった。
北多摩第三は、2017年の都議選に2議席から3議席に増えた激戦区。
それまで自民と民主で分け合っていた議席が、3議席になったことで乱戦となり、2017年の都議選の際には数少ない都民ファースト空白選挙区となり、結果的に無所属、公明、共産で議席を獲得し、自民党が議席を落とした選挙区でもあった。
これまでの各政党の獲得票の推移を見ても、2議席だった2013年の都議選では、自民党候補が3万7千票だったものが、2017年の都議選では3議席に議席が増え公明候補が出たことで、自民の得票は減ったものの自公の得票は5万7千票に、今回の補選では自民の林氏はさらに8千票上積みして6万5千票を獲得して圧勝した。
一方で、野党共闘の票の推移を見ると、2013年の都議選で民主の共産を合わせた得票は4万7千票だったものが、2017年の都議選では無所属と共産で7万2千票になり、今回の共産の田中氏の獲得票は3万7千票と、これまでの野党共闘仮定票と比較すると最も少ない得票となった。
今回の補選のこの選挙区の結果を見て最も驚いたのは、生活者ネットが野党共闘候補と同じ3万7千票も出すんだということだ。
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北多摩第三の来年2021年の都議選本選は3議席。
今回の補選では、自民党候補による自公連携による獲得票が6万5千票である一方、共産と生活者ネットの獲得票を足した非自民票は7万5千票にもなり、自公票を1万票も上回る。
しかしこの選挙区の予測を更に難しくするのは今回の補選で自民候補の林氏が当選したことで、北多摩第三の現職は、自民、公明、無所属となったことだ。
この現職3人に今回の2候補が加わり5人の乱戦になれば、非自公票が割れて自公でそのうち2議席を獲得する可能性が高い。
しかし一方で、野党共闘など候補者調整が行えれば、逆に非自公で2議席を獲得する可能性が高くなる。
今回当選した林氏の得票を見ると、自民党の得票は公明票を上回りそうだが、公明にとっては、現職を抱えての選挙になる。
候補者の枠組みによって結果の分からない選挙区になりそうだ。

今回のこのコラムでは、都議補選が行われた4選挙区にクローズアップしてこれまでの都議選のデータから1年後に行われる2021年の行方を考えてみた。
冒頭で書いたように、補選の結果で、1議席を争う選挙では、現状でも自公が勝つことが見えてきたが、127議席ある都議会の議席のうち1議席の選挙区は7選挙区しかない。
今回の4選挙区でも紹介したように、その結果は必ずしも自公圧勝という形ではないように見える。
都知事選との組み合わせも影響していると思われるが、むしろ2013年、2017年の都議選で1議席だった維新は、今回の補選を受けて、3議席以上の選挙区では、一気に躍進する可能性が見えてきたのではないかと思う。