だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

バーチャルレクチャー空き家活用と移住定住指南(7)

2022-11-30 17:27:45 | Weblog
 中山間地域の集落に移住したら、地域の中でなじんでいくプロセスが次に続きます。よく田舎は閉鎖的だと言われますが、これは「都市伝説」だと私は思います。私の経験ではよそ者として集落に入った場合に、親切に歓迎こそされ、冷たくあしらわれたことはありません。昔は旅人が突然戸口をたたき、一夜の宿を貸してほしいといえば、快く受け入れるのが普通でした。移住者に対しても、わからないことは親切に教えてくれるし、野菜は持ってきてくれるし、困った時には助けてくれます。
 もちろん閉鎖的に見えることがないことはありません。それは、よそ者の登場に仕方によるのだと思います。ちょっと想像してみてください。ある朝、会社のオフィスに出勤してみたら、机がひとつ増えていて、知らない人がニコニコして座っていたらどう感じますか?室長も課長も何も聞いていないとしたら。訝しく思い、警戒感が先に立つのではないでしょうか。集落というのは何十年も毎日のように顔を合わせる仲です。そういうところに、誰も何も聞いてない状況で、ある日突然空き家に誰かきたぞ、ということになれば、警戒感が先に立つのはいたし方ありません。オフィスの例で言えば、何日も前から、新人が入ると説明されて、しかも学生の頃インターンで来ていた人だったりしたらどうでしょう。最初から歓迎と期待の気持ちでもって受け入れるのではないでしょうか。田舎の集落も同じです。移住を決める前から何かと訪問してお互いに顔を知っていた人が、地域面談を経ていよいよ移住してくるとなったら、期待し歓迎する気持ちが先に立ちます。
 もう一つ、閉鎖的に見える場合は、集落の中に何か揉め事がある時です。最近の例で言えば、地域内にメガソーラー発電所の計画が持ち上がったような場合です。賛成と反対で集落内が分断されているような時に、移住者が来るとなったら、いきなり「あんたはどっちの味方だ」というような問われ方をするかもしれません。移住するならそういうもめ事があるかどうかも事前に察知しておきましょう。
 地域面談というのはそういう意味で、移住者も地元側もお互いに気持ちよく移住し受け入れることができるようにする大事な工夫です。
 首尾よく移住できて、新しい生活がスタートしたら、地域の人に好印象で顔を覚えてもらうことが大切です。早くそういうふうになるコツというか秘訣があります。それはとにかく草刈りをするということです。田舎の人は草にたいへん敏感です。家の庭や周囲、農地などが草ぼうぼうというのは許されません。みなさんキレイに刈り上げています。田舎の暮らしは草刈りに始まり草刈りに終わると言っても良いです。刈り払い機を買って使い方を覚えましょう。どこでどういう機種を買ったら良いか、ご近所に相談してみるのも良いですね。刈り払い機は正しく使わないと危険なので、使い方もご近所に教えてもらいましょう。みなさん快く教えてくれると思います。それで見ようみまねで良いので、家の周りの草刈りを積極的にやりましょう。集落の人はその様子を見て、「なかなか感心だ」と話もしないのに勝手に好印象を持ちます。
 田舎の人にとって草は、かつては貴重な資源でした。夏の草を刈って堆肥に積み、これを田んぼに入れてコメを作ってきたので、誰がどこの草をいつ刈るかは集落の中で重要な問題でした。共有地の草刈り場があることも多く、その場合、各自が勝手に早い者勝ちで刈ると、十分育たないまま刈ってしまって、結果として集落の人全員に十分な量が行き渡らなくなります。そこで、寄り合いで草刈りの解禁日(山の口)を決めていました。それを破って抜け駆けすれば村八分という制裁が課されるほど厳しい取り決めだったのです。そういう時代には草は隅々まで刈り取られていました。戦後に化学肥料が使われるようになって、草は資源としては必要なくなりましたが、きっちり草が刈り取られている景観が「美意識」として残りました。髪の毛をぼうぼうに伸ばしているとだらしなく見られるのとほぼ同じ感覚で、草をぼうぼうと伸ばすに任せていると、あの家はなっていない、と見られるのです。
 移住してきた側はそういう事情が分かりません。自然豊かなところで暮らしたいと思って来たわけで、草も自然のうちという思いです。少々伸ばしていてもむしろ自然を感じられていいのではないかと思います。これも多文化共生の課題ですね。価値観が180度違うのです。良かれと思って草を刈らずにいると、話もしないで勝手に悪印象を持たれます。でもこれを逆手に取れば、とにかく草刈りさえしておけば、集落の一員として認めてもらえるということになります。畑では自然農で野菜を作りたいという人もいると思います。草を意識的に残す農法です。その場合でも畑の境界部はしっかり草刈りしましょう。そうしておけば、周囲の人も文句は言えないわけです。
 また、移住者が戸惑うことの代表的なものが、集落の中のうわさ話です。おそらく知らない人からいきなり「あんたがどこそこから移住してきた人だね」などと声をかけられて戸惑うことになると思います。地域面談などをやっていれば、その話は集落中に知れ渡っています。その間に伝言ゲームでとんでもない話になっている可能性も大いにあります。そういう時は笑って受け流しましょう。何十年も知り合いだけの付き合いの集落に、新しいメンバーが加わるとなれば関心が高いのは無理もありません。うわさ話は「光ファイバーよりも早く」伝わります。その内容が間違っていたり、不本意なものだったとしても、自分に面と向かって言われない限りは気にしないでいてください。みんな気軽な気持ちで楽しみに話しているだけで悪意はありません。とにかく草刈りをしていれば、「今度きた人はえらいね」というようなうわさ話が伝わっていくことになります。そうなればしめたものです。
 「今日どこそこに行っていたでしょう」などと言われて戸惑うこともあると思います。田舎は誰がどういう車に乗っているかお互いに認識しているので、車を見かけたということで行動がわかってしまいます。これも田舎の習わしですので、「監視されている」と思わずに楽しみましょう。
 田舎に移住すると、こういう話がてんこ盛りです。いちいち目くじらを立てずに、多文化共生の課題ととらえて上手に乗り切りたいものです。 (一応終わり)
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