縦割りを排し、統一IDなしには暮らせない社会へ

菅政権の目玉政策のひとつが「デジタル庁の創設」

この機にハンコやファックスをなくそうという話も出てきてて、確かにそれもいいと思うのですが、

デジタル社会を実現するためのコア中のコアは「国民全員に統一IDを割り当てること」

なので、今日はこの点に絞って「どうあるべきか」を書いてみます。

ちなみに!

デジタルかアナログかはさておき、「統一IDなしには暮らせない社会」になってる国って既にあるんだよね。

アメリカは社会保障番号、韓国は住民登録番号なしには暮らせない社会だし、中国なんて国民IDなしには長距離電車にさえ乗れません。

デジタル行政で有名なエストニアも国民IDなしには暮らせないし、ドイツも税識別番号ってのを基本、全員に割り振ってるはず。

てかカナダやシンガポールなども含め、もはや先進国の中では「統一IDをなしでは何もできない」って国の方が多数派になりつつあると思う。

日本だって、住基ネットナンバーだのマイナンバーだの何度も(巨額の税金を投入して)システムだけは作ってるのですが、問題は「日本では統一IDを使わなくても日々の暮らしにまったく困らないこと」なんです。

だからカードを取得する意味がないし、送られてきた番号通知書を無くしちゃいました、みたいな人まで出現してしまう。

でもね。

アメリカで社会保障番号なくしちゃったら、生活できないですからね。

社会保障番号って名称ではあるけれど、家を借りるにも銀行口座開くにも免許証とるにも大学に入るにも、このナンバーがないと手続きできません。

つまり大事なのは「国民全員に統一IDを割り振ること」ではなく

「統一IDなくしては暮らせない社会」にしてしまうことなんです。


具体的にどーすればいいのかといえば、

1.不動産取引には統一IDを記入する必要がある

賃貸であれ購入であれ投資であれ、不動産の契約書には名前の前に統一IDを記入する必要がある。という法律を作れば、統一IDなしには暮らせない社会ができあがります。


2.就職にも入学にも統一IDが必要

受験票に統一IDを書く必要があり、もちろん入学時手続き書類にもその番号が引き継がれる。こうすれば、学生に100万円補助する、みたいな助成金も簡単に実施できます。

もちろん、保育園から幼稚園、小中学校など義務教育の学校に通う子供も、統一IDを添えて入学手続きをします。

就職の際も、応募の段階から入社、退職タイミングなど、すべて統一IDで管理。社員管理もこの番号で。


3.納税および、金融機関の口座開設に統一IDが必要

企業は社員だけでなく、フリーランスや請負、パート、アルバイトなど、給与や外注代金を払う際には必ず相手の統一IDを把握する必要がある、とし、個人はすべて統一IDの下に納税

銀行口座はもちろん、証券会社、FXなどあらゆる金融取引(口座)を統一IDに紐付ける。もちろん電子マネーアカウントを開くときにも必要。

これで脱税とか、基本できなくなるっしょ。


4.あらゆる福祉&社会保障制度にも統一IDが必要

児童手当や生活保護、年金、医療保険、介護サービスなど、あらゆる行政の福祉、社会保障制度を利用する際には統一IDが必要

もちろん今回のようなコロナ給付金みたいなのも、このIDごとに支払われる。


5.あらゆる国家資格の取得・登録には統一IDが必要

運転免許はもちろん、危険物取り扱いの資格とか、医師や看護婦の資格とか、設計士や会計士や弁護士や教師など、ありとあらゆる公的な資格は、受験する際、&更新する際に統一IDが必要


などなど。

他にもあるかもだけど、とりあえずこれだけやれば、日本も「統一IDなしには暮らせない社会」が実現できる。

で、最後に、
免許証、保険証、資格カードみたいなのをぜんぶ廃止すればいい。公的IDで残す必要があるのは、パスポートだけです。

★★★

つまりね。

別に「デジタル庁というあたらしい組織を創る」ことが大事なわけじゃないんだよね。

そうでなく、今のマイナンバーを上記のように「これがないと生活できない」ように変える法的手当をすればいいだけ。

ところがそれが進まない。

なぜだって?

霞ヶ関が縦割りだからですよ。


マイナンバーは総務省が作った制度です。

だから、免許証を管轄する警察庁は「総務省に権限を渡すなんて嫌だ!」と免許証をマイナンバーに統合したくない。

保険証を管轄する厚生労働省も「総務省にデータを持ってかれるなんて、ありえない!」と反対する。

「納税者番号を国税(財務省)以外が管轄するなんて、ありえんだろ!」と、国税庁も協力しない。

「学生もマイナンバーで管理?」と文部科学省も渋い顔。

「不動産取引にもマイナンバー? うーん、それはどうですかね・・」と、登記所を管轄する法務省も動かない。


みーんな自分ちの予算(システム予算や、それに関わる仕事のポストや権限、データの管理機能)をなにがあっても失いたくない。

「マイナンバーさえあれば、他はなにもいらない」状態になれば、他の省庁からは膨大なシステム予算とそれに関わる人件費(ポスト!)が消えてしまう。

だからたとえ国民にはめっちゃ便利になるとしても、(総務省以外の官庁は)マイナンバーを生活全般に使えるカードにしたくないんです。


もちろん現役官僚の仕事のためだけじゃない。

各省庁が膨大なシステム発注予算を持っているからこそ、あらゆる官庁の官僚が、退職後にそれら発注先企業やその子会社に天下りできる。

監査役やら顧問やらアドバイザーとして多大な収入が確保できる。

でもマイナンバーに統一されちゃうと、そういう「おてがる老後特権」は総務省の官僚にしか許されなくなる。


発注先企業だけじゃない。

今の仕組みなら、省庁ごとにそれぞれ別のデータ管理団体が設立でき、これらも自分たちの「再就職先」として確保できる。そして椅子に座ってるだけで、給与と(数年ごとの)退職金が手に入る。

こんなおいしい仕組みでは、「国民の生活がたとえめっちゃ便利になるとしても」自分の利権を手放そうと思う官僚はいないよね。


この本質を、菅総理は理解してる(よね?)

だから「縦割り打破」って言ってるんでしょ?


(必要なら)組織としてのデジタル庁でもなんでも創ればいい。

でもさ。

組織を作るのは手段であって目的じゃない。

大事なのは、本当の意味で霞ヶ関の縦割りを排し=彼らのプライドや利益より、国民生活の利便性を重視し=霞ヶ関のためではなく、国民のための政治ができるか、ってところにある。


ハンコやファックスの撲滅?

それも大事だよね。令和の間には実現してほしいよ。

だけどさ、そういう「おもしろ小手先施策」みたいなことより、本当の意味で霞ヶ関から国民生活を取り戻すための本質的な施策、すなわち「統一IDなしには暮らせない社会」の実現こそ、

あたしが新政権に期待することでござんす。

そこんとこ、どうぞよろしく。


そんじゃーね


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