新聞発行部数、ついに「1年で271万部減」の衝撃…! 新聞業界に追い打ちをかける「ヤバい問題」

現代ビジネスに2月18日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80347

3年で大新聞が丸々1つ消える勢い

紙の新聞の凋落が止まらない。かつては電車内で新聞を広げて読む人が目についたものだが、今ではすっかり見かけなくなった。

それもそのはず。日本新聞協会の調査によると、2020年10月現在の新聞の発行部数合計(朝夕刊セットは1部と数える)は3509万1944部と、3年前に比べて700万部あまり減少した。業界2位の朝日新聞(516万部)が消えた計算になる。

しかも、下げ止まる気配は全くない。2017年は前年比2.7%の減少だったが、2018年5.3%減、2019年5.3%減、そして2020年は7.2%、271万部減と年々減少率は大きくなっている。

新聞発行部数のピークは1997年の5376万5000部で、2000年以降は前年を上回ったことがなく、2008年あたりから減少率が大きくな利、ここ3年は目を覆うばかりの減少だ。まさにつるべ落としと言える。

いやいや、もはや新聞は紙ではなく、電子版の時代だから、紙の新聞が減っていくのは当然だ、という見方もあるだろう。

最も、電子版で成功していると見られている日本経済新聞の場合、ピークは2008年の305万部で、2020年6月の日本ABC協会公査による朝刊の販売部数は206万8712部。紙の新聞は98万部減った事になる。

日経新聞の公表では2020年7月1日現在の電子版の有料会員数は76万7978件なので、紙の減少を電子版でかなり吸収していると見ることもできる。筆者もそうだが、実際には紙の新聞をとっていても、ほとんど電子版しか使っていない読者もいるだろう。紙からデジタルへの流れは確実に起きている。

最も、それは電子版で先行している日経新聞ならでは、という見方もできる。最近は各社とも電子新聞に力を入れているが、まだまだこれからといったところだ。電子新聞に消極的だった読売新聞も最近は急ピッチで電子新聞の拡充を急いでいる。それでも、確実に紙の新聞離れは進んでいると見ていいだろう。

日本では紙ほどの売り上げは期待できず

だが、ここで新聞社にとって大きな問題がある。電子新聞は紙に比べて儲からないのだ。

電子新聞の購読料設定を紙の新聞並みになかなか設定できないのだ。つまり、電子版の方が収入が少なくなるわけだ。単純に紙から電子版へのシフトが進めば、高い購読料が安い購読料に置き換わるだけで、新聞社の経営は窮地に陥る。

 

欧米では電子化する事によって新規読者を獲得することができた。もともと全国紙といっても発行部数が日本の新聞に比べてかなり少なかった欧米の新聞は、電子化で新規読者を獲得できた。また、英語を使っているため、英国のフィナンシャルタイムズ(FT)などが電子化によって、世界中に購読者を広げることが可能になった。

日本の場合、多くの新聞社が「専売店」を抱えている。新聞の宅配は日本で大きく発達した仕組みで、欧米では宅配よりも新聞スタンドで購入する方が多い。日本の新聞社は紙から電子へのシフトが起きても、宅配を続けるために販売店網を維持しなければならない。当然、販売コストが大きな負担になってくる。

もうひとつ大きいのが広告だ。紙の新聞は、販売店を通じた購読料収入と紙面に掲載する広告料収入が2本柱で、新聞社によるがほぼ同額の規模になって収益を支えてきた。

紙の新聞の広告料はかつては1ページの全面広告で1000万円を超す価格になっていた。電子新聞では、そうした高額の電子広告は難しい。

また、紙の新聞しか無かった時代と違い、広告主側による広告効果の検証が厳しくなった。電子版の場合、どれぐらい効果があったか、検証するツールが様々発達している。広告を出す側もシビアになっているのだ。

欧米の新聞社のように紙の新聞への依存度が小さければ、販売店網や印刷工場を縮小して、一気に電子版で儲ける体制を築けるかもしれないが、なかなかそうはいかないのが実情だ。

記者のマインドもデジタルシフト

ここまで紙の新聞の発行部数が落ちているのは、新聞各社が紙中心からデジタル中心に経営をシフトさせる腹を括ったということかもしれない。紙の新聞は高齢読者に支えられているが、あと1世代経てば新聞はデジタルで読むのが当たり前、という時代になるだろう。実際、情報を発信する新聞社の編集局の意識も大きく変わってきたようだ。

日本経済新聞社は昨年、「COMET」という新しい編集システムを導入した。画面上で、テキスト記事だけでなく、写真や図版、動画を扱うことができるシステムで、完全に電子版を前提にしている。

もちろん、紙の新聞もこのシステムを使って編集するが、原稿を出稿する現場の記者や記事を受けて編集するデスクの多くは、紙よりも電子版を意識するように急速に変わってきているらしい。電子版の方が速報性が高いのはもちろん、読者の反応も早いからだ。取ったニュースをいち早く報じたいというのは新聞記者の本質的な欲求だ。

 

電子新聞用に書いた記事を紙の新聞用に再編集するわけで、紙の新聞は締め切り時点で電子版を切り取ったようなものになる。紙用に書き直す記者もいるようだが、基本は電子版と同じものを使うという。だいたい、分量の制限がない電子版の記事の方が長いので、物理的制約がある紙の新聞用には原稿を削る事になるようだ。

筆者も10年前まで日経新聞の記者だったが、当時とは隔世の感だ。当時の電子メディア版は新聞に掲載したものがそのまま転用されるのが基本だった。

新聞用に出稿する段階で長く書いても、編集作業の過程で大幅に削らてしまうことが多く、電子版になった際にはごく短い原稿が載るケースが多かった。

私も退職前はデスクをやっていたが、記者に「(1行11文字で)20行だけ送れ」なんていう指示をしていた。一生懸命取材したネタをフルに記事化することができないもどかしさを当時の記者は抱えていた。それが「電子新聞ファースト」になったことで、解消されたわけだ。

現役のデスクからは、「記者の力が落ちたこともあるが、コンパクトにファクツを伝える原稿を書けない記者が増えた」という声もあるが、情報発信量が増えたことは、読者からすれば歓迎すべきことだろう。

まだまだ「会社の幹部が紙を読んで記者を評価するので、紙重視の記者もいる」という声も聞かれるが、確実に新聞社のカルチャーは電子新聞にシフトしていっている。

欧米では得た情報を紙の新聞よりも先に電子版で伝える「ネットファースト」が20年くらい前から当たり前になっていた。紙重視の日本の新聞社はなかなか踏み切れなかったが、ようやく「ネットファースト」を公言する新聞社も増えてきた。

紙の新聞の激減が、新聞社のビジネスモデルだけでなく、記者たちのカルチャーも大きく揺さぶっている。