大前研一「ニュースの視点」Blog

KON942「携帯電話大手/賃金問題/ニコン/クボタ~KDDIの大規模障害は、今後に向けた警鐘」

2022年8月1日 クボタ ニコン 携帯電話大手 賃金問題

本文の内容
  • 携帯電話大手 緊急時のローミング「重要な課題」
  • 賃金問題 中小企業の数減らす必要性
  • ニコン 一眼レフカメラの開発停止
  • クボタ 米国、インドに新工場建設

KDDIの大規模障害は、今後に向けた警鐘


金子総務相は12日、携帯電話会社が緊急時に他社の通信網を借りる「ローミング」(相互乗り入れ)について、重要な課題との認識を示しました。

KDDIで大規模な通信障害が発生し、全面復旧までに約3日半を要したため、119番などの通報が長時間できない事態に陥ったことを受けたものです。

法令上の問題などを整理し、緊急時の通信手段確保を急ぐ考えです。

緊急時の通信手段確保の問題もありますが、もし自動車の自動運転などが携帯電話のパケット通信などを使う形で実現されていたら、今回のような大規模通信障害は大変な事態を引き起こしていたはずです。

ローミングの環境整備も重要ですが、併せて「SIMカードを咄嗟に入れ替えられるようにする」ということも提案したいと思います。

ユーザー側、端末側で対応できるようにするという発想です。

モバイル通信網は今後ますます重要な社会インフラになっていきます。

今回の通信障害はよい警鐘となったのではないでしょうか。

総務省に通信関連の担当部署があるはずなので、早急に対策を検討し、即実行してほしいと思います。




大企業の高い生産性を支えているのは中小企業


経済同友会の桜田謙悟代表幹事が日本テレビのインタビューに応じ、日本の平均賃金の低さを解消するには、中小企業の数を減らす必要があるとの考えを示しました。

「生産性や利益率の低さから目を逸したまま、賃上げを実施するのは困難」と指摘したもので、利益率の低い企業の廃業を促すための優遇税制や、働き手がより給与の高い企業に転職できるよう学び直しの機会の必要性などを訴えました。

大企業の中で偉くなって、中小企業の経営や現場に関わったことがない人物による問題発言です。

たしかに中小企業の生産性は大企業の約半分と低く、改善傾向も現時点ではみられません。

しかし、だからといって「中小企業をつぶしてしまえ」というのは乱暴な結論です。

日本の強さは中小企業が担ってきました。

中小企業がまとまって大企業を支えているからこそ、大企業は高い生産性を実現できているのです。

経済同友会は経団連などと違い、会社ではなく個人の集まりです。

発言内容の社会的責任も、組織人としての発言に比べて小さく、自由な意見を述べやすい場所ではあります。

とはいえ、中小企業が果たしてきた役割や生産性が改善しない構造を理解せず、廃業を促そうなどという意見を持ってしまう人物は、事実の認識や論理的思考力に問題があると言わざるを得ないと私は考えます。




ニコンの一眼レフの開発停止は、合理的な経営判断の結果


光学機器大手のニコンが、近年の一眼レフ市場の縮小傾向を受けて一旦開発を停止し、今後は成長が見込めるミラーレスカメラの開発・生産に注力すると報じられました。

ニコンはミラーレスを中心に据えるという方針を示したのは間違いありませんが、やや報道に混乱が見られます。

それは「開発の停止」と「生産販売の停止」は意味が全然違うという点です。

今回ニコンが発表したのは「開発の停止」のみで、生産や販売を停止して市場から一眼レフがなくなるという話ではありません。

とはいえ、「いつかはクラウン、いつかはニコン」と言われたカメラのトップブランドが開発を停止したことは、世界に衝撃を与えるニュースです。

ニコンの業績は、カメラ付き携帯電話に押されて芳しくありません。

ですが、セグメント別の業績をみると、2022年3月期には主力5事業すべてで利益が出ていますので、「生産販売の停止」のような大胆な改革をするような時期ではありません。

当然ニコン側も否定するはずです。

一眼レフとミラーレスの出荷状況・出荷金額を比較すると、一眼レフは右肩下がりで、2012年に比べると総出荷利益は6分の1にまで落ち込んでいます。

一方で、ミラーレスに関しては右肩上がりで堅調に推移しているので、ミラーレスに注力するというのは当然の帰結です。

むしろ「一眼レフの開発を続けます」と宣言したほうが、株主としては異議を唱えたくなる状況だと言えるでしょう。




クボタは、米国のニッチ市場で勝機あり


産業機械大手のクボタが、米国やインドに新工場を建設することがわかりました。

2030年までに3,000億円を投じ、海外での生産比率を3割から5割に引き上げる方針です。

新型コロナ禍で供給網が世界的に分断しているほか、コンテナ船の海上運賃等が高騰しているのを受けて、需要のある場所での現地生産に移行する考えです。

今後の戦略を考えたら、インドと米国に注力するのは合理的な判断です。

2020年の農機の世界シェアを見るとクボタは8.8%です。

インドにはマヒンドラという企業がありますが、世界シェアは0.6%に留まり、クボタが有利に戦える市場だと言えるでしょう。

中国市場に関しては、マヒンドラと同等の世界シェアを持つフォトン・ロボルをはじめとする地場の企業が複数あるため好ましい環境ではありません。

一方で米国には、ブランド「ジョン・ディア」を擁する世界シェア12.7%を占めるディア・アンド・カンパニーをはじめ、インターナショナル・ハーベスターなど巨大な競合が多く存在します。

しかし、巨大な農場が多い米国では、クボタの製品は「ガーデントラクター」、つまり家庭菜園用の農業機械という位置づけになり、ニッチ市場での戦いになります。

クボタをはじめ、ヤンマーや井関農機などの日本の農機メーカーは、巨大農場向けの製品はあまり得意ではありません。

ですが、小さな農場向けのニッチ市場では、クボタのきめ細かく工夫が施された使い勝手のいい農機は十分に戦えると考えます。




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※この記事は7月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は賃金問題のニュースを大前が解説しました。

大前は「たしかにデータを見ると大企業と中小企業で生産性に大きな差があることが分かるが、それは中小企業が大企業の生産を支えていることが理由」と指摘し、「生産性だけを見て廃業を優先させるというのは考えられない」と述べています。

データを適切に分析し解釈する力はビジネスパーソンにとって必要なスキルです。

ひとつのデータに囚われることなく、データ同士を比較したり、複数のデータを組み合わせて分析したりすることで、総合的に判断を下すことが求められます。


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