SSブログ

10月20日(火) 安倍政権とは何だったのか―7年8ヵ月の総括(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』2020年11月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

2、何が長期政権をもたらしたのか

 国政選挙6連勝と内閣支持率の安定

 このような問題だらけの安倍政権が歴代最長になれた最大の要因は、国政選挙での6連勝でした。これらの選挙で一度でも負けていれば、これほどの長期政権にはならなかったでしょう。「すべては国政選挙のたびに力強い信任を与えてくださった、背中を押していただいた国民の皆様のおかげであります」と、安倍首相が辞意表明の記者会見で述べたとおりです。
 過去6回の国政選挙結果は図3(省略)のとおりです。自民党は2012年12月の衆院選で多数を回復して政権を奪還し、以後、5回の衆参両院での選挙に勝ちつづけました。2013年7月の参院選で勝利して「ネジレ国会」を解消し、2014年11月には「消費増税延期」をかかげて総選挙で大勝しています。2016年7月の参院選でも与党が勝利し、衆参両院で「改憲勢力」が3分の2を超えました。2017年10月の衆院選では、北朝鮮のミサイル発射と少子化という「国難突破」を掲げて解散し、小池東京都知事が結成した「希望の党」への参加をめぐって民進党が分裂するという混乱もあり、与党が3分の2を維持しています。
 このような選挙での勝利を支えたのが、安倍内閣に対する支持率の安定でした。『毎日新聞』の調査による第2次安倍内閣に対する支持率と不支持率は、グラフ(省略)のように推移しています。発足直後に70%という高さを記録して以来、下降しても回復し、平均して40%台を維持しています。
 内閣支持率が急減したのは4回あります。1回目は2015年から16年にかけて安保法制に対する反対運動が大きく盛り上がったときで、はじめて支持と不支持が逆転しました。2回目は2017年春から夏にかけてで、森友・加計学園問題や「共謀罪」の新設を含む改正組織犯罪処罰法への反対運動などを受けて支持率26%と最低になっています。2018年春が3回目の急落で、これは森友学園をめぐって財務省が決裁文書の改ざんを行っていたことが明らかになったためです。そして、4回目の急落が今回で、新型コロナウイルスへの対策の迷走が批判を浴び、辞任に結びつきました。

 民主党政権への失望と野党の対応

 民主党政権の経験やその後の民進党など野党の対応も、客観的には長期政権化を助けました。2009年に発足した民主・国民新・社民3党の連立政権は政権運営の未熟さや準備不足、経験の乏しさなどから国民の期待を裏切ったからです。その最大の問題が、民主党と自民党、公明党との間で交わした消費税増税についての「3党合意」でした。
 このような民主党への失望から自民党は政権に復帰し、安倍首相は「悪夢のような」と罵倒してその悪印象を振りまきました、支持率調査で、常に「他の政権よりよさそう」という回答が最も多かったように、相対的に「まし」だと国民に思い込ませたのです。
 国政選挙での野党の対応も、安倍首相を助けるものでした。もともと小選挙区制という選挙制度は多数党に有利ですが、野党がバラバラで立候補して競い合ったために自民党はますます有利になりました。制度の欠陥を克服するために野党は候補を一本化することが必要ですが、それが可能になったのは2016年7月参院選の1人区からです。
 2017年総選挙は小選挙区で野党候補を一本化して与党を追い詰める絶好のチャンスでした。自民党は2月に森友学園疑惑、5月に加計学園問題が表面化して支持率が急落し、7月の東京都議選では小池百合子都知事が率いる「都民ファーストの会」が躍進して都議会自民党は惨敗します。この時、安倍首相は最大の危機に直面しました。
 しかし、民主党から変わった民進党は、小池都知事の立ち上げた「希望の党」への合流を契機に分裂します。排除された枝野幸男代表を中心に立憲民主党が結成され、共産党の協力もあって一定の地歩を確保しますが、与党の大勝を許すことになりました。こうして、安倍首相は政権復帰以来、最大の危機を乗り越えることに成功したのです。

 人気とり、官邸支配とマスコミ統制

 安倍首相は極右勢力を強固な支持基盤とする「靖国派」として知られています。それは改憲への拘泥やアメリカ言いなりの安保政策に現れていますが、同時に世論受けする人気目当ての施策と強権的な手法を併用していた点を無視してはなりません。
 7年8ヵ月にわたる政権の前半から後半にかけて、イデオロギー優先の理念政治から人気取りのための利益政治へと重点が移動したように見えます。アベノミクスは反「緊縮政策」的色彩が強く、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ対策法、部落差別解消推進法、アイヌ文化振興法などのマイノリティー支援のための法律を制定し、高等教育や幼児教育の一部無償化なども実行しました。「地方創生」「女性活躍」「働き方改革」などは看板倒れに終わりましたが、地方や女性、労働者に目配りしているという「やってる感」をアピールし、各層に配慮する姿勢を印象付ける効果がありました。
 同時に、このような政策的柔軟さは官邸支配と言われる強権的な排除や統制によって支えられています。敵と味方を区別して反対する人びとを敵視し、国会での審議を避け、平気でうそをいい、政と官の関係を歪めて「忖度」を招き、気に入らない記者を無視し、コメンテイターを交代させました。
 その結果、国会は行政監視の機能を弱め、公務員は公平・公正さを失い、メディアは自主規制して自由で中立的な報道姿勢を忘れてしまいました。このような「負の遺産」が、「安倍政治の継承」をかかげる菅新首相によって引き継がれ、さらに強化されることが危惧されています。
 それを許さないためにも、市民と野党の共闘によって安倍なき安倍亜流政権を打倒する必要があります。1年以内には必ず実施される解散・総選挙にむけて、準備を急がなければなりません。

 むすび

 来るべき総選挙は政権交代をかけた「天下分け目の合戦」となります。これははじめての野党共闘総選挙で、この共闘にはじめから共産党がふくまれているという点がこれまでにない新しさです。菅新政権の樹立とともに発足した新・立憲民主党は市民との共闘や共産党との連携を志向する野党第1党だという点で、以前の民主党や民進党とは異なっています。
 このようななかで、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は、立憲民主党、日本共産党、社民党、国民民主党、れいわ新選組などに対して要望書を提出しました。これは4本柱15項目で、2019年の参院選前に市民連合と5野党・会派が合意した13項目の「共通政策」をさらに発展させたものです。
 コロナ危機を反映して「いのちと人間の尊厳を守る『選択肢』の提示を」との副題が付けられ、「その実現のために尽力するよう要望」しています。「利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換」「消費税負担の軽減」「原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー」「持続可能な農林水産業の支援」などもかかげられています。これにより「合戦の旗印」も明確になりました。
 次の総選挙を本格的な政権選択の選挙とし、安倍なき「安倍政治」に決着をつけなければなりません。市民連合の「要望書」にもあるように、それは「自民党政権の失政を追及する機会であると同時に、いのちと暮らしを軸に据えた新しい社会像についての国民的な合意、いわば新たな社会契約を結ぶ機会となる」のですから。そのチャンスは間もなくやってきます。


nice!(0) 

nice! 0