日経新聞で紹介されているロゴフのコラムがおもしろい。世界が1970年代のスタグフレーションに似てきたという話である。
1970年代のインフレの原因は一般には「石油ショック」だと思われているが、それはきっかけに過ぎない。ロゴフも指摘するように本質的な問題は財政赤字だった。アメリカ政府はベトナム戦争で大きな赤字を抱え、インフレ圧力が高まっていた。
そこにOPECの原油値上げで供給ショックが起こり、さらに財政支出を増やしたため、大インフレになった。これを抑制する役目のFRBには独立性がなかったので、不況の最中に金利を上げられなかった。このため世界にドルがあふれ、不況とインフレが同時に起こるスタグフレーションになった。
今の資源インフレは、OPECではなく先進国の脱炭素化が起こしたものだ。日経の藤井論説委員長も指摘するように、化石燃料を禁止する動きが世界的に強まっているため、油田や火力発電所が「座礁資産」になることを恐れて投資が減ったことが供給制約の原因である。
日本経済新聞より
構造的な原因である政府債務は、1970年代とは比較にならないほど大きく積み上がっている。ベトナム戦争はアメリカだけの問題だったが、今の先進国では社会保障債務が一般会計より大きく、高齢化で労働人口が減るので長期的には金利も物価も上がる。そのきっかけが供給ショックだというのも70年代と同じだ。
1970年代のインフレの原因は一般には「石油ショック」だと思われているが、それはきっかけに過ぎない。ロゴフも指摘するように本質的な問題は財政赤字だった。アメリカ政府はベトナム戦争で大きな赤字を抱え、インフレ圧力が高まっていた。
そこにOPECの原油値上げで供給ショックが起こり、さらに財政支出を増やしたため、大インフレになった。これを抑制する役目のFRBには独立性がなかったので、不況の最中に金利を上げられなかった。このため世界にドルがあふれ、不況とインフレが同時に起こるスタグフレーションになった。
今の資源インフレは、OPECではなく先進国の脱炭素化が起こしたものだ。日経の藤井論説委員長も指摘するように、化石燃料を禁止する動きが世界的に強まっているため、油田や火力発電所が「座礁資産」になることを恐れて投資が減ったことが供給制約の原因である。
日本経済新聞より
構造的な原因である政府債務は、1970年代とは比較にならないほど大きく積み上がっている。ベトナム戦争はアメリカだけの問題だったが、今の先進国では社会保障債務が一般会計より大きく、高齢化で労働人口が減るので長期的には金利も物価も上がる。そのきっかけが供給ショックだというのも70年代と同じだ。
1970年代には景気が悪くなったら財政赤字を増やし、インフレになったら金利を上げるという「微調整」で、政府が総需要をコントロールできるというケインズ理論が信じられていたが、不況とインフレが同時進行したため、独立性のない中央銀行は金利を上げることができず、インフレ・スパイラルに陥った。
アメリカではFRBのボルカー議長が金利を引き上げ、イギリスでもサッチャー首相が緊縮財政に転換したため、80年代にスタグフレーションは終息した。これが中央銀行の独立性を重視する改革の根拠となった。
だが今はインフレより金利上昇が問題だ。70年代との最大の違いは、政府債務のほとんどを民間が保有していることだ。日本の国債の発行額は1975年には5.3兆円で、そのうち2.1兆円が赤字国債(特例公債)だった。それが今は残高が1000兆円を超えた。それが今ヘッジファンドのアタックを受けている。
一般会計税収と国債発行額(財務省)
インフレになると名目金利(実質金利+インフレ率)が上がる。今までは債券市場が日銀のインフレ目標を信じていなかったので長期金利は上がらなかったが、本当に2%のインフレになると市場が信じると、長期金利は2%以上になる。
これによって国債を保有している銀行が破綻し、金融危機(取り付け)が起こるおそれがある。日本では、1%上昇で50兆円ぐらい評価損が出て、資産バブルが崩壊する。
ところがアメリカでさえ長期金利は1.8%程度で、5%を超えたインフレ率よりはるかに低い。これはインフレが「一時的なものだ」というFRBの説明を市場が信じているからだろう。
千里ニュータウンのトイレットペーパー騒ぎ
発端は11月1日に、千里大丸プラザが特売チラシに「紙がなくなる」と書いたことだった。これは「安くて売り切れになる」という意味だったが、パニックになった主婦が店頭に長い列をつくり、2時間のうちにトイレットペーパー500個が売り切れた。これをテレビが大きく報じたため、日本中で紙が売り切れる騒ぎに発展し、紙の価格は1ヶ月で2倍になった。
もちろん石油と紙は無関係であり、OPECが原油の禁輸を発表したのは10月20日だから、その10日後に日本で紙が不足する理由は何もなかったのだが、千里ニュータウンは当時できたばかりで、全戸水洗だったので、トイレットペーパーが必需品だったことも騒ぎの原因だった。
この小さな事件が大きく報道され、蝶の羽ばたきが竜巻を起こすようなバタフライ効果が起こり、実際にはまだ起こっていなかった石油製品の値上げの何倍ものインフレが起こったのだ。今度も何がきっかけになるかわからない。
アメリカではFRBのボルカー議長が金利を引き上げ、イギリスでもサッチャー首相が緊縮財政に転換したため、80年代にスタグフレーションは終息した。これが中央銀行の独立性を重視する改革の根拠となった。
だが今はインフレより金利上昇が問題だ。70年代との最大の違いは、政府債務のほとんどを民間が保有していることだ。日本の国債の発行額は1975年には5.3兆円で、そのうち2.1兆円が赤字国債(特例公債)だった。それが今は残高が1000兆円を超えた。それが今ヘッジファンドのアタックを受けている。
一般会計税収と国債発行額(財務省)
インフレになると名目金利(実質金利+インフレ率)が上がる。今までは債券市場が日銀のインフレ目標を信じていなかったので長期金利は上がらなかったが、本当に2%のインフレになると市場が信じると、長期金利は2%以上になる。
これによって国債を保有している銀行が破綻し、金融危機(取り付け)が起こるおそれがある。日本では、1%上昇で50兆円ぐらい評価損が出て、資産バブルが崩壊する。
ところがアメリカでさえ長期金利は1.8%程度で、5%を超えたインフレ率よりはるかに低い。これはインフレが「一時的なものだ」というFRBの説明を市場が信じているからだろう。
インフレの「バタフライ効果」
日本では企業物価上昇率は8%になったのに、消費者物価上昇率(コアCPI)は0.1%である。これは20年以上にわたってデフレ基調が続いたため、企業がコストを小売り価格に転嫁しないで賃金を抑制してきたことが原因だが、値上げのマグマは貯まっている。1973年の「狂乱物価」の引き金を引いたのは、大阪の千里ニュータウンの主婦だった。千里ニュータウンのトイレットペーパー騒ぎ
発端は11月1日に、千里大丸プラザが特売チラシに「紙がなくなる」と書いたことだった。これは「安くて売り切れになる」という意味だったが、パニックになった主婦が店頭に長い列をつくり、2時間のうちにトイレットペーパー500個が売り切れた。これをテレビが大きく報じたため、日本中で紙が売り切れる騒ぎに発展し、紙の価格は1ヶ月で2倍になった。
もちろん石油と紙は無関係であり、OPECが原油の禁輸を発表したのは10月20日だから、その10日後に日本で紙が不足する理由は何もなかったのだが、千里ニュータウンは当時できたばかりで、全戸水洗だったので、トイレットペーパーが必需品だったことも騒ぎの原因だった。
この小さな事件が大きく報道され、蝶の羽ばたきが竜巻を起こすようなバタフライ効果が起こり、実際にはまだ起こっていなかった石油製品の値上げの何倍ものインフレが起こったのだ。今度も何がきっかけになるかわからない。