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11月9日(火) ハト派・リベラル派の衣をまとった「安倍背後霊」政権―-岸田文雄新内閣の性格と限界(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『治安維持府と現代』2021年秋季号、第42号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 5,奇襲と逆襲の総選挙

 自民党総裁選直後、岸田新総裁は10月31日投票での総選挙実施という方針を明らかにしました。新しい内閣が発足する前に解散・総選挙の日程が速報されるという異常事態です。これまで解散から投票までの最短は20日でしたが、今回はこれよりも短く17日しかありません。まさに「奇襲」です。
 それは新内閣発足直後の「ご祝儀相場」で支持率が上がることを狙ったためと見られています。新政権の本質がばれないうちに選挙に打って出ようとしたのかもしれません。しかし、このような姑息な奇襲の意図は見抜かれていたのではないでしょうか。内閣発足直後の支持率は、朝日新聞の調査では45%と2001年以降最低となっています。
 この奇襲攻撃に対して、すでに野党は迎え撃って逆襲に転ずる準備を重ねてきました。市民連合と立憲・共産・社民・れいわ4党の政策合意が実現し、立憲・共産両党の党首会談では限定的な閣外協力が合意されました。各小選挙区での統一候補の擁立も進み、289小選挙区中200以上の選挙区で「1対1の構図」づくりが実現しています。
 コロナ禍から国民のいのちと暮らしを守るという課題からしても、野党共闘の実現によって与野党が正面から激突するという対決構図でも、政権交代を展望して共産党が協力するという点でも、これまでにない歴史的な総選挙となりました。まさに、日本の命運がかかった選挙となっています。その結果次第で、政治のあり方と日本の進路は大きく左右されることになるでしょう。
 しかし、総選挙の結果がどうなるにせよ、参議院は自民・公明両党が多数を占めています。たとえ、衆院で与野党の勢力が逆転し新しい政権が発足しても衆参の勢力関係が「ネジレ状態」になるだけで、法案や予算案を通すのは極めて困難です。
 もし、野党の連合政権が樹立されれば、来年7月の参院選で野党が多数を獲得して「ネジレ状態」を解消することが次の課題となります。そうならなくても、与野党が激突する激動の情勢は、来年にかけてしばらく続くことになるでしょう。

 むすび

 岸田新首相は菅前首相とは必ずしも同じではないということに注意する必要があります。菅前首相は官房長官として安倍内閣を中枢で支え、正面から安倍政治の「継承」を掲げていました。しかし、岸田新首相は「新しい資本主義」への転換を標榜しています。菅前政権のコロナ対策や説明しない政治の失敗を目撃し、そこから学んでいるという違いもあります。
 何よりも、岸田氏はハト派でリベラルとされる宏池会の会長でした。ハトとして飛び立てる翼の一部が残っているかもしれません。総裁の椅子を手に入れるために魂を売り渡さざるをえなかった屈辱をわずかでも感じていれば、「安倍政治」とは異なった方向を模索する可能性もあります。
 とりわけ、岸田新政権が経済政策で再分配重視や格差是正に転じ、中間層へのアピールを強めた場合、野党にとっては手ごわい相手となるでしょう。数十兆円規模の経済対策や子育て支援など総選挙向けの口当たりの良い「撒き餌」や、安倍・菅路線の継承という地金をごまかすための「コーティング」に惑わされてはなりません。
 自民党にとっては、このような外見をまとっている岸田氏であるからこそ、利用価値があるということになります。岸田氏からすれば、そのような外見を強めようとすれば右傾化した自民党の地金と衝突し、安倍元首相や麻生副総理、甘利幹事長などからの牽制を受けざるを得ないというジレンマに直面することになります。
 「ハト派・リベラル」の衣の下には「安倍背後霊」政権の本質が隠されているからです。そのカラクリを野党や国民は見抜くことができるでしょうか。この点においても、総選挙の結果が注目されます。    

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