代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

桐野利秋VS野津道貫の赤松小三郎をめぐる因縁対決 「雲よ、伝えて!」

2020年06月09日 | 赤松小三郎
 赤松小三郎が登場する漫画を紹介させていただきます。岩見沢友紀作「雲よ、伝えて! ~明治報道奮戦記」です。最近相次いで文学作品や漫画で赤松小三郎が取り上げられるようになってきて、本当にうれしいことです。
 この作品は同人誌ですが、プロのクリエイターの作品で、『ジャ〇プ』に連載されている漫画かと思うくらいにクオリティが高いです。
 其の4(第4巻)では、桐野利秋と野津道貫の、赤松小三郎暗殺事件をめぐる宿命の対決を作中に盛り込んでいます。桐野と野津のこのエピソードが物語の中に盛り込まれるのは、これが初のことではないかと思われます。拙著『赤松小三郎ともう一つの明治維新』も、其の四(第4巻)のあとがき解説で紹介してくださっています。
 
 以下、田原坂46の公式サイトで、詳しくこの作品を知ることができます。
https://tabaruzaka46.wixsite.com/tabaruzaka46

 主人公は西南戦争に従軍して取材活動を行う新聞記者。西南戦争を舞台にしつつ、作品のテーマは、報道の自由、表現の自由、言論の自由とは何か・・・です。私たちも今まさに突き付けられている、普遍的なテーマといえます。
 明治に産声をあげたジャーナリズムが、誕生と同時に激しい報道規制の嵐にあって苦しむ中、西南戦争の現地取材に派遣された駆け出し記者が、政府側一辺倒で取材を続ける大手新聞の有名ジャーナリストの福地源一郎などの姿勢に疑問を持ちながら、だんだん成長していく・・・・というストーリーです。

 以下、赤松小三郎の回想シーンでの、篠原国幹、桐野利秋、赤松小三郎、野津道貫を紹介させていただきます。 
 

篠原国幹

 作中の篠原と現物の写真を比べました。ホンモノよりも数段イケメン化されていますが、落ち着いた冷静沈着な雰囲気が漂っているところは写真の通りかと思います。
 ちなみに篠原は赤松小三郎を尊敬し、最後まで暗殺に反対していたと伝わっています。そういえば大河ドラマ「西郷どん」の篠原は、「回れ右、前へ進め」という軍隊号令で、鹿児島私学校生を練兵しているシーンがありました。あの「回れ右、前へ進め」などの号令こそ、赤松小三郎が薩摩藩兵を訓練した際に用いたもので、そのまま日本軍の号令として(そして今でも体育の授業等で)使われるように定着したのです。NHKもドラマの中では赤松小三郎を出し(せ)ませんでしたが、さりげなく篠原が赤松の教えを継承しているというメッセージを、あのシーンで表現してくれたのかも知れません。
 


赤松小三郎

 作品では、主人公である従軍記者の飛高伝(架空の人物)が赤松小三郎に似ているという設定です。薩摩軍に従軍取材する主人公を見て、篠原と桐野が小三郎を思い出し、回想シーンで登場します。
 「るろ〇に剣心」の回想シーンでのみ登場する相楽総三を思い出します。そういえば、相楽総三が有名になってきたのも、あの作品のおかげかも知れません。漫画が、マイナーな人物をクローズアップしてくれるというのは、ありがたいことです。

 ちなみに司〇〇太郎の『翔ぶが〇く』では、赤松小三郎は「赤松某」という名前で登場し、幕府の間者だから桐野に斬られた、桐野の剣の腕はすごかった、というただそれだけの登場の仕方だったように記憶しています。かの作家は、赤松小三郎の重要性を全く認識できていなかったのです。


桐野利秋
 
 殺気のある鋭い目つきが、桐野本人をよく表現していると思います。イケメン剣士ならいいでしょう、という感じだった前の大河ドラマとは違った描き方です。桐野は、若いころはあどけなく、かわいい顔をしていますが、赤松小三郎を斬った後は、目つきが殺気を帯びて、まったく違う顔になっています。桐野は、悪夢の中で頻繁に赤松小三郎が出てきて、うなされて苦しんでいたようです。


野津道貫

 他のキャラが、すべてイケメン補正されている中、野津のみはまったく補正されていません。そのままに描いていくだけで、作中屈指のイケメンキャラになるという驚愕の事実!! それにしても作者さん、上手い。 
 『翔ぶが〇く』でも野津道貫は出てきてはいましたが、ほとんど空気のように扱われていました。作者さんは、血の通った熱い人間としての野津を描いてくれています。
 薩摩人なのに官軍についたということで、鹿児島県内でも野津を評価する声など皆無のように思えます。薩摩の方々から見ても、野津や黒木為楨など、のちに日露戦争で活躍する将軍たちが西郷と戦ったことで、モヤモヤした晴れない気持があるのではないかと思います。なぜ薩摩出身の彼らが迷うことなく政府軍についたのか。じつはこの野津道貫こそ、赤松小三郎の一番弟子で、その教えをもっとも深く受け継いでいた人物です。
 赤松小三郎を知ることで、モヤモヤした霧もは少し晴れてくるのでは・・・と思われます。これ以上、赤松小三郎の存在を、なかったことにしてはいけないということです。


 「雲よ、伝えて! ~明治報道奮戦記」は以下のページから購入できます。私もネットで、作者さんが赤松小三郎を描いて下さることを知り、さっそく購入して拝読させていただいた次第です。すばらしい作品をありがとうございます。続きも楽しみにしております。

https://tbz46.booth.pm/

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「禁裏様」と二十一世紀 (renqing)
2020-06-22 13:10:46
ブログ主様
標題の、弊ブログ記事をupしました。ご笑覧頂ければ幸甚です。

 貴記事中にもあるように、歴史の捏造をこれ以上放置してはなりません。塩沢由典先生も自ら理論的に正しいと考えたものをまっすぐにほぼ半世紀貫いて、21世紀のいま、まさに経済学史を書き換えようとされています。熟慮して出した自らの判断は自ら責任をとれます。熟慮したうえでなら、正々堂々と主張することが言論の自由です。近代日本の学者は、裏でコソコソと《真実と信じる自説》を語り、表では(実は信じてもいない)《通説》を語り過ぎました。

私たちは、天晴な塩沢先生を「ミメーシス(模範として真似する)」としなければなりません。一緒に頑張りましょう。

ついでに、塩沢先生の復刊新著のレビューを弊ブログ公開中です。ご笑覧頂ければ幸甚。塩沢先生からもご高評いただいていますが、なにしろ五百頁を超えるものなので、悪戦苦闘しています。残り、3回分くらいありますが、頑張ります。下記。
塩沢由典『増補 複雑系経済学入門』2020年5月ちくま学芸文庫(1): 本に溺れたい
http://renqing.cocolog-nifty.com/bookjunkie/2020/06/post-3ebe2d.html
増補部分のみでも買う価値あり (関)
2020-06-23 00:16:57
 大著の書評、お疲れ様です。塩沢先生の『複雑系経済学入門』は読んでおりますが、ちくま学芸文庫版が出たとは知りませんでした。情報ありがとうございました。原著を読んだ読者にとっても、増補部分のためだけでも買う価値ありそうですね。

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