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1月15日(土) 政権交代への課題と展望-2021総選挙の結果から見えるもの [論攷]

〔以下の講演記録は、『八王子学術・文化日本共産党後援会ニュース』NO.19 、2022年1月10日付、に掲載されたものです。〕

 立憲野党躍進と政権交代を掲げて全力を尽くした10月31日の総選挙。大きな期待をもって臨んだ選挙であったからこそ、その結果に意気消沈してしまった人も多かったのではないでしょうか。そのようななか、五十嵐仁さんに選挙結果について、選挙を巡る情勢と客観的条件のもとで、どのような分析・評価ができるのかということを野党共闘の新たな展開を軸に語ってもらいました。以下にその概要を紹介します。
 
 総括の視点

 冒頭、五十嵐さんからは、選挙結果の分析・評価を行う際の三つの視点が提示されました。
① 新型コロナ感染症の蔓延が総選挙前に急速に収まったため、コロナ対策の迷走への責任を逃れ与党の側でワクチン接種の成果を大々的にアピールできたこと、
② コロナ対策のために3密の回避が叫ばれ、市民が集まる政治運動や選挙活動などが大きく制約されたこと
③ コロナ禍で政治家の判断が生活に直接影響することを体験したことなどから、政権交代など現状が大きく変わることに国民が慎重になったのではないか。
 菅前首相をはじめとした自公政権には大きな不満が寄せられていたが、菅前首相が身を引くことによって局面が大きく変わった。いわば「敵失」に乗じて議席数を増やせると期待していた野党側には一種の「楽観ムード」があり、政権交代後の明確なビジョンを市民に提示することへの真剣な努力が十分ではなかったのではないかとの分析が述べられました。
 そのうえで、選挙結果を総括する際には、後ろ向きではなく前向きに、前進のためには何が必要かという視点での分析が行われなければならないという視点も示されました。

 自民党減、立憲・共産減

 自民党は単独過半数を突破し絶対安定多数を獲得したものの、15議席を減らした。野党共闘候補の当選で幹部や重鎮が落選したこともあり、政権への打撃は少なくなかった。
 一方で、立憲民主党は、小選挙区で9議席増えたものの、比例で23議席を減らした。立憲民主党の議席が比例代表で減ったのは、応援していた支持者(連合の組合員)などの票が維新や国民民主などに流れたからだ。
 連合は、立憲民主党の足を引っ張ることで共闘を破壊し、選挙の結果を口実にして共産党との共闘に冷や水を浴びせるような行動をとっている。立憲民主党は地方組織が弱く、連合の組合員を動員しなければポスターなども貼りきれない。昔の社会党と同じように、議員党的体質・労組依存・日常活動の不足という弱点がある。連合に依存しなくても闘える力強い組織づくりに日常的に取り組まなければならない。
 また、有権者のなかには、いまだ民主党時代の印象が影を落としている。コロナ禍のなかで、かつての震災の時のような危うさを感じ、危機を乗り切れるのかという不安があったかもしれない。野党共闘の側は、政権交代後のイメージとして旧民主党時代の印象を拭えなかったのではないか。
 この「負のイメージ」を払拭するためには共闘の本気度を有権者に示す必要があった。立憲民主党は連合に遠慮した結果、本気になって野党共闘に取り組むというよりも、むしろ共産党と距離をとることに腐心した。これでは野党共闘のブームを生んで「追い風」を吹かせることはできない。
 維新の躍進が取りざたされているが、前回減であったため前々回の41議席に戻ったにすぎない。関西でテレビに出続けた吉村大阪知事の人気が高く、選挙前に対決姿勢に転じたことも奏功した。政権交代に不安を抱いた政権批判票が「途中下車」して維新や国民にとどまったということだろう。
 投票率は、55.93%で前回よりは上昇したが、3番目の低さだった。野党を分断して投票率を低く抑えれば、政権は維持される。逆に、野党共闘で投票率を高めて支持を増やさなければ政権交代は実現できない。

 政権党の動向

 横浜市長選挙を境に、菅前首相では総選挙に大敗するのではないかという危機感が自民党で急速に広まり、菅抜きで自民党総裁選へ向かうこととなった。総裁選はメデイアジャックと言われるほどクローズアップされた。総選挙は公職選挙法による規制があるが、総裁選にはない。「公平性」も求められない。総選挙より総裁選報道に力を入れた報道姿勢に問題があった。自民党のイメージアップに協力したようなものだ。
 9月まで野党共闘は連戦連勝だったが、総裁選での報道で一変した。自民党の「幅の広さ」が演出され、高市さんや河野さんに比べれば岸田さんはマイルドな印象も振りまかれた。その雰囲気が残っているうちに総選挙に突入した。新内閣発足の「ご祝儀相場」があるうちに「奇襲」をしかけるという自民党の「作戦勝ち」だった。
 市民連合を仲立ちとした立憲民主党と共産党との20項目の政策合意は評価できるが、遅すぎた。部分的閣外協力の合意も遅かった。これらの合意は「野合」だと非難されたが、自公政権は選挙に向けての政策合意など一度も行っていない。だから選挙が終わってから10万円給付をめぐって大混乱している。大阪での維新と公明の「住み分け」こそ、「野合」そのものではないか。岸田新政権発足時の首班指名で共産党などは立憲の枝野代表の名前を書いた。部分的な閣外協力はすでに始まっていたのだ。連合政権になれば法案成立のために協力するのは当たり前だ、
 政権交代後の明確なビジョンを示しきれなかったことが最大の弱点だった。安保・自衛隊・天皇制などについても、当面、存続を認める点で立憲民主党と共産党との間に大きな違いはない。これについて有権者へ十分にアピールして不安を払拭できなかったことも反省点ではないか。

 野党共闘の成果と今後の課題

 5ポイント差の僅差の選挙区も多く、共闘は成果を生んだ。野党には共闘の維持・発展と足腰の強化が望まれる。地方議員を増やし地方から代案を提示していく取り組みを行わなければならない。首長選での自民との「相乗り」などはもってのほかだ、情報発信にも工夫が必要だ。ネットやSNSなどで自主的に情報発信する人を増やしていくことが急務だ。
 参院選で勝利し「ネジレ国会」を実現することで、衆院の解散・総選挙に追い込んでいくことが必要だ。政権交代に向けての決戦は、それまで持ち越されたことになる。

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