トルコ製のドローン


アメリカも、無人機の開発に力を入れた。そして21世紀に入るとアメリカ製のドローンがアフガニスタンやイラクでの偵察に使われた。やがてドローンにミサイルが装備され爆撃が可能になった。そして、それが標的殺害に使われるようになった。


ミサイルを搭載したドローン ワシントンのアメリカ航空宇宙博物館
(筆者撮影、2012年7月)

21世紀の最初には、アメリカやイスラエルくらいしかドローンを保有していなかった。だが10年もたつと、武装ドローンが各国に普及し始めた。2010年代末には、保有国は30を超えた。そして、安価な中国製の民生用のドローンが市場に出回るようになった。これに爆弾を積んでIS(、「イスラム国」)などの国家未満の非政府組織が利用するようになった。ドローンは一般化し普及した。


この面で大きな存在感を示すようになったのはトルコである。トルコは、武力闘争を続けるクルド人のゲリラ対策にドローンを導入した。またシリアやリビア内戦でもドローンを使って介入した。特に目を引いたのが、2020年のアルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフを巡る戦争でのトルコ製のドローンの役割である。アゼルバイジャン軍のドローンが、この戦争ではアルメニア軍の車輛や拠点を正確に爆撃した。そしてアゼルバイジャンに勝利をもたらした。ドローンをアゼルバイジャンに輸出したのはイスラエルとトルコだった。この勝利がトルコ製のドローンを有名にした。現在は、このドローンがウクライナの空を舞ってロシア軍を攻撃している。


放送大学テレビ科目『現代の国際政治(‘22)』第14回「宗教と国際政治」から

放送大学テレビ科目『現代の国際政治(‘22)』
第14回「宗教と国際政治」から

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ナゴルノ・カラバフを巡る戦いではアルメニア軍は、ロシア製の地対空ミサイルを配備していた。アゼルバイジャン軍は、まずオトリのドローンを送った。これをアルメニア側の対空ミサイルが撃墜すると、アゼルバイジャンは、その間にアルメニア側のミサイルの位置を確認できた。それを、アゼルバイジャンの武装ドローンが爆撃した。イスラエルが輸出したカミカゼ・ドローンと呼ばれる自爆型のドローンが使われた場合もあっただろう。これは爆薬を積んだドローンそのものが目標に衝突して爆破するという兵器である。日本の第二次大戦末期の神風攻撃との違いは、パイロットが乗っていない点である。いずれにしろ、こうしてアゼルバイジャンのドローンは、アルメニア側のロシア製の地対空ミサイルの問題を解決した。アルメニアの地対空ミサイルはオトリのドローンを撃墜しただけで戦場から消えた。ちょうど1982年にシリアの対空ミサイルがイスラエル空軍のオトリのドローンを撃墜した直後に破壊されたようにである。


このナゴルノ・カラバフを巡る戦争の翌年の2021年エチオピアの内戦では劣勢だった政府軍は、ドローンを利用して戦局を逆転させた。


このように既にシリアで、リビアで、ナゴルノ・カラバフで、エチオピアなどで、トルコが見せてくれた戦場の風景を、我々はウクライナでも、もう一度見せられているわけだ。ナゴルノ・カラバフで既存のロシア製の防空システムの無力化にアゼルバイジャン軍が成功している。それゆえ、ウクライナでも既に見たようにロシア側の地対空ミサイル部隊が大きな損害を出しているのは、驚くにあたらない。


こうしたTB2のロシア製の地対空ミサイルに対する成功の背景にあるのは、ソフトウエア面でのバイカル社の支援である。TB2には40台のコンピューターが搭載されている。そのソフトウエアは月に何度も更新され、ロシア側の対応策に即座に対応しようとしている。たとえば通信に使用する電波に対する妨害対策として、突然に使用電波を変更するなどの手段が取られているようだ。いわばTB2 は、スマートフォンのような存在である。


ロシアの保有する最新の対空ミサイルはS400と呼ばれる。このS400がウクライナの戦争に投入されているのか。あるいは、それに対してトルコ製のドローンが、どれほど戦果を挙げているのか。現段階では、筆者は確認できていない。


皮肉にも、2017年、この地対空ミサイルをトルコがロシアから輸入している。これが、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国することかと、トルコとアメリカなどの他のメンバー諸国との関係をこじらせた。だが、トルコは保有するS400で対策を研究しているのかも知れない。 


ロシア側もTB2 対策に力を入れている。有人の航空機を使って多くを撃墜しているようだ。ウクライナ上空での戦いの行方は陸上戦闘と同様に未だに不透明である。


>>次回につづく