岸田政権の筋違い…ガソリンに補助金出すなら、揮発油税を下げよ 新しい資本主義は、ばらまき、官僚主導

現代ビジネスに11月20日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89506

大盤振る舞いの効果に疑問

政府が11月19日にまとめた経済対策に、高騰するガソリン価格に対応した補助金の導入を盛り込んだ。原油価格の上昇や円安によってガソリンの小売価格が上昇しているのを抑えるのが狙いで、ガソリンを給油所に販売する「石油元売り会社」に補助金を出す。

ガソリンの平均価格が1リットルあたり170円を超えた場合に1リットル5円を上限に補助金を出す。年末年始までに開始し、2022年3月まで続けるという。

岸田文雄内閣は選挙公約だったとして大規模な経済対策を実施。総額55兆円あまりの財政出動は過去最大規模だ。まさに大盤振る舞いの補正予算とあって、各省庁が「経済対策」の名目で様々な予算を盛り込んだ。

ガソリン補助金経済産業省のアイデアで生まれた。「時限的・緊急避難的な激変緩和措置」だと萩生田光一経産相は言うが、さっそくその政策効果に疑問の声が噴出している。

日本経済新聞は対策が決まる前日の朝刊で「ガソリン補助金 効果・公平さ疑問」「市場機能ゆがめる恐れ」と紙幅を割いて伝えた上、翌日の社説でも「ガソリン高対策の補助金は問題が多い」と畳みかけた。

実際、実効性が上がるかどうかは疑問だ。元売りに補助金を出したからといって、それが小売価格の引き下げにつながるかどうかは分からない。補助金のすべてが末端価格の引き下げに寄与せず、流通途中の事業者の懐に吸収される可能性も十分にある。また、補助金が出るのだからと言って企業努力をせずに安易に小売価格の引き上げが行われてしまう逆効果も考えられる。

かといって、適正に価格引き下げが行われるよう厳格に運用しようとすれば、経産省が価格統制しているのと同じことになり、役所の権限を強化することになる。もちろん、それを経産省が期待していることも十分に考えられる。業界に「恩を売る」一方で、規制権限が強化できれば、定年後の官僚の天下り先が確保できる。規制改革や公務員制度改革が求められる前のかつて見た光景へと舞い戻っていくことになりかねない。

「時限的」と言っているが、役所が始めた政策が当初予定どおりに収束することはまれで、経済状況が悪いと言ってはズルズルと継続するのはいつもの姿だ。

市場機能を歪めることの弊害

そもそも、「ガソリン高対策」は誰を救うために行うのか。経産省は自分の役所に出入りする「元売り」など業者しか見ていないのだろう。本来は、ガソリンが高騰することで事業に支障が出る他の業種や、生活が苦しくなる個人を救うことが狙いなはずだ。

「市場機能」が働けば、価格が上昇すれば「省エネ」などでガソリン需要が減り、価格を引き下げる方向に動く。販売量を減らしたくない元売りや給油所は価格上昇を何とか小幅に抑えようと経営努力をする。 

ところが、日経新聞も懸念するように「市場機能」がゆがんでしまえばこうした調整機能が働かなくなる。経産省が業者に口出しするとすれば「便乗値上げ」「カルテル」などに厳しい目を向けるのが本来で、補助金で業者を助けるようなことをやるべきではない。

もちろん、ガソリン価格の高騰で苦しむ生活者を放置しておいて良いという事ではない。政府が本気で消費者の負担を減らしたいと思うのなら、揮発油税を「時限的」に引き下げればいい。そうすれば、ガソリンを使う人たちは等しく恩恵を被ることになるはずだ。少なくとも業者によって損得が別れることはないだろう。

何せ、揮発油税は1リットルあたり48円60銭もかかっている。そもそも本則の税率は24円30銭なのだが、「当分の間」ということで暫定税率が引き上げられてい。2008年から12年以上も「暫定」税率は続いている。これを本則に戻すだけでも24円の値下げになるだろう。経産省補助金5円どころの効果ではない。

しかも、揮発油税目的税で道路財源として使われている。この税収を減らせば自動的に道路財源が減ることになり、「財源」は確保される。経産省補助金は新たな財源から出すので、結局は「借金」になる。

官僚主導に戻るのか

いやいや、道路財源は国土交通省の管轄なので経産省は口を出せません、と言うに違いない。この縦割りを打破するのが政治の役割ではないか。

岸田首相は「新しい資本主義」の掛け声の下、様々な会議体を立ち上げている。新しい資本主義の中味はほとんど分かっていないし、岸田首相の口からも具体的な姿は語られない。

だが、今回の経済対策を見ていても、何しろ「ばらまく」ことが「新しい資本主義」の一翼であることが見えてきた。その大方針にのっとって各省庁もせっせと補助金を創設し、自分の権益を広げることに躍起になり始めている。

世界でも「大きな政府」を模索する動きは強まっている。だが、その際には消費者や国民個人を直接的にサポートする制度の導入などが中心だ。

日本で「大きな政府」と言うと、霞が関の官僚が大きな権限を持ち、行政指導で業者をコントロールする「大きな官僚機構」に舞い戻ろうとする動きが強まる。新しい資本主義はまさしく官僚主導の昔の姿に戻った国家主導型経済を期待している人たちが多いのではないか。

「護送船団」に舞い戻った日本が、世界と伍して戦っていけるのか。国民の生活をより豊かにしていけるのか、大いに疑問である。