お寺を活性化するシェアリング・エコノミー

雑誌Wedgeの5月号(4月20日発売)に掲載された連載『Value Maker』です。是非、ご一読ください。

Wedge (ウェッジ) 2020年 5月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2020年 5月号 [雑誌]

 

 コミュニティの中核だったお寺の生き残りを手伝えないか――。2人の女性経営者が立ち上がった。「お寺ステイ」。全国の寺院を宿泊施設として活用し、海外から日本にやってくる外国人観光客らに提供する。

厳しいお寺の経営状況をいくらかでも改善すると共に、日本の精神文化を発信する拠点にもなる。

 雲林院奈央子さんは上智大学卒業後、ワコールに入社。26歳の時にアンダーウェアの企画などを行うシルキースタイルという会社を創業した。シェアリング・エコノミーに関心があった奈央子さん、好きな寺社巡りに出かけた際に、日本各地には魅力的なのに知られていないお寺が多くあることを知り、宿泊施設などとしてもっと活用できるのではないか考えていた。ある日SNSを見ていると、同じような意見を学生時代からの友人が書き込んでいるのに出くわした。

 佐藤真衣さん。早稲田大学を卒業後、投資ファンドなどを経て岩盤浴設備の企画施工会社の社長を務めていた。意気投合した2人はお寺を舞台にシェアリング・エコノミーを進める会社を設立することになった。2016年6月のことだ。社名はシェア・ウイング。社長も「シェア」して2人で共同社長を務めることになった。ソーシャル・メディア企業のガイアックスから出資も受けた。

 今、全国の寺院の多くが存亡の危機に直面している。人口減少、宗教観の変化で「檀家」が激減していることが大きい。地方にある先祖代々の墓地を東京に移す「墓じまい」も流れになり、地方を中心に住職がいない「無住寺」や、寺を存続できずに潰してしまう「廃寺」が増えているのだ。

 「このままではジリ貧だと感じているお寺さんが多いのですが、何か始めるとなるとなかなか着手できないところがほとんど」だと奈央子さんは語る。

 さっそく「営業」に取りかかった2人だったが、壁にぶち当たる。一般の企業と違い、お寺はビジネスという感覚が乏しい。何時間も話し込み、何日も足を運んでも話が進まない、といったことが続いた。

 

飛騨高山との出会い

 

 そんなある日、「人のご縁」が「お寺ステイ」が動き出すきっかけになった。全日本空輸ANA)の専務を務めた野村紘一さんが退職後にボランティアで始めた女性経営者の勉強会に参加したところ、野村さんの故郷、岐阜県・飛騨高山でやって見たらどうだ、という話になったのだ。さらに高山で不動産業を営む長瀬栄二郎・健栄住宅商事社長まで紹介された。

 長瀬さんの紹介で、高山に視察に行った2人は飛騨高山に惚れ込む。日本ならではの街並みが整い、自然環境も素晴らしい。欧米人を中心とする外国人観光客に大人気になっていた理由が分かった感じがした。「すごく良い『気』をもらって何かやりたいと直感で感じた」と真衣さんは振り返る。

 視察ではなかなか良い話には巡り合わなかった。焦った真衣さんがネットで調べて町中にある高山善光寺というお寺の宿坊に泊まることにした。電話をかけると満室だという。宣伝もしていないのに口コミで外国人にも大人気だった。

 いつならば予約できるか聞いたところ、予想外の答えが返って来た。「今年いっぱいで閉めるので」。あと数カ月の話だった。

 住職に連絡が取りたいと言うと、もう住職はおらず東京在住の娘さんが管理している、という。連絡をとり2人は娘さんに会い「私たちに宿坊を任せてください」と直談判した。

 老朽化が激しかった宿坊の大改修に乗り出した。シェアウイングとしても資金をつぎ込み、勝負をかけた。水回りを全面的に新しくして、外国人が快適に過ごせる宿泊施設として一新した。

 コンセプトは「Less is more(より少ないことは、より豊かなこと)」。知的な仕事をしているフランス人の40歳代男性を想定上の顧客対象モデルとした。実際には少し若い日本滞在歴が長い写真家のFabien(ファビエン)さんに意見を聞いた。

 17年9月にオープン。1泊1部屋2−3万円、ひとりあたり1万円を目安に料金設定した。外国人にわかりやすいように「Temple Hotel」という名称を使う。古い宿坊の時とは比べものにならない高値だが、それでも人気は爆発した。

 東京・芝にある正傳寺。庫裏を改装した宿坊は、6人まで宿泊できる部屋が2つあり、シェアウイングがスタッフを常駐させずに遠隔管理している。住職の田村完治さんは「都心なので、単に収入だけを考えれば、事務所として貸した方が効率的。ですが、仏教に触れる経験を持ってもらうことがお寺として大事だと考えお願いしました」と語る。

 人口が減っていない都会の寺院も決して経営が楽なわけではない。正傳寺の墓地も空き地が目立つ。「家制度が壊れ檀家さんが減っているのは都会も同じ」だと田村住職は言う。

 「お寺ステイ」では、宿泊者の要望があれば、写経やお守り作りなどを体験できる。また、朝夕のお勤めに体験参加することができるお寺もある。

 もともと奈央子さんは、大使館の仕事もしていて、外国人をお寺に連れて行くと大感激されることを知っていた。イベントを開催する場所としてお寺の本堂を活用することなども企画・プロデュースする。

 「お寺とのビジネスは、何よりもまず信頼を得るのが大変です。一度信頼を得ると、他のお寺を紹介してくださるなど、ネットワークが広がっていきます」と真衣さん。群馬県・桐生の観音院ともつながった。地域の観光拠点としてさまざまな人に来てほしい、と言うのが「お寺ステイ」を始める動機になった。19年の10月にオープンした。

 2人が今、熱い視線を注ぐのが山梨県身延山。端場坊(はばのぼう)という塔頭寺院と契約しているが、日蓮宗の総本山である身延山久遠寺には数多くの宿坊があり、1000人以上が宿泊できる。かつてのように団体参拝客が絶えなかった時代のような賑わいは減ってきている。「コンベンションやテレワークなどを行う場として認知されれば、外国人にも受けるのではないか」と真衣さんは夢を膨らませる。

 

「寺ワーク」という働き方

 

 今、力を入れようとしているのが「寺ワーク」。お寺を拠点にリモートワークすることを提案しているのだ。集中して働き、心を整え、地域を知って、地域性を楽しむには、お寺がぴったり、というわけだ。

 シェアウイングのスタッフは総勢16人ほど。多くが常勤ではなく、それぞれが業務を分担する、まさに「シャア」して働くスタイルだ。不思議な「人のご縁」で僧籍を持つ若手が社員として加わったり、宿泊業の専門家が加わるなど、「チーム」が大きく広がっている。

 シェアリング・エコノミーを追求する女性経営者の2人が、資本主義経済の「外」にいるとも言える「お寺」に魅力を感じているのも、これまでと違った仕組みが価値を生み出す新しい時代の到来を意味しているのかもしれない。