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- NTT ドコモをTOBで完全子会社化
- 楽天 月額2980円で5Gサービス開始
そもそもNTTの分割自体に意味がなかった
NTTは先月29日、NTTドコモの完全子会社化に向けてTOBを実施すると発表しました。
NTTの澤田社長とドコモの吉澤社長は「菅首相が意欲を示す携帯電話料金の値下げに対応しながら成長するため」としています。
この問題については、違う角度から見る必要があると私は思います。
まず、「そもそもNTTを分割した意義はあったのか?」という点から考え直すべきです。
1985年に民営化したNTTは、まず数年後にNTTドコモ・NTTデータを分社化しました。
その後、1999年の再編成で、東西地域会社としてNTT東日本とNTT西日本が、また長距離・国際電話を担うNTTコミュニケーションズが誕生しました。
当時私は「分割すべきではない」と強く反対しました。
しかし世論の圧力もあり、結局NTTの分割は行われてしまいました。
電話がネット化した今、長距離という概念もなくなり、ルーターの外側はすぐ世界と繋がっていますから、長距離電話や国際電話を分割しても意味がないと理解できる人も多いでしょうが、当時はそうではありませんでした。
また国内を2つに分けたのも、鉄道ならまだしも、電話の場合にはほとんど意味はなかったと私は思います。
もともとNTTを分割するという概念は、米国のAT&Tから強く影響を受けたものです。
AT&Tは米国であまりにも独占体として強くなりすぎたために、反トラスト法をめぐって、7つの地域電話会社(ベビーベル)と1社の長距離電話会社(AT&T)に分割されました。
しかし時を経て、2つのベビーベルが統合してベライゾンになり、サウスウェスタン・ベルを中心にした5つのベビーベルが合併と買収を繰り返し、今のAT&Tが生まれています。
AT&Tとベライゾンの2社は非常に強く、日本のソフトバンクをはじめとして、外国勢の米国市場への参入を見事に退けていますが、「結局7つに分割した意味はあったのか?」というと甚だ疑問です。
またAT&T分割ではベル研究所を切り離しましたが、米国にとって大きな損失になったと私は思います。
ベル研究所はAT&Tから分割された後、フランスのアルカテルの配下になり、今はノキアに買収されて傘下に入っています。
ノキアの5G技術を支えているのは、この元ベル研究所の技術にほかなりません。
5Gの覇権をめぐってノキア、エリクソン、ファーウェイが争っていますが、もしノキアがベル研究所を買収していなければ、エリクソンとファーウェイによる一騎打ちの構図になっていたはずです。
AT&Tの事例も踏まえ、NTTも「そもそも分割する意義がどこにあったのか?」を見つめ直して反省することから始めることが大切だと私は思います。
NTTは国内だけでも可能性は山ほどあるが、NTT法によって縛られている
NTTドコモの買収そのものはスムーズに行われると思います。
TOBとはいえ、NTTはあと1%保有すれば、NTTドコモ株全体の67%を保有することになります。
3分の2以上の保有率になるので、やろうと思えばスクイーズアウト(少数株主の排除手続き)も可能です。
そのような状況にもかかわらず、NTTは良い条件を提示していますから、TOBで揉めることはないでしょう。
NTTの業績を見ると、売上自体は落ちていませんが、やはり移動通信の利益が大きく、依存度が高くなっています。
澤田社長の「一体化」という言葉を聞くと、この先もスマホ・携帯が主戦場になってくるので、NTTドコモを中心に立て直すという意思を感じます。
「NTTドコモと一体化することで、海外展開も可能になるのでは?」という意見もあるようですが、私に言わせれば、NTTは海外に行く前に、国内でできることが山ほどあります。
NTTは電話料金を何十年も支払っている人たちの貴重な顧客情報を保有しています。
これは極めて大きな信用情報です。
これを活用してNTTが銀行業やクレジットカード事業を始めるなら、あっという間にサービス展開が可能だと思います。
さらに言えば、料金回収の仕組みも持っているわけですから、NHKの料金回収すら簡単に代行できるはずです。
アントファイナンシャルのようになるもよし、eコマースをやるもよし、何でもできます。
NTTは「NTTドコモと一体化して海外展開を」などと考える前に、まず国内の顧客情報を活用することを考えるべきです。
そのような事業を展開しようと思ったときに、NTTの足枷になるのが「NTT法」です。
「NTT法」により縛られていることはたくさんありますが、代表的なものは「全国どこでも固定電話サービス」の義務です。
小さな離島、あるいは山間部に一軒だけでも残る世帯があれば、その一軒のために電線や海底ケーブルなどを維持することが求められています。
通信業者の中で、このような「シビル・ミニマム」という十字架を背負っているのはNTTだけです。
auやソフトバンクには適用されていません。
本来であれば、こうした費用は参入している全社で分け合うべきだと思いますが、NTTがそのようなことを言い出せば、「強者のくせになんだ」という批判を受けてしまうでしょう。
しかし、「NTT法」が施行された頃から時代は変わっています。
ソフトバンクなどは、世界最大規模のサウジアラビアのファンドを味方につけてやりたい放題にしているわけですから、NTTだけが「強者だから」という理由で重荷を背負うのはおかしいと私は思います。
もし私がNTTの澤田社長の立場なら、現状において「シビル・ミニマム」で縛られているために、前向きなことをやらせてもらえないという状況を打開することを考えます。
たとえば、政府に働きかける動きをとるかもしれません。
菅首相は「電話代を下げろ」などと発言していますが、少なくとも資本主義国において、他にも携帯電話会社はたくさんあるのですから、政府が値段を下げろなどと発言するのはおかしな話です。
全くの「余計なお世話」であり、私なら逆手に取って「もし価格設定にまで介入するなら、その前にNTT法を取り下げろ」と交渉するかもしれません。
全面的な撤廃は難しくても、携帯受信システムの構築費を各市町村に負担させるなど、NTTだけに全てを負わせるのはやめろ、と主張することもできるでしょう。
NTTは国内において大きなビジネス基盤を持っている一方、NTTだけが「NTT法」に縛られている状況にあります。
NTTの今後の展開を考える時には、このあたりを中心に考えるべきだと私は思います。
楽天携帯のサービスレベルを知るには、人口カバー率よりも地域カバー率
楽天は先月30日、次世代通信規格5Gのサービスについて、データ使い放題で月額2980円(税抜)で提供すると発表しました。
楽天の価格優位性について、世間では疑問視する声もあるようです。
この点について三木谷会長は、海外の特許も使ってソフトウェアでカバーしているところが多く、基地局をたくさん作るなどといった固定費がかさむ大きな投資は行っていない、と説明しています。
私はこの問題よりも、楽天が発表している「人口カバー率90%」という指標が気になりました。
日本で人口カバー率90%と言っても、実際のところ「地理的なカバー率」でいえば、15%ほどかもしれません。
私は人里離れた場所へバイクで走りに行きますが、auでさえ電波が通っていない地域が多くあります。
携帯電話のサービスレベルを判断するにあたって「人口カバー率」という指標にどれだけ意味があるのか、と私は感じます。
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※この記事は10月4日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はNTTのニュースを大前が解説しました。
大前はNTTについて、「『NTT法』が施行された頃から時代は変わっている」と述べています。
開始当時は時代にあっていた取り組みも、時が経ち、気付けば時代遅れになっていることがあります。
・その取り組みは、いまの時代にあっているのか?
・その取り組みは、いまでも最適なのか?
歴史に縛られることなく、考え続けることが大切です。
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