後手に回った政治の決断、「最悪のタイミング」でGoTo一時停止 「優柔不断」菅内閣の支持率低下

現代ビジネスに12月17日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78420

専門家は11月には停止の声

後手後手に回った結果、最悪のタイミングになった。「GoToトラベル」の「一時停止」である。

菅義偉首相は12月14日、「GoToトラベル」を12月28日から1月11日まで全国一斉に「一時停止」することを表明した。ようやくの「政治決断」である。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は12月9日、衆議院厚生労働委員会立憲民主党山井和則議員の質問に答えて、「分科会はステージ3相当の地域は、感染のこの状況を打開するには、GoToを含めて人の動き、接触を控える時期だと思う」と発言。「ステージ3ということは東京を含めて一時停止すべきか」との重ねて問われたのに対して、「分科会はそう思っています」と明確に答えた。

実は、分科会の議論では11月の早い段階から、「GoToトラベルの一時停止」を求める声がメンバーから出されていた。

しかし「GoToトラベル」という政府の政策に関する決定は「政治家の仕事」で、専門家はその材料を提言するにとどめるべきだという考えがあった。結局、11月中に尾身会長が直接「一時停止」に触れることはなかった。それを翻して国会質問で踏み込んだのは、政治が決断しない状況が続いたからだった。

尾身会長が踏み込んでも菅義偉首相は「一時停止」の決断をためらった。尾身会長は12月11日に記者会見し、同日開いた分科会の結論として感染拡大地域の「GoToトラベル」を一時停止するよう正式に求めた。にもかかわらず、菅首相は決断をまだ躊躇していた。

同日夜に出演した「ニコニコ生放送」で、GoToトラベルの一時停止を問われると、「まだそこは考えてません。考えていないというか、きょう提言を受けたわけですから」と答えていた。

世論調査に押されてやっと

そうした姿勢を180度、菅首相が変えたのは、分科会の専門家から受けた厳しい提言を熟考したからだろうか。どうもそうではない。

一時停止を表明した12月14日にNHKが発表した世論調査で、菅内閣の支持率が42%と、11月の調査から14ポイントも低下した。「支持しない」と答えた人も17ポイント上昇して36%となった。支持と不支持の逆転こそ起きなかったが、支持率の急低下が鮮明になった。

同じ調査で、「新型コロナをめぐる政府への対応」について「まったく評価しない」が16%、「あまり評価しない」が40%に達したほか、「GoToトラベル」について「いったん停止すべき」と答えた人が79%にのぼり、「続けるべき」とした人の12%を大きく上回った。

実は、その2日前の12月12日には毎日新聞世論調査結果が公表され、内閣支持率が40%、不支持率が49%と不支持が支持を上回っていた。永田町に動揺が走ったが、毎日新聞はもともと菅内閣に批判的で、政府に厳しい結果が出がちだとの見方もあった。

それが、政権に比較的近いと見られているNHKの調査でも支持率が急落したため、菅官邸は何らかの手を打たざるを得なくなったとみられている。つまり、専門家の声を聞いたからではなく、支持率が急低下したから、決断したということのようなのだ。

年末年始シーズンはこれで台無し

結果をみれば、菅首相の決断は遅過ぎた。11月の上旬に感染拡大が懸念されていた地域だけでも「一時停止」を決めていれば、12月に入ってここまで感染拡大は起きず、年末年始の「書き入れ時」に人の動きを止めずに済んだかもしれない。最悪のタイミングでの「一時停止」を避けることが出来たかもしれないのだ。

何せ11月21~23日の3連休は各地の観光地で猛烈な人出となった。紅葉が見頃を迎えた京都嵐山では、昨年11月の休日平均に比べて、最大で1.6倍を記録していた。凄まじい人出だったのだ。

それにもかかわらず、GoToトラベルと新型コロナ拡大の因果関係があるとは「我々は見ておりません」と菅首相は言い続けた。

菅首相が「一時停止」をなかなか決断できなかったのは、それだけ「GoToトラベル」の効果が大きかったこともある。

7月22日から11月15日までの利用者数は、少なくとも5260万人泊、割引支援額は少なくとも3080億円にのぼった。地域共通クーポン券を除いた宿泊旅行代金の補助だけで2509億円に達しており、自己負担分も含めると7000億円以上のお金が宿泊業を中心とする旅行業者に落ちたことになる。まさに「GoTo特需」だったわけだ。

年末年始の「一時停止」によって、旅館やホテルなどには予約のキャンセルが殺到しているという。

旅行者にキャンセル料はかからないうえ、事業者にも旅行代金の50%が補償金として国から払われる。ひとり1泊2万円の上限があるので、高級旅館・ホテルなどはコスト回収は難しいが、一定の助成によって、事業者は壊滅的な打撃を受けなくても済む、というのが政府の見方だ。

一番脆弱な雇用を痛撃

もっとも、最大の稼ぎ時である年末年始の利用客が減れば、パート従業員やアルバイトなどの仕事が減ることになりかねない。「宿泊業・飲食サービス業」の就業者数は10月段階で前年同月比10%近く減っているが、年末年始の雇用情勢が大きく悪化することになりかねない。

こうした雇用対策も含め、もう少し早く政治決断していれば、対応の仕方があったのにと悔やまれる。

菅内閣が発足して3カ月、国民への説明力が乏しいという菅評が定着しつつある。そこに「優柔不断」「決断できない」と言ったマイナス評価が加わるのを避けようと、「全国一斉」に「GoToトラベル」の一時停止を広げたようにも見える。

専門家は「感染拡大地域」の一時停止を求めていたが、その意見にはまともに向き合わなかったということだ。

大きな犠牲を払って人の動きを止める今回の措置が成果をあげ、新型コロナの感染拡大が止まることを祈るばかりだ。