大前研一「ニュースの視点」Blog

KON902「岸田首相/税制改正~国民の貯蓄を市場に引っ張り出す施策とは」

2021年10月18日 岸田首相 税制改正

本文の内容
  • 岸田首相 新しい資本主義の実現を強調
  • 税制改正 金融所得の税率上げ議論

新しい資本主義という言葉遊びではなく、具体的な政策を打ち出すべき


岸田首相は8日、衆院本会議で所信表明演説を行いました。

演説の中で信頼と共感を得られる政治が必要とし、国民との丁寧な対話と説明に注力する考えを強調。

経済対策では、中間層を守る新たな資本主義の実現へ向けて成長と分配を車の両輪にする考えを示しました。

岸田首相の話し方は上手だと感じましたが、話の内容については全く具体性がなく非常に残念でした。

「新しい資本主義」と発言していましたが、具体的にどのようなことを意味しているのか全くわかりません。

そもそも、既存の資本主義を岸田首相がどう捉えているのかという点も不明ですし、それがあったとしても「新しい資本主義」を考え出すというのであれば、経済学者でも難しいことです。

安易に「新しい資本主義」という言葉を使いすぎだと感じました。

また、「成長」と「分配」という言葉もキーワードとして使っていましたが、この点についても具体性がなく、これらを両輪とするのは当たり前の話です。

それらを前提として、日本のように成長が止まってしまっている国でどのように成長させるのか、あるいは、高度福祉社会的な分配をしてきた日本がこれから何を原資として、どのように分配していくのかといった点を話してくれなければ意味がないと私は思います。

そのためには今なぜ日本が成長できていないのかを考えるべきでしょう。

私はかねてから提唱しているように、原因は「低欲望社会」にあると思っています。

低欲望社会の日本においては、20世紀の古い経済対策は効果がありません。

低欲望社会が進み、貯蓄だけが増えてお金が市場に出てこない日本においては、その貯蓄をどのようにして市場に引っ張り出すかということが最重要課題です。

その1つの解決策として、私は金融資産にも課税するという案を提唱してきました。

たとえば、金融資産に対して1%課税するだけでも数十兆円規模の財源を確保することができるはずです。

それだけの財源があれば、新しい分野に分配していくこともできるでしょう。

岸田首相には誰か経済アドバイザーがいるのかもしれませんが、結局のところ言葉遊びをしているだけだと感じます。

安倍元首相は浜田宏一氏やクルーグマン氏を経済指南役として「アベクロ」経済対策を実施しましたが、金利を下げて市場をお金でジャブジャブにしても何ら効果はありませんでした。

岸田首相には同じ轍を踏まないように、効果的かつ具体的な方針を打ち出して欲しいと思います。




国民の貯蓄を市場に引っ張り出す具体的な施策とは?



日経新聞は7日、「金融所得の税率上げ議論」と題する記事を掲載しました。

現在20%の金融所得課税について政府が一律で引き上げる案や、高所得者の負担が重くなるように累進的に課税する案を検討すると紹介。

しかし、日本は欧米に比べて、家計が保有する金融資産のうち株式や投資信託は少ないほか、政府が進めている「貯蓄から投資」にも水を差しかねないとしています。

その後、当面の間実行の予定はないと発言していましたが、そもそも効果がある施策なのか私には疑問です。

おそらく配当金や金利に対して課税するということになるのでしょうが、そもそも日本の金利は低すぎるので税率を上げたところでほとんど効果はないでしょう。

それよりも、上述したように、保有する金融資産に対して一律で課税する方法のほうが効果的です。

家計の金融資産構成を見ると、日本人の金融資産のほとんどが現金・預金です。

この金融資産に対して課税率1~1.5%でも数十兆円の財源を見込めますし、極端な話として、5%にすれば一気に100兆円規模の財源を確保することができます。

もちろん5%の課税率では他に問題が起こるので現実的とは言えませんが、理論的にはこのように考えるべきだと思います。

そして、金融資産に加えて固定資産に対しても同様の課税をすれば、さらに財源を確保できます。

他にも、貯蓄に回りがちなお金を引っ張り出す方法は考えられます。

例えば、日本人の家に対する意識を変えるというのも1つの策です。

米国の例を見るとよくわかります。

米国人は日本人に比べて「家に対する願望」が非常に強い国民です。

米国では株を持っている人が多く、株式市場が上向くと景気が良くなるという傾向がありますが、そのようなとき、米国人は株を抵当に入れて家を購入します。

生活する家以外に、南部の暖かい地域に2~3軒の家を保有する人も多くいます。

この南部に購入した家は、老後になって用途がなくなったら売却してしまいます。

米国は貯蓄性向が低いと言われますが、実は最終的にこういった家を売ることで現金を手にすることができます。

つまり、家が貯蓄代わりになっていると言えます。

一方、日本では「狭いながらも楽しい我が家」「終の棲家」という価値観が一般的に広まっていて、生活する以外の家を購入する人はごく一部です。

その結果、お金は使われることなく、何十年も貯蓄されているだけで終わってしまいます。

欧米では貧富の二極化が進んでいます。

日本では、欧米ほど大きな貧富の差が生まれていないのは良いことですが、逆に言えば「金持ちになりたい」という欲望が少ないということであり、社会的な大きな課題の1つだと思います。

日本はこの30年間全く給料が上がっていないのに、社会が安定しています。

国の為政者としては極めて治めやすい国と言えるかもしれませんが、このままで良いのか考えるべきでしょう。




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※この記事は10月10日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は岸田首相のニュースを大前が解説しました。

大前は岸田首相が述べた経済政策について、「現在の資本主義をどう捉えているのか、どのような点が『新しい資本主義』なのか説明すべき」「日本が成長出来ていない理由は何か、何を原資として分配するのか具体的に提示すべき」と述べています。

問題設定においては、あるべき姿と現状の差を明確に把握することが必要です。

特に、あるべき姿を具体的にしておくことで、どの程度問題解決が出来たのか結果を振り返る際にも役立ちます。


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