楽天、そして東芝。海外からの出資、買収の障害になる改正外為法 国の安全に関わる業種というけれど

現代ビジネスに4月22日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82452

慌てて法改正したものの

日本企業に対する海外からの投資に関して、どこまで政府が関与するのか、混乱が起きている。

2019年末に成立し、2020年5月から施行された「改正外為法」では、海外企業が「指定業種」の企業に出資する場合、「届出」を行うことが義務付けられているが、その基準を従来の、持ち株比率「10%以上」から「1%以上」に厳格化した。

指定業種の対象は、「国の安全」や「公の秩序」「公衆の安全」「我が国経済の円滑運営」に関わる企業で、「武器製造」「原子力」「電力」「通信」などが国の安全を損なうおそれが大きい業種とされている。

安全保障上、問題になる「機微情報」、「機微技術」が流失したり、日本の安全保障を担う基幹インフラに外国の影響力が強まることを防ぐ狙いで、経済産業省財務省が主導して法改正が行われた。

もっとも、背景には、米中対立が激しくなったことで、中国への技術流出を懸念する米国から厳格化を求められたとも、「モノ言う株主」と言われるアクティビスト・ファンドから日本企業を守るために経産省が動いた、とも言われている。慌てて改正されたためか、この法律の運用で混乱が起きているのである。

楽天への出資で大騒ぎ

今年3月12日、楽天が増資を発表したが、その引受先に中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)の子会社が含まれていた。

増資によって楽天株のテンセントの持ち株比率が3.65%になることが明らかになると、この外為法の「届出」がにわかに問題になった。楽天やテンセント側は、出資後も経営には関与しないという一文を契約書に盛り込むことで、純粋な投資として届出対象から除外される、と考えていたが、安全保障問題に関心を持つ自民党政治家の一部から疑問の声が上がった。

楽天側は、水面下で担当の省庁と接触、届出を事前に出すことを免除される「例外規定」の対象になるとの感触を得て、予定通り3月末までにテンセントの出資を受け入れた。

ところが、4月20日になって日本経済新聞が「改正外為法、事前審査免れ 中国テンセントの楽天出資」という記事を掲載、NHKも翌日、「政府、楽天への中国IT大手出資を調査へ 安全保障の観点から」というニュースを流した。

事前に届出しない場合、外為法では、事後に届出することを求めており、テンセントはそれに従った手続きをとったが、それを政府がことさら問題視しているような報道が相次いだ。

ロイターも「日米、楽天を共同監視」という記事を配信。「日本政府が外為法に基づいて楽天から定期的に聞き取り調査を行い、米当局と内容を共有することで、中国への情報流出リスクに連携して対処する」とした。「日米の顧客情報がテンセントを通じて中国当局に筒抜けになる事態を警戒」しているという。

潰れ去った東芝買収

同じタイミングで、原子力事業を持つ東芝の話も浮上した。英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズ東芝を買収して非上場化するという話が4月に入って報じられたが、結局、CVCは具体的な買収提案を出せず、交渉が中止されることになった模様だ。

CVCの元日本代表だった東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が、モノ言う海外ファンドの攻撃をかわし、社長の座を保持するためにCVCに買収提案させようとしたのではないかとの見方が一気に強まり、4月14日に車谷氏は社長辞任に追い込まれた。

もともと海外ファンドであるCVCが、原子力事業や半導体事業の持ち分を持つ東芝を買収する場合、前述の外為法の規制に引っかかる。

明らかに事前の届出が必要になるが、これをどうクリアしようとしていたのか。CVCによる買収スキームでは、日本の政府系ファンドである産業革新投資機構(JIC)も買収に参加するという報道がなされ、経産省の一部が車谷氏の案を支援しているという見方が出ていた。

関係者によると、経産省幹部らは、CVCが東芝を買収する際には、原発事業を切り離すことで車谷氏側と話が進んでいたとされるが、そうでなければ外為法をクリアすることはかなり困難だったとみられる。

その後も、「JICや農林中央金庫などが参画する日本主導のファンド連合が、東芝に買収提案する方向で検討に入った」と日刊工業新聞が報じるなど、経産省の影がちらついている。この報道に対して農林中金は、「そのような事実はない」とコメントを出した。

政府に「機微情報」が判断できるのか

いずれにせよ、どういう条件をクリアすれば、外為法上、外国の出資が認められるのか、はっきりしていない。

「何が機微情報、機微技術なのかも明示されておらず、対象産業の幅も広い。役所の運用で特定の国からの投資は一切認めないという運用をするのであれば、法的に問題。事後の届出で出資は求められないと言われたら、経営は成り立たない」とIT系企業の幹部は言う。

新型コロナ禍からいち早く回復した中国企業の影響力が一段と強まる中で、経営危機に瀕した日本企業が中国企業に出資を仰ぐケースも相次ぐ可能性がある。その度に政府が口を出し、出資の可否をチェックすることになるのか。

そもそも「政府には先端技術に通じた人材がおらず、何が安全保障上の機微技術に当たるかを判断する能力はない」という指摘もある。

米中対立が深刻化する中で、この改正外為法をどう運用していくのか。政府内でも混乱が続くことになりそうだ。