新型コロナワクチン接種開始 霞が関の管理システムに致命的「欠陥」

SankeiBizに連載中の「高論卓説」に2月17日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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 新型コロナウイルスのワクチン接種が始まる。まずは医療従事者が対象だが、その数は全国で370万人に上るとみられる。政府が4月にも開始するとしている高齢者向け接種の先行例として注目されるが、ここへきて大混乱が予想されている。

 厚生労働省は1回目の緊急事態宣言が明けた昨年夏から、ワクチン接種のためのシステム開発に着手した。7月には業者選定の入札が行われ、年末にはシステムの概要が地方自治体に説明された。ところがそこに大問題が潜んでいることが発覚する。

 厚労省が開発した「新型コロナウイルスワクチン接種円滑化システム(略称・V-SYS=ブイシス)」では、誰にいつ接種したかが把握できないことが分かったのだ。1日に何件の接種が終わったかもすぐには分からず、医療従事者が何件で、高齢者が何件かといった情報も知る術がない。厚労省用の資料にも「一元的な情報管理を通じてムリ・ムダ・ムラを予備的に排除し、予防接種の効率的、かつ着実な実行を支援するためのシステム」と説明されている。つまり、ワクチンを分配するためのシステムなのだ。

 厚労省がV-SYSを「不十分」とも思えるシステムに設計したのは、従来の役所の仕事の流れをそのままデジタル化しようとしたことに原因がある。通常の予防接種は国から地方に任された「機関委任事務」。つまり、ワクチンを調達してそれを地方自治体に公平に分配するところまでが「国の仕事」で、その後どう接種するかは自治体の責任というわけだ。

 概要説明を受けて、全国の自治体は接種の予約や接種券の発行・送付などを行うシステムの開発をはじめたが、委託先業者は自治体によってばらばらで、それらの情報をつなぐ仕組みにはなっていない。誰に接種したかを把握するのも自治体の責任になる。通常の予防接種では、自治体ごとに持っている「予防接種台帳」に記載されていく。厚労省は今回もこの予防接種台帳に記載し、それを自治体から報告させれば接種件数などの把握ができると考えたわけだ。つまり、全てこれまでのやり方と同じ「平時モード」を前提にシステムを作ったのである。緊急事態宣言を出しているものの、役所の頭は平時なのである。

 予防接種台帳はほとんどの自治体でデジタル化されているものの、予防接種した情報は紙で自治体に上がってくる。月末締めで集まってくる紙を業者に委託してシステムに入力させている。台帳に反映され情報として把握できるまで2、3カ月はかかる。国際的に必要になるかもしれない予防接種証明を出すにはなお時間がかかる。

 さらに問題なのは、高齢者やその後の一般の人への接種は市町村の役割なのだが、医療従事者への接種は都道府県の仕事になっていることだ。つまり、医療従事者は市町村が作るシステムとは別に情報把握する必要があるが、その仕組みはほとんどできていない。デジタル化に背を向けてきた“お役所仕事”の問題が、緊急時に露呈する最悪の事態になっている。