大前研一「ニュースの視点」Blog

KON900「インド太平洋情勢/クアッド~バイデン大統領の焦りが招いた外交失策」

2021年10月4日 インド太平洋情勢 クアッド

本文の内容
  • インド太平洋情勢 「AUKUS」(オーカス)を構築
  • クアッド 日米豪印が対面で首脳会合

バイデン大統領の焦りが招いた外交失策



米国、英国、豪州の3カ国は新たな安全保障の枠組み「AUKUS」(オーカス)を構築すると発表しました。

3カ国による高官協議を立ち上げるとともに、米国と英国が豪州の原子力潜水艦配備を支援するものですが、豪州政府は2016年に仏政府系造船会社ナバルグループを潜水艦の共同開発企業に指名しており、事業を撤回されたフランス側は強い不満を表明しました。

AUKUSはAUで豪州、UKで英国、USで米国を意味する3国関係ですが、やや複雑な様相を呈しています。

その1つの理由が、この3カ国にカナダとニュージーランドを加えた「エシュロン」という通信傍受システムの枠組みが既にあることです。

(ただし米国はエシュロンについて公式に存在を認めていません)

こうした関係性から見ると、今回の3カ国による枠組みは不思議だと感じます。

オーストラリアは2016年に、次期潜水艦事業の共同開発企業としてナバルの前身であるDCNSを選定しています。

しかし、ナバル選定後、保証期間などを巡る交渉が難航するなど、オーストラリアからの要望に応えられず、プロジェクトは順調ではありませんでした。

同事業を巡っては日本も受注を目指していましたが、失注したという経緯があります。

日本の潜水艦製造技術は優れているので、もし日本が受注していれば上手く行ったのではないかと私は見ています。

そんなオーストラリアの状況を受けて、米国が原子力潜水艦の配備支援に手を挙げたという形になります。

その上でオーストラリアには中国へ対抗する立場として頑張ってもらいたいという意向でしょう。

原子力潜水艦のノウハウは英国と米国など限られた国しか持っていないものですから、これをオーストラリアに提供するというのは、非常に重要なことです。

それゆえ、エシュロンのメンバーでもあるニュージーランドは不快感を示しています。

アーダーン首相がモリソン豪州首相に対し、ニュージーランドの領海内への原潜の進入は容認できないと伝えたと言われています。

また、米国の介入で当初の見込みよりも費用が膨らみ、7兆円に膨張した取引を失った仏政府も怒り心頭で、仏マクロン大統領は駐米・駐豪大使を召還する強い報復に出ました。

結局、バイデン大統領が謝罪をしたことで、マクロン大統領は召還した駐米大使を復帰させることを決めたそうですが、私に言わせればまるで子供の喧嘩です。

このような状況に陥ってしまったのは、バイデン大統領が事前の根回しなどをせずに性急に事を進めてしまったためです。

アフガニスタンからの撤収で世間から批判を浴びている中で、焦って何かやらなければと思ったのでしょう。

外交で失敗続きのバイデン大統領ですが、また1つ外交政策の失敗が増えてしまいました。

なお、今回の件でオーストラリアが核武装することになるのではないかと思う人もいるかも知れませんが、そうではありません。

英国と米国が保有する原子力潜水艦は2種類あります。

オーストラリアが契約するのは、原子力を動力源としますが核弾頭ミサイルを搭載していないものです。




経済的に中国を排除するのは非現実的だ


日本、米国、豪州、インドの首脳会合が先月25日、米国の首都ワシントンで行われました。

4カ国が対面で集うのは初めてで、会合では「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携を強化するとともに、新型コロナ対策などの課題で協力を拡大する方針で一致しました。

ここでもバイデン大統領の焦りが見てとれます。

4カ国を急遽対面で呼びつけて多くのことに合意しましたが、中国に対して「自由で開かれたインド太平洋」というのは現実的とは思えません。

まるでトランプ前大統領の後遺症を患ったのかのように、バイデン大統領は十分な準備をせずに、とにかく「中国と対立する」という方針を受け継いでしまったという印象です。

日本、米国、オーストラリア、インドにとって貿易相手としての中国は極めて重要であり、簡単に排除できるものではありません。

各国の輸出入における対中輸出・対中輸入の順位を見ると、その依存度の高さがわかります。

中国は非常に重要な取引相手国であり、強がりを言ってみても難しいことがわかるでしょう。

サプライチェーンについても議論が交わされたようですが、この分野こそ中国抜きで考えることは不可能であり、サプライチェーンの中身もよく理解していないのでしょう。

例えば、台湾を応援するという姿勢を見せていますが、台湾企業は中国内でサプライチェーンを担っていますから、矛盾しています。

政治家が経済の流れやサプライチェーンの中身も理解しないまま、中国を抜きにして話を進めようとしても無理があります。

日本はかろうじて4カ国の中では素材に関して中国依存度が低くなっていますが、最終的に商品や製品の完成まで考えれば、いずれの国も中国抜きでは考えられないはずです。

特に米国は中国を排除したら、製造業マーケットそのものが崩壊するでしょう。

例えば米国のスーパーマーケットで売っているものを見れば、中国を経由したものが多く並んでいます。

こうした現状を踏まえてどこまで中国と対立しようとしているのか、私には全く理解できません。

中国の政府に問題があることは承知していますが、それは別次元の問題です。

中国を経済的な観点から隔離することは可能なのか、今一度考えてほしいと思います。

世界の国々は相互依存の中で、お互いに得意なものを融通しあっています。

これがグローバル経済の本質であり、不用意に「中国外し」を合意したとしても全く意味はなく、百害あって一利無しだと私は思います。

経済について素人の政治家が集まって議論をしていても、結局この程度です。

バイデン大統領がどうしても中国との対立構造を貫きたいというのであれば、何かしらテーマを絞るべきです。

例えば、「新疆ウイグル自治区の問題」あるいは「香港の問題」などです。

トランプ前大統領のように「とにかく中国と対立」するのではなく、経済は中国ありきで成り立っていることを自覚して、バランスをとった政策を打ち出してほしいと思います。




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※この記事は9月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はクアッドのニュースを大前が解説しました。

大前は「中国抜きでのサプライチェーンはありえない状況になっている」と指摘した上で、「世界経済は各国が得意なものを作り、相互依存することで成り立つ」と述べています。

企業同士が強み・弱みを相互補完し、ビジネスのネットワークが構築されています。

ただし、関係性の変化などによっては大きなリスクが生じることもあります。

常に相手の企業の状況を把握しながら協働を進めることが必要です。


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