大前研一「ニュースの視点」Blog

KON852「インド鉄道/英EU離脱問題/自動車生産~日本の私鉄発展のノウハウがインド鉄道の民営化に通用する理由」

2020年10月26日 インド鉄道 自動車生産 英EU離脱問題

本文の内容
  • インド鉄道 国鉄の一部路線運営を民営化
  • 英EU離脱問題 自動車大手が英政府に補償求め
  • 自動車生産 EVシフト、車の雇用細る

インド鉄道の民営化に、日本の私鉄発展のノウハウを注入したい


日経新聞が報じたところによると、インド政府が国鉄の一部路線の運営を民営化することが明らかになりました。

3000億ルピー(約4200億円)の民間投資をテコに巨額赤字を抱える旅客部門の採算改善を目指す考えです。

これは日本にも大いにチャンスがある話だと思います。

インドは全国に高速鉄道を張り巡らせる計画はあるものの、中国と違って遅々として進んでいません。

既存の鉄道は効率が悪く、車両は老朽化しています。

国鉄・インド鉄道は乗客が多い首都ニューデリー、商都ムンバイ、南部ベンガルールなどを走る109路線を対象に、151の列車を民間に開放するとのことです。

外資企業の参入も受け入れるため、すでに仏アルストムなど約20社が関心を示しているそうです。

今はコロナ対応で大変な状況だとは思いますが、是が非でも日本の私鉄各社も参入してほしいところです。

世界各国の鉄道営業距離を見ると、高速鉄道では中国がダントツですが、古い鉄道も含めてみると、米国、ロシア、次いでインドという順序になっています。

インド鉄道の民営化が事業として大きなポテンシャルを持っていることがわかります。

都市近郊の鉄道網開発であれば、駅ナカなどを活用し地域開発を同時に進めるという、日本の私鉄が成功したアプローチ手法は非常に秀逸で、インドでも十分に通用すると私は見ています。

日本の私鉄の優れた点は、鉄道のみならず、住宅なども含め「面で押さえて」開発を進められたことです。

たとえば大阪で言えば、「この地域は阪急に任せる」という形にして、鉄道から住宅までを一気通貫で開発させました。

サラリーマンの住宅地から埋めていき、最終的には梅田の阪急百貨店までの動線を構築しています。

東京で言えば、東急沿線も全く同様です。

国によっては鉄道や住宅など、それぞれ管轄する役所が異なり、この手法を実現するのは難しいかもしれませんが、日本の鉄道会社による沿線開発は他国の参考になるはずです。

かつて私がマレーシアの国家アドバイザーをしていた時に、当時のマハティール首相に日本と同じような構想を提案したことがあります。

ポートクランからクアラルンプールまでを鉄道で結びながら開発するというものです。

その実現のために、東急に意見を伺いに行ったのですが、すでに日本の私鉄開拓を経験し、ノウハウを持った人たちは他界していて、実現することはできませんでした。

戦前の日本が作り上げた私鉄の仕組みは、本当に素晴らしいものだと私は思います。

日本に都市スラムがない理由の1つが、私鉄が50キロ圏に住民をばらまいたからだと私は思っています。

インドは人口も多いですし、ムンバイなどを筆頭に「面で開発」を行えば画期的な成果が期待できます。

外資企業を含めた鉄道の民営化は、インドにとっては大きな決断だったと思います。

インドは自動車にも国民車というものがあり、かつては石炭を燃やしながら40年モノの車が走っていました。

そんなインドの自動車業界の民営化に際して、日本のスズキがインドに参入し、今ではシェアの半分を占めるに至っています。

自動車業界でスズキがトップに躍り出たように、今回の鉄道においても大きなチャンスがあるはずです。

最終的にはインドがどこまで開放的になるか、という点も気にかかるところですが、世界の大手企業に負けず日本の私鉄も参入してほしいと強く思います。




英国のEU離脱問題によって自動車メーカーは多大な影響を受ける


トヨタや日産などの自動車大手が英政府に対して、欧州連合(EU)と自由貿易協定(FTA)を結べなかった場合に発生する関税コストの補償を求めていることがわかりました。

交渉が決裂した場合、英国からEUに輸出する乗用車に10%の関税が課せられるためで、FTAを結ぶように英国政府に迫る狙いです。

今月いっぱいでEUとの間に合意ができなければ、FTAなしで1月1日を迎えることになります。

そうなると、英国で製造している自動車はEUに輸出するのに10%の関税がかかります。

この件について適切なガイドと適切な情報が提供されなかったということで、各自動車メーカーが補償を求めています。

英国の自動車輸出先のシェアを見ると、50%以上がEU向けになっています。

日本のメーカーは、英国が良い製造拠点なので、英国も含めてEU全体で「ワンマーケット・ワンカントリー」の考え方で製造と輸出を行ってきました。

トヨタ、日産、ホンダなどは約50%近くを英国からEUへ輸出していましたし、サンダーランドにある日産の英国工場は、欧州の主力工場として大きな役割を果たしてきました。

このままいけば、そういった工場が大打撃を被るのは必至です。

いまだにジャガー・ランドローバー、オースチンミニなどが英国で生産されていますが、すでに日産は最悪の事態を想定し、英国における新車種の投入を中止しています。

このままいけば、自動車業界にとっては悲惨な状況になると思います。




内燃機関のインフラを整えた日本の苦境


日経新聞は8日、「EVシフト、車の雇用細る」と題する記事を掲載しました。

ドイツのダイムラーやエンジン部品大手などが数千人規模の削減に着手したほか、米ゼネラルモーターズもEV(電気自動車)向けに切り替えた工場で雇用を減らす見通しです。

EVの生産は必要な人員が少ないため、次世代車と雇用の両立が自動車各社の課題となっています。

「今さら何を言っているのか?」というのが私の正直な感想です。

EVシフトが起こると、必要な部品点数が劇的に減ります。

それゆえ社員も劇的に減らす必要が出てくるというのは、もう数年前からわかっていたことです。

内燃機関からEV化すると、必要な部品点数はおそらく十分の一程度になると私は見ています。

不要になる部品の主なものは、エンジン部品、電飾部品、駆動系部品など。

逆に新たに必要になるのは、リチウムイオン電池、機電一体電動パワートレインなどです。

さすがにタイヤなどは残りますが、多くの部品が不要になると予測されます。

そのような状況で、今の社員を抱えてどうするのかというのは大きな課題です。

日本は内燃機関において世界最強のインフラを作り上げることで、大きな収益を上げてきました。

しかし、このEVシフトの時代にあって逆にそれが重荷になっています。

そしてEVシフトが大きく遅れる原因になってしまっています。




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※この記事は10月18日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は自動車生産のニュースを大前が解説しました。

大前は「日本は内燃機関において世界最強のインフラを作り上げてきたが、今後は重荷になると同時にEVへのシフトが遅れる」と述べています。

現代のビジネスの変化スピードは加速しています。

過去の栄光に囚われずに、次の打ち手を考えることが求められます。

今やるべきことは何なのか?

日々ニュースを通じて情報収集しながら、自分事として考え続けることが必要です。


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