進化論的・生物学的に正しい「モテ」がいま必要とされている 週刊プレイボーイ連載(524)

両性生殖の生き物は、成長すると「つがい行動(mating)」を始めます。ヒトも例外ではなく、思春期を迎えるとともに幸福な子ども時代は終わり、性愛を獲得するための過酷な戦いに放り込まれます。

この時期の困難は誰もが経験しているでしょうが、性愛における男女の非対称性によって、まずは男が競争し、女が選択します。その後で、ヒエラルキーの上位を獲得した「アルファの男」をめぐって女が熾烈な競争をするのです。

人類は旧石器時代から、この「つがい行動」を文化によって管理してきました。若い男たちが稀少な女をめぐって暴力的に争えば共同体は崩壊し、他の部族によって皆殺しにされてしまいます。身分によって結婚する相手が決まっているというのは、競争圧力を緩和して平和裏に性愛を分配する典型的な方法です。

ところが、社会がゆたかで平和になるにつれ、共同体による拘束が嫌われ、自由恋愛が当たり前になりました。現代では、もはや親や親戚が同世代のパートナーを見つけてきてはくれません。その代わり男たちは、富や権力によって若くて魅力的な女性たちの関心を惹こうとします。

しかしこの戦略は、思春期の男にはきわめて不利です。大金持ちや権力者の家に生まれたわけでもない男の子は、どうやって女の子にアプローチすればいいのでしょうか。

不幸なことに、男女平等を説く識者は掃いて捨てるほどいても、この重要なことを誰も(学校でも家庭でも)教えてくれません。その結果、気の弱い男の子たちは性愛から脱落し、スクールカーストの最上位にいるごく一部の人気者が、女の子たちの関心を独占するようになります。

これが「モテ/非モテ問題」ですが、日本だけでなく欧米でも深刻な事態になっています。北米では、非モテ(インセル)の若い男が銃を乱射する無差別殺人が繰り返し起きているのです。

こうした状況を改善するために、どうすればいいのでしょうか。それは若者に説教することではなく、ごくふつうの男の子が、どうすれば女の子に自分を魅力を伝えられるかを、具体的なノウハウとともに教えてあげることです。

進化心理学者のジェフリー・ミラーと人気作家のタッカー・マックスは、「女性の脳は男のどのような特性に惹かれるように進化してきたのか」という視点から、モテを科学的に解明しました。彼らによれば、身体的・精神的な健康や知性、意志力、やさしさと男らしさを身につけ、それを効果的にシグナリング(披露)することで、性愛の自由市場に自信をもって参加できるようになります。

日本では婚姻率が下がる以前に、パートナーのいない若者が増えています。「なぜ恋人をつくろうとしないのか?」との質問に、もっとも多い答が「断られて傷つくのが怖い」です。

そこでミラーとマックスのアドバイスを、『モテるために必要なことはすべてダーウィンが教えてくれた』(SBクリエイティブ)として翻訳しました。「リベラルな社会で認められるのは唯一、倫理的・道徳的なモテ戦略だけだ」と述べるこの本を、若い男性だけでなく、男の子をもつ親や教育関係者にも広く読んでほしいと思います。

『週刊プレイボーイ』2022年6月6日発売号 禁・無断転載