大前研一「ニュースの視点」Blog

KON937「円相場/国内株式市場/日本酒大手/国内コメ市場~『貧乏人は麦を食え』から70年」

2022年6月27日 円相場 国内コメ市場 国内株式市場 日本酒大手

本文の内容
  • 円相場 一時1ドル=135円58銭
  • 国内株式市場 弱る輸出、届かぬ円安効果
  • 日本酒大手 日本酒など約140品目を値上げ
  • 国内コメ市場 下げ止まるコメ 「眠る在庫」の影

黒田総裁は発言を慎むべき


15日の外国為替市場で一時1ドル135円58セントとなり、24年ぶりの円安ドル高水準となりました。

米国や欧州でインフレが加速し、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が金融引き締めを急ぐ一方、日銀が金融緩和を続けているのを受けて金利差拡大を見込んだ海外のヘッジファンドなどが円売りを加速したと言うことです。

日銀の黒田総裁が従来のポリシーを変えず介入もしないと明言しているので、ヘッジファンドが円売りの動きになるのは必然です。

日本にとって良いことだとは思えません。

私に言わせれば、ポリシーを変えないにしても、表明することによって動きが加速してしまう訳ですから、日本経済のためを思うのであれば無言を貫くべきだと考えます。




30年前の常識は改めるべき


日経新聞は14日、「弱る輸出、届かぬ円安効果 世界シェア98年比で半減」と題する記事を掲載しました。

13日の日経平均株価が前日に比べ836円下落し、今年3番目の下げ幅になったと紹介しています。

輸出への期待が株価を押し上げる過去の円安株高とは異なる状況になっており、1998年以降の円安局面を分析すると、貿易行動や労働市場の変化によって円安の恩恵をもたらしにくくなったことがわかるとしています。

円安でも株価が上がらない理由は、輸出そのものが衰えているからです。

1991年に約5,000億円だった日本の輸出額は微増にとどまり、当時はほぼ同額だったドイツには約2倍の差をつけられています。

日米貿易戦争だと言われていた米国はそれ以上に躍進し、急成長した中国は各国を抜いてトップに躍り出ています。

中国で生産しているため中国の輸出として数えられている日本企業の製品もあるとはいえ、日本はそれほど輸出競争力が落ちているのです。

貿易収支で見ると、日本は2010年に貿易赤字に転落し現在はほぼプラスマイナスゼロです。

収支がプラスマイナスゼロなら、円安でも円高でも貿易や日経平均への影響が少ないのは道理です。

一方で、日本の対外直接投資や投資先からの利子、配当(第一次所得)の収支は大幅に伸びています。

つまり日本は既に資本輸出国であり、投資リターンが主な収益になっているのです。

外国通貨での収益を円に戻す場合は円安がプラスの影響を及ぼしますが、現在は必ずしも国内に還流しない傾向もあります。

日米貿易摩擦の頃とは、状況がかなり変わってきていると認識すべきです。




原材料高騰の深刻度は市場のセグメントで変わる


菊正宗酒造は15日、日本酒や焼酎リキュールなど約140品目の出荷価格を10月3日出荷分より4%から12%値上げすると発表しました。

醸造用アルコールなど材料価格の高騰や物流費の上昇が要因と言うことで、値上げは2013年10月以来、9年ぶりです。

菊正宗酒造や日本盛のような伏見や灘の大きな酒造メーカーは、数%の値上げが売れ行きに大きく影響します。

一方で、北雪酒造や磯自慢酒造のようなマニアに向けて販売しているようなメーカーは、数千円の値上げをしても売れ行きにほとんど影響がありません。

こうした傾向は自動車などでも同様です。

大衆車が少し値上げしようと思うと大変ですが、フェラーリのようなコアなファンが多い車は簡単に3,000万円から5,000万円にできます。

酒造メーカーはこの傾向を踏まえて、価格に対して鈍感なセグメントに働きかけることをおすすめします。

実際にニッチセグメントを狙った商品を開発している酒造メーカーは存在しており、天山酒造などはその代表例です。

インターナショナルワインチャレンジ(IWC)で金賞を取った天山酒造の古酒であれば、どんなに値上げをしても需要は必ずあるでしょう。

菊正宗酒造のようなマス向けのメーカーは、原料高を価格に転嫁しにくく苦しい状況にあると思います。




「貧乏人は麦を食え」から70年


日経新聞は16日、「下げ止まるコメ 『眠る在庫』の影」と題する記事を掲載しました。

新型コロナ禍での行動制限解除でコメの外食向け販売が持ち直し、2021年産米の主要銘柄の5月の卸値が前月に比べ1%から9%上昇したと紹介しています。

世界的な小麦価格の高騰でパンなどが値上がりし、代替として米粉やコメに注目が集まっていますが、コメの在庫は依然高水準で、スーパーなど店頭価格の上昇につながるかは不透明としています。

所得倍増計画で有名な池田勇人元首相は、かつて「貧乏人は麦を食え」と発言して問題になったことがあります。

麦が安く、コメが高騰していた当時の状況下でコメの価格は市場に委ねたいという趣旨でした。

国民の反発は買ったものの、その後の所得倍増を成し遂げたことで池田元首相は高く評価されています。

現在の岸田首相はその池田元首相が創設した宏池会の出身です。

それを意識してか、岸田首相も就任時には「所得倍増」を宣言しました。

これは半分冗談ですが、岸田首相も堂々と「貧乏人はコメを食え」と発言してしまえばよいと私は思います。

たとえ小麦の高騰に対する施策が機能しなかったとしても、わかる人にはわかる最高のユーモアになりますし、このぐらいの発言をできる気概を見せてほしいところです。

1つ問題があるとすれば、岸田首相の場合は肝心の「所得倍増」が実現しそうにないということでしょう。





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※この記事は6月19日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は日本酒大手のニュースを大前が解説しました。

大前は「よく知られている商品を値上げする場合人々にとって大きな影響があるため、メーカーとしてもかなり勇気の入る決断になる」と指摘し、「ニッチな需要があるセグメントへ向けた商品を作ることも非常に重要になっている」と述べています。

消費者は大量の情報を簡単に得て広い選択肢の中から選べるようになり、より消費者の好みが細分化しています。

市場を分析、細分化し、自社の製品が有利に事業展開できる市場を見つけることで、ターゲットへ効果的にアピールすることができます。


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