No. 2141 ダムフォンブームの到来

The Dumbphone Boom Is Real

急増するスモールビジネスが、スクリーンから逃れようと必死な、苦悩するスマートフォンユーザーの要求に応えている

by Kyle Chayka

ウィル・スタルツはiPhoneを長時間使いすぎ、ツイッター(今はX)をスクロールしまくり、まるで億万長者が実際に気づいてくれるかのようのようにイーロン・マスクに怒りのツイートをしていた。スタルツのパートナーであるデイジー・クリグバウムはPinterestとYouTubeにはまり、寝る前にiPhoneで動画を見まくっていた。2年前、ふたりはアップルのScreen Time制限ツールを試したが、あまりにも簡単に無効化できることに気づき、iPhoneをもっとローテクなデバイスと交換することにした。高解像度のスクリーン、アプリストア、ビデオカメラなど、病みつきにさせるようなスマートフォンの豪華さがない、いわゆる「ダムフォン」(通話機能やショートメッセージなど最低限度の通信機能のみ持った携帯電話端末)のことは聞いていたが、その入手のプロセスが難しいことに気がついた。「その情報はバラバラで入手しにくかった。ダムフォンについて最も詳しい人の多くは、オンラインに最も時間をかけていないから」とクリグバウムは言う。ある種の皮肉である。オンラインの時間を減らす方法を見つけるために、積極的にネットを調べる必要があったのだ。

スタルツは29歳、クリグバウムは25歳のカップルだが、ビジネスチャンスがあると考えた。「もし誰かがそれを凝縮し、最良の選択肢に単純化することができれば、もっと多くの人が(スマホからダムホに)切り替えるかもしれない」とクリグバウムは言った。2022年後半、彼らはEコマース会社「ダムワイヤレス」を立ち上げ、画面に向かう時間を減らしたい人向けに電話、データプラン、アクセサリーを販売した。スタルツが起業に挑戦したのはこれが初めてではなく、過去にはコロラド州でメイド・イン・アメリカの衣料品ブランドを立ち上げたり(「潰れた」と彼は言う)、人気のないハリウッドのコメディクラブの裏でコーヒーショップを開いたり(「絶望的なビジネスだった」とクリグバウム)していた。しかし、ダムワイヤレスはもっと成功している。

イースト・ロサンゼルスにある二人の自宅はある種のダムフォンの商業施設と化し、ダイニングルームだった場所に500台の箱入りのデバイスが積み上げられている。スタルツは個人の携帯で仕事の電話を受けるが(顧客サービスの責任者としてスマートフォンを使わなければならないのだ)、ある日の朝、最初の電話がかかってきたのは午前5時だった。彼らは手作業で梱包し、時には手書きのメモを入れる。まだ本業であるサービス業の仕事を辞めたわけではないが、ダムワイヤレスは先月、2023年3月の10倍にあたる7万ドル以上の製品を販売した。クリグバウムとスタルツは昨年10月に売上が加速していることに気づいたが、これはホリデーシーズンの猛烈な買い物に関係しているのではないかと推測している。同社の人気商品には、ほとんどアプリのないe-ink端末「Light Phone」、伝統的な折り畳み式携帯電話「Nokia 2780」、『マトリックス』(1999年、公平を期すならこの映画はガラケイ時代の映画である)でネオが携帯するためにデザインされたような電卓風のスイス製端末「Punkt.」などがある。

ダムフォン熱の高まりは、ネット上での子どもの安全をめぐる言説に突き動かされている面もあるだろう。インスタグラムやTikTokのようなサイトが意図的に子どもを引っ掛けようとしているという証拠{1}に、親たちはますます直面するようになっている。いくつかの研究によれば、これらのサイトを利用することは10代の若者の不安を増大させ、自尊心を低下させる可能性がある。そしてマートフォンがあるから子供たちは常時ログオンしてしまう。なぜこのような状況が大人にとってより健全であるといえるのだろうか?{2}20年近くiPhoneを使い続けてきた結果、世間はデジタルライフに倦怠感を覚えているようだ。毎日何時間も、持ち運び可能な光り輝く画面を通して生活しているのに、インターネットはもう楽しくもなんともない{3}。私たちは自制心に欠けているため、インターネットに吸い込まれるのを積極的に防いでくれるデバイスを切望している。つまり、一般的なテクノロジーから離れ、『ニューヨーカー』誌の寄稿ライターであるカル・ニューポートが「デジタル・ミニマリズム」{4}と呼ぶものを選ぶということだ。

「Light Phone」は、スマートフォン疲れが主流の病になる前の2017年にデビューした。同社の共同創業者であるカイウェイ・タンとジョー・ホリヤーはこれまで数万台を販売した。2019年にリリースされたLight Phone IIは、モノクロのタッチスクリーンが特徴で、ユーザーは、通話、テキストメッセージの送信、いくつかのカスタムアプリ(アラームとタイマー、カレンダー、道案内、メモ、音楽、ポッドキャストのライブラリ)を使用できる。ソーシャルメディアアプリやストリーミングアプリはない。「ポイントは、アテンション・エコノミー(情報社会において人々の注意や関心が貴重な資源であるという考え方)が組み込まれていない便利なユーティリティを作ることだ」とタンは語る。ダムワイヤレス同様、Light Phoneも最近需要が急増している。2022年から2023年にかけて収益は倍増し、2024年にはさらに倍増する勢いだと創業者たちは私に語った。ホリヤーは、ジョナサン・ヘイトの新著『不安な世代』(2024年){5}を挙げ、スマートフォンが青少年に与える悪影響{6}を指摘した。Light Phoneは、教会や学校、放課後プログラムからの問い合わせや大量注文の依頼が増えている。2022年9月、同社はマサチューセッツ州ウィリアムズタウンの私立学校との提携を開始し、同校の職員と生徒にLight Phoneを提供した。今、校内でスマートフォンは禁じられている。同校によると、この試みは生徒の授業の生産性と学内の社会生活の両方に有益な効果をもたらしたという。タンは「今、20~25校と話をしているところだ」と言った。

タンとホリヤーが驚いているのは、最も喜んでLight Phoneを導入している人の一部がZ世代であることだ。中にはiPhoneよりも若い世代もいる。デジタルテクノロジーは彼らの生活にとって必然的なものであるが、彼らは過去の世代よりも、その悪影響に立ち向かう能力が高い、あるいは意欲的である。アップルは最近、サードパーティーの開発者にiPhoneの「Screen Time」機能にアクセスするソフトウェアを作成することを許可した。つまり、一部の新しいプログラムがアプリをブロックすることでユーザーが画面時間を制限するのを手助けできるようになったのだ。20代前半のエンジニア、T・J・ドライバーとザック・ナスゴウィッツは、この変化を利用して、自分たちの電話の使い過ぎと戦うために、BrickというiPhoneアクセサリーを作った。2023年9月に発売されたBrickは、磁石でくっつくプラスチックの立方体で、スマートフォンでブロックしたい機能を選択できる対応アプリである。ブリックをタップすると、ブロックが作動したり解除されたりする。ドライバーとナスゴウィッツはアクセサリーを製造するために1台の3Dプリンターから始めたが、今では15台のマシンを24時間稼働させ、1日に数百個の製品を出荷している。

万人に対応するダムフォンのソリューションは一つではない。デジタル中毒者はそれぞれの方法で中毒になっている。ダムワイヤレスのスタルツは、Unpluqというアプリを使っている。UnpluqはBrickと似たような働きをし、スマートフォンから特定のアプリをブロックする一方で、EメールやShopify、店のカスタマーサービス・チャンネルなど維持することができる。クリグバウムは過去2年間、Light Phoneの熱心なユーザーだった。彼女は、スマートフォンが恋しいとは思わないが、他の若者と会ったときに、どうやって連絡を取り合うのかと尋ねられると、新しいデバイスが気まずくなることがあるという。もちろん、それはソーシャルメディアのことである。ダムフォンを使っていない大多数のZ世代にとって、テキストメッセージや、電話をするために番号を交換するなどということは古風に思えるのだ。「クリグバウムは、「『会えたら会うよ』って言ってるのだけど」と語った。

私がiPhoneから抜け出したいときは、SIMカードを取り出して(残念ながら最近のiPhoneでは不可能なものもある)、赤いノキアの折り畳み式携帯電話2780に装着する。その折り畳み式携帯を閉じるカチッという音が私を瞬時に高校時代に戻してくれる。当時、それは最先端だった。驚くほど簡単な交換作業の後、私は毎日の愛犬との散歩にこのシンプルなデバイスを持っていく。もしスマートフォンを手にしていたら、犬が用を足している間や木の幹の匂いを嗅いでいる間に、インスタグラムを更新したり、メールをチェックしたりしていただろう。ノキアならそのような無意味なデジタル刺激から自分を切り離すし、必要であればメールや電話に出ることができる。(私は本当にスマートフォンなしで家を出ることはできない典型的なミレニアル世代だ)。春の季節には特に、周囲をより注意深く見るようになり、その景色を楽しむことができる。そして、外出から戻るときにはよりリラックスしている。SIMカードをiPhoneに戻すと、一瞬このデバイスがばかばかしく思える。無限のエンターテインメントと情報で満たされた巨大なスクリーンがどこへ行くにもついてくるから。そして、メール、インスタグラム、Slackなど、いつものアプリを次々に開いて見逃したものを確認するのだ。

Links:

{1} https://www.newyorker.com/news/our-columnists/the-case-for-banning-children-from-social-media

{2} https://www.newyorker.com/culture/annals-of-inquiry/we-know-less-about-social-media-than-we-think

{3} https://www.newyorker.com/culture/infinite-scroll/why-the-internet-isnt-fun-anymore

{4} https://www.newyorker.com/magazine/2019/04/29/what-it-takes-to-put-your-phone-away

{5} https://www.amazon.com/Anxious-Generation-Rewiring-Childhood-Epidemic/dp/0593655036

{6} https://www.newyorker.com/books/under-review/can-we-get-kids-off-smartphones

https://www.newyorker.com/culture/infinite-scroll/the-dumbphone-boom-is-real?