4月の旅行取扱額「71%減」の衝撃…!旅行業“壊滅”の先行きは  GoToキャンペーンは救いになるか

現代ビジネスに6月5日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73058

壊滅の3月

予想されたこととはいえ、旅行業の「壊滅」状況が明らかになってきた。新型コロナウイルスの蔓延で訪日旅行客が激減するなど人の動きが止まっているが、旅行を取り扱う主要旅行業者が苦境に陥っている。

観光庁が5月22日に発表した2020年3月分の「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」によると、取扱額合計は1200億円と、前年同月の4198億円に比べて71.4%減少した。

「海外旅行」の取り扱い減少が最も大きく84.7%減、全体の7割超を占める「国内旅行」も63.7%減った。

日本の旅行会社によるインバウンド向け旅行の取り扱いである「外国人旅行」はネット予約での個人旅行の増加もあり、ここ数年、旅行業者の取扱額は漸減傾向にあるが、1月の取扱額はまだ4.8%の減少だった。

海外旅行は6.8%減、国内旅行は5.1%減と減少したものの、外国人旅行は21.0%増とまだ好調だった。中国の春節旧正月)休みに多くの中国人観光客が訪れたことが要因だった。

新型コロナの影響が深刻化し始めたのは2月から。外国人旅行が一気に冷え込み、35.7%減。日本からの海外旅行が23.9%減、国内旅行も14.6%減と落ち込み、合計で2749億円と18.9%減った。それが前述の通り3月には71.4%の減少になったわけだ。

消滅の4月

もっとも、そうは言っても3月は、まだ緊急事態宣言が出される前で、旅行需要もそれなりにあった時期。4月に入ると旅行はまさに「消滅」している。4月は全国各地とも桜のシーズンで、昨年は外国人観光客があふれた。

国内旅行者も多い時期で、旅行業者にとっては稼ぎ時だ。ひと足早く推計数字を公表したJNTO(日本政府観光局)の4月の訪日旅行客は99.9%も減って、わずか2900人。日本から世界への出国者も99.8%減の3900人にとどまっている。

京都中心部で修学旅行生を受け入れている老舗旅館によると、4月の売り上げは98%減。「耐えるしかないが、5月はゴールデンウイークで売上高が大きい月でもあり、さらに打撃が大きい」と女将は話す。それでも修学旅行の「延期」に期待をつないでいるが、ここへきて「中止」を打ち出す自治体も出始めており、危機感を強めている。

まさに旅行業者にとっては死活問題になっている。ちなみに3月の取扱額を会社別に見ると、トップのJTBグループは62.7%減、2位のKNT-CTホールディングス・グループが68.6%減、3位の日本旅行が76.4%減となっている。4月はさらに落ち込みが激しくなるのは確実な情勢だ。

希望の「Go To キャンペーン」

そんな中、旅行業界が期待をつなぐのが、「Go To キャンペーン」(仮称)だ。4月30日に国会で成立した補正予算に含まれ、1兆6794億円という巨額の予算が割り振られている。「Go To Travel」「Go To Eat」「Go To Event」「Go To 商店街」 などから成り立ち、新型コロナ「流行収束後の一定期間に限定」した官民一体型の消費喚起キャンペーン、と位置付けられている。

「Go To Travel」の場合、旅行商品を購入した場合、ひとり1泊2万円を上限に、半額相当分のクーポンを配ることになっている。これまでにない「旅行」への直接的な助成金と言える。国土交通省は「7月の早い時期から」始めるとしている。

もっとも、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、新型コロナ感染の再拡大が懸念され、県境を越えた移動も自粛が求められている。大々的に「旅行に行こう」というのはさすがに早過ぎだろう、という批判の声もある。

だが、旅行業者の多くは、新型コロナがこのまま終息に向かってくれることを祈ると同時に、キャンペーンの開始準備が進むことも祈っている。

というのも、一連の新型コロナ対策を通じて、政府が実施を決めてから実際に動き出すまでに、早くても数カ月を要することが「実証」されている。

あまりに遅い政府対応

4月1日に安倍晋三首相が打ち出した1世帯2枚のマスク配布、いわゆる「アベノマスク」も2カ月たって届かないところが数多くある。

全国民10万円の一律給付にしても、打撃を受けた中小事業者への「持続化給付金」にしても、スピードが命だったはずだが、予想以上に時間がかかっている。

旅行業者からすれば、ともかく、早く「Go To キャンペーン」の準備を整えて実施に移し、新型コロナが終息した際にはすぐに旅行者増につながるようにしてほしいという思いなのだ。

帝国データバンクによると「新型コロナウイルス関連倒産」は6月2日16時時点で205件(法的整理135件、事業停止70件)。業種別でのトップが「ホテル・旅館」の39件だ。それに「飲食店」の26件が続く。

4月、5月と続く旅行の「消滅」が6月以降、どこまで続くのか。もはや体力勝負になりつつある。旅館が弁当販売に乗り出すなど苦肉の策を取るなど、苦境を乗り越えるための工夫も見られる。だが、現実には焼け石に水だ。雇用調整助成金などの支給開始を待って辛うじて経営を維持しているところも少なくない。

あとは、新型コロナが完全に収束しないまでも、このまま下火となり、用心しながらも旅行を楽しめるようになった時に、人々を旅行に押し出す切り札に「Go To キャンペーン」がなっていくのか。

果たして「Go To キャンペーン」がタイミングよくスタートし、旅行業界の苦境を救う一助になるのか。関係者は固唾を飲んで見守っている。