女性の「自死」が急増中…そのあまりにも「やりきれない」理由とは? 「経済崩壊」が目の前まで迫っている

現代ビジネスに11月26日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77712

 

39.9%増の衝撃

もはや緊急事態である。新型コロナウイルス感染者の数ではない。急増している自殺者だ。

警察庁が11月9日時点の数字として発表した2020年10月の自殺者数(速報)は、2153人と前年同月比39.9%増加した。

新型コロナ蔓延以降、4月の17.6%減、5月の15.0%減と大幅に減っていたものが、7月の2.6%増から、増加に転じた。

この統計は、速報値発表後に死因が特定されるなどして数字が変わるが、最新数値での前年比較では8月17.8%増、9月10.0%増と大きく増加。それが10月になって39.9%増という、少なくとも2012年1月以降、見たこともない増加率になっているのである。

そうした中でも「女性」の自殺は、かつてない増加を示している。8月に前年同月比42.2%増を記録して世の中を驚かせたが、10月は何と82.6%増。昨年10月の1.8倍である。厚生労働省の調査では、女性の中でも40歳代の人の自殺が142人と前年同月の2.29倍に達していることが明らかになっている。

このデータについて厚生労働省は、「新型コロナウイルスの影響が長期化する中、仕事やDV=ドメスティック・バイオレンス、育児や介護の悩みなどが深刻化していることが背景にある可能性がある。また芸能人の自殺を伝える報道の影響を受けているおそれもある」としている。

確かに、8月、9月の増加時は、芸能人の自殺が相次いだことから、その影響を指摘する声もあった。だが、これだけ「異常値」が長引くと、そうした一過性の問題ではないと思われる。明らかに新型コロナの影響、それも経済的な影響だと考えるべきだろう。経済的に追い詰められた人たちが、将来に絶望し、自ら死を選んでいるのではないか。

「女性」「非正規」の大幅減

総務省が発表する「労働力調査」を見ると、女性が職を失って経済的に困窮しているのではないか、と伺わせるデータがある。

2013年1月以降、増加を続けてきた「雇用者数」の前年同月比は、今年4月以降マイナスに転じた。明らかに雇用情勢が急変したのである。以後、9月まで6カ月連続で減少し続けている。

ところが、不思議なことに、正規雇用の従業員は増え続けているのだ。その一方で、大幅な減少となっているのが「非正規雇用」。中でも女性の非正規雇用が激減している。9月のデータだけをみても、1年前に比べて73万人、4.8%も雇用が減っている。女性パートだけ見ても26万人の減少だ。立場の弱い非正規雇用の女性が職を失っていることが、このデータからもはっきりと見てとれる。

この傾向は4月以降続いており、非正規雇用の女性の失業が長引いている様子が浮かび上がる。パートの場合、社会保険の加入対象にならないように働いている人も少なくないため、雇い止めで失業しても、失業保険などが受け取れないケースが多いとみられる。

パートやアルバイトが職を失った場合に、救済策として助成金を支給する仕組みも国は作ったものの、飲食店や小売店など零細事業者では手続き申請を行う知識が欠如していることもあり、なかなか支給が広がっていない。

こうした世代では総じて預金額が少ないこともある。つまり、職を失ったことで、一気に生活困窮に追い込まれている可能性が高いのだ。

まず生活が成り立つように

自殺者を増やさないために、相談窓口の整備などを行うことも必要だが、現状の場合、とりあえずの生活を成り立たせるための支援の仕組みが不可欠だ。

雇用調整助成金や失業給付、生活保護などの仕組みを総動員して、生活が瓦解するのを何としても防ぐことが重要なのだ。ひとり一律10万円を給付した特別定額給付金を、本当に困窮して資金が必要な人に給付する新たな仕組みも早急に導入するべきだろう。

収入が減少して生活に困窮する人たちに市区町村の社会福祉協議会が「緊急小口資金」を貸し付ける仕組みもある。これを使った人もすでに100万人を大きく超えている。月20万円を3カ月間にわたって貸与する制度などだが、新型コロナの影響が長期化していることで、その資金も枯渇する人たちが出始めている。手元の資金を供給する仕組みを大幅に拡充することが求められている。

とりあえず、足元の生活資金が確保できたとしても、それだけで十分なわけではない。「将来への希望」を持ち続けられるようにしなければ、経済的な要因で自殺する人は減らない。新しい仕事を供給することや、新たな仕事に就くための職業技術の取得支援などで、先の見通しが立つようにするのも政府の重要な役割だろう。

今回の新型コロナによる経済への打撃は、飲食店や小売店、宿泊業といった「現場」に近いところを襲っている。この点、金融危機によって銀行や輸出企業などから始まったリーマン・ショックと大きく違う。雇用調整助成金など、比較的規模の大きい企業が利用することを前提とした救済策では間に合わないことが判明している。自営業者を含めた経済的に弱い存在、社会的な弱者が真っ先に打撃を受けているわけだ。

新型コロナの感染者が再び増加する「第3波」が現実となり、東京都などは再び営業自粛要請を行うことを決めた。それによって再び、飲食店の女性パートなどが仕事を失うことも予想される。弱者を生活困窮に追い詰めないための、新たな救済策を早急に打たなければ、さらに自殺者が増えることになりかねない。