成長無くして分配なし-岸田内閣は規制改革を政策の柱に再度掲げよ  どうやって成長させるのかが問題

現代ビジネスに11月5日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89005

自民、立民ともに敗北

4年ぶりの総選挙が終わった。与野党ともに「政権選択選挙」だと主張したものの、蓋を開けてみれば、野党共闘で躍進を狙った立憲民主党が敗北。自民党もわずかながらとはいえ、議席を減らした。結局、第三極の日本維新の会が11議席から41議席に躍進する結果となった。

なぜ、こうした結果になったのか。日本維新の会が「改革」を通じた「成長」を訴えたからだろう。立憲民主は共産党社民党と連携するに当たって、「分配」を前面に押し出した。アベノミクスによって格差が拡大したと強調し、人々の不満に火を点ける戦略を取った。

一方、岸田文雄首相は、総裁選の際には「新自由主義的政策は取らない」とし、「分配優先」を口にしたが、選挙戦後半から明らかに姿勢を転換し、「分配だけ主張している野党」を批判し、「分配するためには成長してパイを増やす必要がある」と言い出した。

当初、「アベノミクスで成長したが、分配が不十分だった」とアベノミクスによる格差拡大を認めるかの発言をしていたが、すっかりアベノミクス路線に戻すこととなった。それでも、初めから「成長」を主張してきた維新に票が流れたわけだ。

日本の有権者はバカではない。助成金を増やします、消費税も引き下げます、とバラ色のバラマキを示されても、「甘い水」に吸い寄せられる人ばかりではなかった、ということだ。

一方で、日本全体が貧しくなっていることはヒシヒシと感じているから、このままでは沈没してしまうという危機感もある。分配すれば成長するといった甘い話ではないことを理解している国民が多かったということだろう。どうやってパイを大きくしていくか。あるいは予算の組み替えで配分を変えることをしなければ、分配は増やせない。

「改革」へ再転換

維新が、大阪府大阪市で実践してきた行財政改革の成果を訴えたことも有権者を動かした。大阪での成果を知る関西で維新が軒並み圧勝したのは当然として、全国的に小選挙区候補者が善戦。比例代表議席を積み増した。議員定数の削減や、知事や市長の報酬カット、退職金カットなどは、有権者の耳に届きやすい具体的な話だった。

安倍晋三元首相が高い支持率を維持したのは、アベノミクスの具体的な成果というよりも、「改革」を訴え続けたからだろう。「アベノミクスの一丁目一番地」として「規制改革」を掲げ続けた。実際に規制改革が進んだかどうかはともかく、改革を通じて成長を目指す政党としての自民党に、無党派層も票を投じてきた。

今回、岸田首相はそれを封じる動きに出たが、選挙結果を見て、今後、一気に方向を変えるのではないか。

「公益資本主義」を掲げ、分配優先の新しい資本主義と言ってきたのは、岸田氏というよりも、むしろ幹事長として選挙を戦った甘利明氏だった。

小選挙区で敗れた甘利氏は短命の幹事長に終わり失脚。これが、岸田内閣の政策に大きな影響を及ぼすと見られる。成長戦略を通じた日本経済復活に傾斜していくだろう。

既得権を巡る戦いだった

問題はどうやって経済を「成長」させるか、だ。人口が大きく減り、潜在成長力が落ちている中で、パイを増やすのは簡単ではない。経済のグローバル化を進めて、日本企業が海外で稼いだり、日本にやってくる訪日外国人を大幅に増やすことぐらいしか手はない。

もちろん、イノベーションで企業収益が劇的に改善するという可能性もあるが、そのためには、新しいサービスや技術が世の中に出て来やすい仕組みを作るほかない。補助金を増やせばベンチャー企業が成長するという話ではない。

結局のところ、新しいサービスの誕生を阻害する要因を取り除くしかない。それは端的に言えば、既得権を持った伝統的な企業に、その既得権を手放させることだろう。つまり、様々な既得権を解放する規制緩和である。

そうした新たな競争を生む規制改革こそ、既得権を持つ層からは、「新自由主義」だと批判された。

分配すれば成長するわけではない

だが、本当に日本は新自由主義政策を取って来たのか。英国病と言われた英国や、米国などの他の先進国が成長を続けて来たのを横目に、日本は四半世紀に渡って低成長に喘いで来た。

新自由主義などと言うほどのレベルの競争は行って来なかったから、まともな企業が育って来なかったのではないか。新自由主義というレッテルを張ることで競争を阻害して来たことが、低成長の原因だったのではないか。

もちろん、競争を是認する政策を取れば、敗者が生まれる。そうした人々を救うための「セーフティーネット」の整備は何としても必要だ。年金制度や医療制度など、社会保障制度を抜本的に見直す必要があるが、そこも、すべて国が行うのではなく、民間でできることは民間にやらせる仕組みが本来は重要になるはずだ。

弱者を支えるために分配を強化することには異論はないが、分配をすれば、成長するわけではない。競争を強め、より強い企業を生み、世界で稼いで、その利益を国民に還元する。資本主義が本来持っているダイナミズムを取り戻すことが日本にとって重要なのではないだろうか。