No. 1313 特定の社会集団の支配

世界経済フォーラムによる「ダボス・アジェンダ」が1月末にオンラインで開催された。例年はスイスのダボスで開かれるが、新型コロナの感染拡大により今回初めて参加者が集まることができず、リアルの会議は(感染が収まれば)今年8月シンガポールで開かれるという。

中国の習近平主席やロシアのプーチン大統領など各国首脳がスピーチを行う中、米英から首脳の参加はなかった。イギリスのジョンソン首相はEU離脱の準備を優先するとして自身を含み全閣僚に対してダボス会議への出席を禁じたといい、またバイデン新大統領も不参加で、オバマ時代からダボス会議に参加していたジョン・ケリー氏が担当である温暖化対策について演説を行った。オンライン開催にもかかわらず米英首脳が参加しなかったことは、世界における米英の影響力の衰退と、中国とロシアの台頭を裏付けるものでもある。

ロシアのプーチン大統領は演説で、第4次産業革命のテクノロジー活用はダボス・アジェンダでもあったが、米国の大統領選挙において、巨大デジタル企業の独占により社会の方向性をその思うがままに誘導する試みがなされたことを指摘した。

中国の習主席は、世界で問題が起きている原因の一つは、各国の歴史文化や社会制度の違いは昔から存在しているにもかかわらず、自らの歴史文化や社会制度を他国に押し付けることだと言及したが、これはまさに米国の姿である。習主席はダボス会議という国際的な場で、新たな冷戦を進め、他国を威嚇、脅迫し、何かと言うとすぐにデカップリング、制裁、隔絶を作り出すなら世界は分裂し、対抗に向かわせるという演説を米国に向けて行ったのだ。

また中露のリーダーの演説は、世界経済フォーラムが進めようとしている「グレート・リセット」に対抗するものとも言えるかもしれない。世界経済フォーラムのイデオロギーは、共産主義でも独裁主義でもなく完全にテクノクラシーである。ダボス・アジェンダとは、新型コロナ感染症を理由に世界を完全にテクノロジーによって統制し、国家自体が行うのではなく、世界経済フォーラムのような特定の社会集団のリーダーたちで決定し、支配しようというものなのだ。

しかし中国とロシアは、一帯一路構想や北極圏開発など多くのプロジェクトを通して多国間主義を実践し、ユーラシア大陸の開放的な経済発展を共同で行っていくことを明言している。世界における真の主権国家である両国がグレート・リセットに参加するとは考えにくい。

世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長は、グレート・リセットの未来像は「Own Nothing And Be Happy(何も所有せず、幸せになる)」だとしている。もちろん何も所有できなくなるのは99%の人々であり、グレート・リセットの計画者たちはコロナ禍でも富を増やしている0.00011%の人々だということを忘れてはいけない。