2020年3月24日火曜日

土着公務員

 揉め事の記事を上に置いておくのは気持ち悪いので,更新しましょう。

 近代よりも前の時代では,人々の「移動(mobility)」は制約されていました。階層間のタテの移動はもちろん,地域間のヨコの移動もです。多くの人は生まれた土地を離れることなく,そこで生涯を終えていました。地域移動が制約された理由は,地域社会の運営に必要な労働力を確保するためです。

 しかし近代社会になると,建前の上では能力主義になり,地域移動も法で認められるようになりました。その度合いは時代とともに高まり,今となっては,生まれた土地でずっと過ごす人は少数派でしょう。2015年の『国勢調査』によると,私の年代(40代前半)で,出生時からずっと同じ住所に住み続けている人(土着人)は,全体の7.3%しかいません。

 移転の自由は憲法で定められた権利で,公共の福祉に反しない限り,何人もそれを制限することはできません。その結果,人口の偏在(過密・過疎)が起きているのですが,それは致し方ないことです。いや「致し方ない」ことと割り切ってはならず,生まれ育った地域への愛着を高める郷土教育が各地で実践されています。「ムラを捨てる学力」ではなく,「ムラを育てる学力」を育もうと(東井義雄氏)。

 公務員の採用試験は自治体単位で行われますが,地元民が歓迎される向きもあります。地域の暮らしを肌身で知っており,それをよくしようという熱意を持っているとみなされるからです。

 公務員のうち,ずっと地元に住んでいる人って何%くらいいるんでしょう。2015年の『国勢調査』によると,正規の公務員171万7047人のうち,出生時からずっと同じ住所に住んでいる人は14万3086人となっています。比率にすると8.3%,12人に1人です。

 この数値を都道府県別に出すと以下のようになります。各県に住んでいる公務員のうち,出生時からずっと同じ住所に住み続けている人の割合です(居住期間不詳者は分母から除外)。ここでいう公務員とは産業大分類が「公務」の人で,教員や警察官等は含みません。


 土着公務員の率の都道府県比較です。福井の22.4%から北海道の2.7%まで大きな開きがあります。福井では,県内に住んでいる公務員の4人に1人が土着人なんですね。

 全県の教員採用試験の過去問を眺めている私にすれば,さもありなんです。福井や秋田,ローカル問題が多いのですよ。県の政策文書のような資料だけでなく,県の鳥や県ゆかりの人物など,地元の人間じゃないと解けんだろっていう問題がガンガン出ます。地域に愛着をもった,地元民を求めているのでしょうか。

 元の資料では,市区町村レベルのデータも出せます。上位2位の福井と富山について,県内の市町村別の土着公務員率を出すと以下のようになります。


 高い値が出てきますね。福井県の池田町では,市内在住の公務員45人のうち,24人が土着人となっています。土着率53.3%です。南越前町は193人中90人,美浜町は170人中75人という具合です。

 これらの全てが町内の役場に勤めているとは限りませんが,職員さんには,地元を知り尽くした地元民がさぞ多いことでしょう。

 結構なこととは思いますが,地域ボスの支配,地域の暮らしの惰性に浸かって改革意欲に乏しい,住民との距離があまりに近すぎるなど,色々問題もありそうです。地域を変えるのは「よそ者,バカ者,若者」という言い回しがありますが,外部出身者も一定程度は混じっていて然るべきです。

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 前に拙著を買っていただいた,地方の高校の校長先生から「この春で退職します」というメールをいただきました。卒業式自粛要請はガン無視,子がいる教職員のため校長室を託児所にするなど,スゴイ先生です。

 国の一律要請に無批判に従うのではなく,自地域・学校の状況に即した対応をとる。こういう校長先生がもっと多ければな,と思います。

 退職後,長年の実践を本にまとめたり,ブログで発信したりする先生が多いと聞きます。人生100年の時代,教員の定年後の暮らしというのも,教師論の研究テーマになりそうな気がします。