2019年12月初旬、アフガニスタンとパキスタンで長年にわたり人道支援活動に従事してきた中村哲医師が殺害された。この事件をきっかけに、アフガニスタン情勢への注目が集まっている。どうなっているのだろうか。


現在、国土の北半分を政府が、南半分をターレバンが支配している。その隙間にIS(「イスラム国」)の影響を受けた勢力も散在している。そしていま、双方に和平の機運が高まっている。長年の戦闘に疲れているからである。そして派兵しているアメリカを中心とするNATO(北大西洋条約機構)の各国軍も撤退を望んでいる。この和平交渉の過程で期待が集まっているのが、中国の役割である。


なぜ中国なのか。それは中国とアフガニスタンが国境を接しているからだ。地図を見てほしい。アフガニスタンから左の人指し指で中国をさしているような部分がある。ここはワハン渓谷である。この渓谷の先端が、かすかに中国に触れている。つまり両国は隣人である。


さて、アフガニスタンの和平で存在感を見せ始めた中国は、昨年10月にモスクワで開かれたアフガニスタンの和平会議に代表を送った。この会議では、ロシア、アメリカ、中国、パキスタンの代表が一堂に会した。アメリカ軍の撤退が時間の問題であるとの機運を反映した会議であった。また、中国はアフガニスタン政府と戦うターレバンの代表を自国に招いて和平を訴える予定であるとも伝えられている。


アメリカが中国に期待しているのは、パキスタンの説得である。なにを説得するのかというと、ターレバンを説得するようにとの説得である。つまり中国がパキスタンを説得し、パキスタンがターレバンを説得するわけである。このパキスタンの役割から説明しよう。


パキスタンは、そもそもターレバンを育成してきた国家である。ターレバンを使ってアフガニスタンに自国の影響力を植え付けようとしてきた。となれば、ターレバンに妥協を迫るには、パキスタンを説得する必要があるわけだ。


パキスタンはインドと対立している。同様にインドと対立する中国は、パキスタンを支援してきた。となればターレバンを説得するためにはパキスタンを説得する必要があり、中国には、その力があるだろう。具体的には、アフガニスタン政府とターレバンの交渉において、後者の要求が過大であれば、交渉はまとまらない。そこでパキスタンが要求を引き下げるようにターレバンに圧力を掛ける。これがアメリカの期待である。


ところで、中国の活発なアフガニスタン外交の背景はなんであろうか。この点に関しては、アメリカのアフガニスタン問題の特使を務めるザルメイ・ハリルザードが、2012年の筆者とのインタビューで以下のような認識を示している。


ハリルザード大使

少なくとも二つ以上の理由があります。中国は、「ただ乗り」してきたのです。アルカーイダのようなイスラム過激派に支配されるアフガニスタンは、中国の利益ではありません。というのはアフガニスタンとの国境付近に少数民族の問題を抱えているからです。アフガニスタンが そうした少数派を支援する聖域になりかねません。従ってアフガニスタンが過激化しないのが 国益なのです。


それなのに、これまでなにもしていません。しかもエネルギーとか鉱物資源の経済権益を、中国は、この国で手に入れています。最近も中国企業が、いくつかの大きな契約を獲得しました。ですからアフガニスタンがテロや過激主義の基地とならないのが国益なのです。


にもかかわらずこの国の安定のための努力をしてきませんでした。中国も大国としての役割を果たす時です。アメリカだけが安全保障面での力仕事を担ってきましたが、もう無理です。過去10年間にアメリカが担ってきた役割には国内的な支持が得られません。別の方法が必要です。


より大きな役割を担うのが中国の国益なのです。パキスタンは、時に中国とアメリカを競わせます。しかし、米中が協力すれば、それはできなくなります。米中のアフガニスタンでの利害は調整可能です。


こうした認識を踏まえて、アメリカは中国外交のアフガニスタンでの役割の増大を受け容れ期待しているのである。これもアメリカの中東からの撤退という風景の一コマなのだろうか。


-了-


※『まなぶ』2020年1月号に掲載された記事です。