- 本文の内容
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- ロシア・プーチン大統領 ウクライナ情勢めぐり3者会談
- 世界金融機関 日米欧主要14行、対ロ損失1.6兆円
- 世界木材市場 木材価格、ロシア産禁輸で高騰
ロシア側の要望から窺い知れる苦境
ロシアのプーチン大統領は先月28日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相の3者で電話会談を行いました。
その中でプーチン氏は「欧米からウクライナへの武器供与は状況をさらに不安定化させ、人道危機を悪化させる危険性がある」と警告。
一方、マクロン氏とショルツ氏が黒海の港の封鎖を解除するよう求めたのに対し、プーチン氏は「世界的な食料危機を招かないためにも、ロシアに対する制裁解除が必要」と改めて主張しました。
プーチン大統領の本音が思わず出てしまったと私は考えます。
武器供与と経済制裁は西側諸国がロシアに対抗している2本の柱ですが、これがロシアを苦しめている故の発言でしょう。
ロシアは黒海の制海権も覚束なくなっており、T-62のような50年前の戦車を出さないといけないほど追いつめられているという報道もあります。
とはいえ、いつものロシアであれば、どれだけ西側が加勢してもロシア軍は目的を達成するという態度を崩さないはずです。
武器供与をやめるよう警告するということは、その武器に苦しめられているという証です。
ウクライナの小麦が輸出できないことによる食糧危機に関しても、ロシアは小麦の輸出量世界一なので、(2020年の金額ベース、ウクライナは第5位)本来であれば強気でいられるはずなのです。
それにもかかわらず、経済制裁解除と交換条件にするということは制裁がかなり効いている証拠だと考えられます。
「S-400などの最新ミサイルがまだある」「経済制裁の影響はない」などと表向きは強気のポーズを取っていますが、3者会談での発言は苦しいロシアの現状と本音が出てしまったのだと推測します。
ロシアのデフォルトで世界の金融機関に重い負担
日米欧の主要金融機関14行のロシア関連費用を集計したところ、融資の焦げ付きに備える引当金を中心に129億ドル(約1兆6,600億円)となりました。
ウクライナ危機が長期化すれば経済が落ち込み、不良債権処理も増えるとみられ、金融システムへの負担はさらに重くなるとしています。
ロシアのデフォルトが宣言される可能性が出てきています。
ロシアへの融資は総額10兆円以上になると算出されており、デフォルトになると銀行は大打撃を受けてしまいます。
特に融資金額が大きいイタリアやドイツの危機は深刻です。
日本も影響は受けますが、対ロ融資のパーセンテージが小さいので大きな打撃にはならないでしょう。
デフォルトの危機に瀕し、企業はロシアから次々に撤退していますが、戦後のロシア経済がどうなるかは現時点では全く予想がつきません。
プーチン大統領は停戦のタイミングを失っており、側近の中に彼の決断を覆せるような人材もいないことから、戦争にひと区切りがつくタイミングはプーチン大統領が命かポジションを失う時だと考えられます。
その時に次のリーダーが誰になるのかで、状況は変わります。
西側に近い人物が選ばれるのか、獄中のナワリヌイ氏のような人物が選ばれるのかによっても違います。
今以上にタカ派の人物が権力を握り、戦争が続く状況も十分に考えられます。
金融システムや経済全体の行く末だけでなく、次の政治体制も、はたまた戦争が終わるのかどうかさえも、現時点では誰にもわかりません。
木材不足の遠因に環境保護意識の高まり
日経新聞は先月22日、「木材価格、ロシア産禁輸で高騰」と題する記事を掲載しました。
ロシアへの経済制裁の影響でロシア産の木材の供給が急減し、国産合板が過去最高値で推移しています。
2021年から続く世界的な木材不足にロシア発のウッドショックが追い打ちをかけた形となっています。
米国の好景気が建設ブームを生み、2021年の世界的な木材不足「ウッドショック」が起こりました。
日本も米国やカナダの木材を輸入しているので、大きな影響を被っています。
今回さらに木材の輸出世界一のロシアが戦争・経済制裁となったことで、木材不足に拍車がかかりました。
ロシア産木材に依存していたオープンハウスや飯田グループ、大東建託などが対応に追われています。
調達先の変更はそう簡単にはいかないはずです。
ロシアから木材を輸入できない場合熱帯産の南洋材に切り替える必要がありますが、熱帯での木材増産は環境保護論者からの強い抵抗があるのです。
一方で、環境に配慮した木材の安定的調達を目指す取り組みも進んでいます。
例えばウッドワン社では、ニュージーランドの国有林を購入して、新しく植えた木が成長した分だけ木材を生産する方法を確立しました。
購入当初はやはり環境保護団体からの抵抗を受けましたが、今では森を守りながら木材の輸出に貢献していると評価されています。
とはいえ、こうしたやり方はサイクルの確立も広報も非常に難しいものです。
特にマレーシアやアマゾンなどの熱帯の森は、伐採するスピードに木の成長スピードが全く追いついておらず、森が破壊されて環境問題になっています。
他の地域での増産は環境問題に直結するという木材の性質上、ロシア発のウッドショックは2021年に発生した北米発のウッドショックを上回る規模になる可能性があります。
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※この記事は5月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週はロシア・プーチン大統領のニュースを大前が解説しました。
大前は「プーチン大統領が電話会談で各国のウクライナへの武器供与へ懸念を示したり、ウクライナの穀物輸出を認める代わりに経済制裁解除を訴えたりしたのはロシアの状況を鑑みると、プーチン大統領の本音が出たと考えられる」と述べています。
交渉においては、常に相手の状況を理解することが重要です。
もしこの交渉が決裂したら、どうなるのか?相手に代替案はあるのか?冷静に見極めておくことが、交渉力を高めることにつながります。
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