実態を表していない地図

 

ハマスが攻撃を仕掛けた理由について、米国政府や多くの専門家は、「イスラエルとサウジアラビアの交渉が急展開し、サウジを中心にアラブ諸国がみなパレスチナのことを忘れ、イスラエルと仲良くしようとしていたから、ハマスはそれを止めようとしたのだろう」と分析しています。この見解は辻褄が合っているようにも思えますが、私は時系列的に見て、違うと考えています。

 

あらためてパレスチナの状況を概観すると、ガザは封鎖され、ヨルダン川西岸地区ではイスラエルがどんどん入植地を増やし、パレスチナ人を殺している。さらにイスラム教にとって大切なエルサレムのアル=アクサ・モスクに、イスラエル人が土足で入って汚している。ハマスはこれらを一掃し、リセットしようと考えたのではないでしょうか。それは、攻撃の作戦名である「アル=アクサの洪水」からも伺い知ることができます。洪水とは「ノアの方舟」の伝説からとっています。世の中が乱れて、罪人が増えたときに神さまが洪水を起こして人類を滅ぼし、正義の人たちだけが生き残るという話は、新約・旧約聖書だけでなくコーランにもあり、中東地域では昔からよく知られています。

 

なお、10月7日という日にも理由があります。50年前の73年10月6日、エジプトとシリアがイスラエルに奇襲攻撃をかけて大打撃を与えました。ハマスは、その記念すべき50年目の日プラス1日目のユダヤ教の安息日である土曜日を狙ったんだと思われます。

 

ずっと中東は平穏だと思われていて、そこに突然、武力衝突が勃発したので、多くの人々は、納得できる理由を探して、「あっ、サウジとイスラエルの交渉が原因だ」と思ったのでしょうが、そうではない。メディアの報道にも問題があったと思います。93年のオスロ合意があり、いまもそれが基本となってパレスチナ情勢が動いているという幻想にとらわれていた。ただ、ある意味でそうした誤解が生まれるのも無理はありません。

 

 

外務省のホームページに載っているパレスチナの地図を見ると、一色で塗られ、その地を自治政府が支配していることになっていますが、実際は、ヨルダン川西岸地区の多くはイスラエルに支配されています。パレスチナ自治政府が本当に支配しているのは、ほんのわずかです。人々は自治区内を移動しようとしても、検問所がたくさんあって、簡単に目的地には行けません。お腹の大きなお母さんが「病院に行きたい」と言っても、「おばあちゃんが死にそうだからお見舞いに行く」「試験だから学校に行かなくてはならない」と言っても、「今日は行かなくていい」と追い返される。本当にメチャメチャなんですね。

 

だから僕はテレビ出るたびに、外務省の人にホームページの地図を実態に即したものに変えるようお願いしています。それがこの間、僕のやってきた“ジハード”です。

 

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