No. 1441 ロシア式戦争のやり方:パート2

ロシア式戦争のやり方:パート2

by Gilbert Doctorow

遠い将来、このウクライナ戦争の指揮に関するロシアの内部文書が公開される日が来たとき、現在の大きなナゾの一つに決定的な答えが出るかもしれない。それは、なぜロシアはウクライナでの「特別軍事作戦」において、常に膨大な破壊力の行使を控えるよう命じながら、いとも簡単に進めて、より残酷な「米国式」作戦のように長引かせて兵士の損失を出すことを回避できたのであろう、というものだ。

武力衝突が始まった当初、私はウクライナで適用されている「ロシア式戦争のやり方」と呼ぶものの具体的な内容について指摘した。そのやり方とは、膨大な数の民間人の死者をださず、また敵の戦意を喪失させて蹂躙するための「衝撃と畏怖」による初期攻撃に頼らない、というものだ。私はその時、ロシア側にとって最も重要なことは、ウクライナ人とロシア人の伝統的な「兄弟」関係にあると言った。ウクライナ人とロシア人で結婚している人は広範に存在し、彼らは国境線の両側に親戚縁者がいた。ウラジーミル・プーチンとその軍閥の意図は、ウクライナ国民へのダメージは最小限にし、ウクライナ軍司令部の中の「健全な」要素を、過去8年間に軍に組み込まれた狂信的民族主義者アゾフや同様の非正規軍から分離しようというものだった。この2つを分離できれば、資材の支出も人命の損失も最小限に抑えて戦争に勝つことができる。

しかし作戦初期の数週間に、民衆の幅広い支持に支えられた統一軍に直面していて上記が幻想であることが明らかになった後も、ロシアの地上での作戦行動に何の変化も見られなかった。唯一わずかな変化はマリウポルの占領に利用可能な戦力を集中させ、アゾフ海沿岸全体を確保することと、ドンバスとの境界線の西側に陣取るウクライナ軍の大部分を包囲するために地上軍を徐々に方向転換させたことだった。その代償としてロシア軍は北部のキエフとチェルニゴフから撤退した。

この戦争については、イギリスや米国、その他退役将兵など、多くの専門家と呼ばれる人が分析をしている。それに加えて、戦闘計画を立てるどころかどんな銃器も持ったことがない単なる西側ジャーナリスト、特に女性たちの無知だが多弁な憶測もある。これら西側の論者たちは皆、戦争が米国やイギリスによって起こされたと仮定して、ウクライナへの侵攻がどのように戦われるべきかで始まる。キエフの政権を転覆させ、国全体を征服することを目的とした西側式の攻撃の予定表や範囲からロシア軍が外れることは、もちろん士気や航空援護、大砲、その他の戦闘要素を調整する能力の失敗だとみなされる。以上。彼らが出す結論は、ロシア軍は我々が恐れていたよりもはるかに不気味ではない、だから躊躇せずにNATOを拡大し、ロシアを押し返すべきだ、というものだ。

同時に、西側諸国は、ロシアの「軍事作戦」が侵略やその他の侵略行為の伝統から完全に逸脱しているいくつかの明白な事実があることを、誰も、誰一人としてコメントしない。ロシア人は自分たちがしようとしていることを言葉を選んで説明したが、それは決して気まぐれなものではなかった。彼らは「非武装化」と「非ナチ化」という具体的な目標を持っており、それに加えてこの数週間には境界線の反対側に位置するウクライナ軍によるさらなる攻撃からドンバスを保護することが付け加えられた。最後にでた名前の重要性は欧米の読者にはわからないだろう。なぜなら西側のメディアに掲載される戦争の写真は、マリウポリやカマトルスクの住民の苦しみを映したものばかりだからだ。しかしロシアのテレビ視聴者は、ドネツクとその周辺の村の民間人に対するウクライナのミサイルと砲撃により、毎日死者が出て、入院を要する犠牲者がでる結果を毎日見せられてきた。これは8年前から続くミンスク合意に反した悪質な攻撃と、1万4000人以上の民間人の死者を生み出した物語の尾部に過ぎないが、西側諸国は今日までそのことに無関心でいることを選んできた。

数日前、ドンバスの完全解放とウクライナ地上軍の主な集積地の整理という戦争の次の段階の責任者に、ドボルニコフ将軍が任命され、西側メディアは直ちにコメントを発表した。ロシアのメディアもこれに追いつき、戦争遂行にどのような変化が生じるかについての評価を発表し始めたところである。

ドボルニコフは、ロシアがシリアで大成功を収めた軍事作戦の指揮官として際立った存在であった。彼は空軍と地上軍の効果的な連携で知られていたが、戦争の第一段階ではそれほど素晴らしくは見えなかった。西側のアナリストは無能であったからと言い、ロシア側は、敵軍が住宅と混在する地形の制約の中で巻き添え被害や民間人の犠牲を回避するためだったと主張している。ドンバスの新しい戦場は、砲撃やミサイル攻撃という「技術的」解決にはるかに適しているだろう。

しかし、ドボルニコフの起用は、現在ロシア軍司令部の最高レベルにおいて、ロシアの戦争方式が見直されていることの一つの表れでしかない。その一因は、米国とNATOがキエフに重火器を供給するという、これまで以上に大胆な、いや無謀とも言える約束にある。昨日、ワシントンの国防副長官が、キエフへの次のレベルの支援には、ロシア国内の飛行場を攻撃できる中距離ミサイルが含まれると発言したことにモスクワは警戒を強めた。

ロシアはその脅威に即座に対応した。作戦期間中、ロシア軍の報道官であったコナシェンコフ将軍は、ウクライナからロシア領に攻撃があれば、ロシア司令部がこれまで選択しなかったキエフの意思決定機関をロシアが直接攻撃することになると特別に発表したのだ。これは明らかに、国防省、ゼレンスキー大統領府、おそらく議会、そしてウクライナのテレビ塔を含むそれらの召使が、今後即座に破壊されることを意味している。その結果は事実上の政権交代となるだろう。

ジョー・バイデンが軽率に宣言したように、ここ数日、ヨーロッパ諸国の首脳がロシアのウクライナでの行動が「大量虐殺」に当たるかどうかを公に議論しているが、ロシアが現在ウクライナで全面戦争を仕掛けているということに対する、最も明白な矛盾について、誰も言及しないようだ。

ウルスラ・ヴァン・デア・ライエンとボリス・ジョンソン、そしてポーランドとバルト三国の首相たちは、あたかも戦争が存在しないかのように、冷静にキエフに向かい、ゼレンスキーとともにキエフ中心部の大通りを散歩した。確かに護衛はついているが、それは万が一、通行人に暴力をふるうようなことがあった場合のみである。ロシアのミサイル攻撃の可能性など誰も頭にないのだろう。しかし、今回のコナシェンコフ氏の発言で、それは一変するかもしれない。

最後に、「軍事作戦」の進め方について、ロシアの軍事専門家全員が沈黙を守っているわけではないことに言及せざるを得ない。先週、マリウポリから生中継で報告し、周囲の完全破壊の光景を見渡したロシア国営テレビの最も経験豊富な戦場記者でシリア戦争やその他のホットスポットのベテラン、エフゲニー・ポドゥブニーは、まるで自然に呟いたように静かにこう言った。「軍事作戦では通常、相手の6倍の兵力を投入するが、ここではほぼ同数だった」。もちろんそれは「軽率」だったのではない。

この指摘は、昨日の半官半民の新聞『ロシイスカヤ・ガゼータ』紙上で、対外情報機関の退役将校レオニード・レシェトニコフ中将のインタビューでも繰り返されている。レシェトニコフはこう言った。

     攻撃時には、軍事学上、防御側の最低3倍の人数が必要だと言われている。しかし現地では、入手可能な情報によると、我々は相手より少数で攻撃している。イジュムでもノバヤ・カホフカでも、他の領土でも、歴史上まれに見る成果を上げている。これは我が軍の兵士と指揮官の熟練度を示している。

レシェトニコフは、褒め言葉として発言しているが、よく見ればそこには批判が隠されている。

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当初から私は、ロシアの社会的、学術的、政治的エリートが「特別軍事作戦」について語っていることに注目してきた。私の重要な指標は政治に関するトーク番組「ウラジーミル・ソロヴィヨフの夕べ」で、昨日の放送は多くの示唆に富むものだった。

まず、制裁についてだが、パネリストの間では、米国と欧州が現在自国に対して行っている全面的な経済・ハイブリッド戦争にロシアが直接かつ強力に対応する時期である、という点でほぼ一致していた。彼らは、ヨーロッパへのガス供給の即時停止から、チタンをはじめとする西側諸国の先端産業生産に不可欠な原材料の輸出禁止までを要求している。ヨーロッパに対するこうした残酷で破滅的な動きの代替案としては、まず日本に対してすべてを試してみることだ。日本はロシアとの貿易戦争の熱心な実施者であり、ここ数日でもアゾフ超国家主義者への支持を公に表明し、アゾフ大隊を国際テロ組織要覧から削除したのである。ロシアは日本に対して、炭化水素に始まり、漁業権などのあらゆる分野に及ぶ完全な商業禁輸を課すべきである。さらに、ロシアは千島列島に戦術核兵器やその他の重要な軍備を配置し、この領土が今も昔も誰のものであるかをしっかりと思い起こさせるべきである。

軍事行動については、パネリストのコンセンサスはウクライナに対する全面戦争を支持し、巻き添えになる民間人の犠牲はどうでもいいというものだった。戦争は迅速に、決定的に、そしてロシアの犠牲者を最小限に抑えて終わらせなければならない。以上。何人かが指摘したように、テレビ視聴者も、これまでのロシアの「ソフトに、ソフトに」アプローチに困惑している可能性が高い。彼らは最高司令官を信頼する一方で、空と地上でのより決定的な行動を望んでいるのだ。数週間前までは戦争支持に揺らいでいたロシアの「クリエイティブ」層を代表するパネリスト、モスフィルムスタジオのカレン・シャフナザロフは、今は「全面的に」賛成であり、動的な戦争に勝つ解決策を見つけるために全力をあげているのは特筆すべきことだろう。

それから戦争動員の質問もあった。パネリストのコンセンサスはロシア経済は、意思決定を行政に集中させ、企業家の手から離し、完全な戦時体制にしなければならない、というものだった。これは、現在進行中のウクライナとの紛争のためではなく、その背景となる米国主導の西側諸国とのより広い戦争を継続するために必要なことである。キエフに長距離ミサイルを派遣すれば、米国は交戦国となり、ロシアはその「意思決定」機関を攻撃する用意があるはずである。

要するにロシアは、これは災いを招いており、我々はビデオゲームの中にいるのではなく生死をかけた戦いの中にあり、そこで米国人は不老不死を享受できないことをワシントンに明確に示すべきだというのが、ソロビョフの番組における議論のロジックだった。

この気迫がクレムリンの次の動きにどれだけ影響を与えるかはまだわからない。しかし米国のアナリストたちは、無知と誤算から世界の終わりのシナリオに進んでしまわないよう、ソロビョフのような番組に目を向けることが大切だろう。

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