飲食店の客数大幅増加! しかし、経営はむしろ厳しくなる 外食産業を襲う新たな3つの問題点

現代ビジネスに11月20日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/102408

絶好調、客足戻る

新型コロナウイルスの第8波が懸念されるものの、今のところ政府は、厳しい行動規制は行わず、結果的に経済活動の再開を優先させる姿勢を取っている。むしろ全国旅行支援などを実施することで、新型コロナの拡大を招いたとしても人流拡大を積極的に後押ししているとすら言える。

国民の多くも2年以上にわたる巣篭もりに辟易としていたから、かつてほど重症化せず死亡率も低くなった新型コロナを恐れるよりも、行動を再開する衝動にかられている。第8波はその結果とも言える。

都内の飲食店には一気に客が戻ってきた。お酒が入ったビジネスマンがマスクなしで大きな声で会話する光景も見られるようになった。すっかり定着したアクリル板の仕切りを取り外すように求めるグループも増えている。我慢が限界だったその反動と言った感じだ。

さすがに会社の飲み会や二次会などはまだまだ自粛だが、深夜まで店を開くバーなどにも客足が戻っている。

外食産業の動向を調査している日本フードサービス協会の調査でも客足の戻りは鮮明だ。

ファーストフードやファミリーレストラン、居酒屋、レストラン、喫茶など全体の2022年9月の客数は前年同月比109.9%。売上高も119.7%と大幅に増えた。1年前の9月は感染拡大の影響で営業自粛などが求められていた。

特に居酒屋・パブなどは店を閉じていたところも多い。居酒屋・パブの9月の客数は前年同月比378.3%という「異常値」になっているのはこのためだ。客が使う金額も大きく増えており客単価は1.5倍。売上高も568.8%つまり5.7倍にまで拡大している。

これらの数字は全国旅行支援などが本格化する前の段階なので、10月はさらに絶好調な数字になるだろう。

原価上昇に人手不足

ところがである。居酒屋など外食産業の経営者は予想外に浮かない顔をしているのだ。というのも外食産業を新たな3つの問題が襲っているからだ、という。

1つ目は仕入れ価格の大幅な上昇。消費者物価指数の上昇率が前年比3%を超えたと話題になっているが、主として報道される物価統計では生鮮食料品は価格変動が大きいとして除外されている。それでも10月は3.6%の上昇に達したが、生鮮食料品だけを取り出してみると、1年前に比べて9.6%も上昇している。

だからと言ってコスト上昇分を一気に価格に転嫁できるわけではない。使う材料を変えたり、量を減らすなど、いわゆる「ステルス値上げ」に踏み切るところも多いが、10%近い原価上昇には追いつかない。言うまでもなく原材料費は外食産業にとって人件費と並ぶ2大コスト。円安の定着で輸入食材の上昇はさらに大きくなっており、飲食店の経営を圧迫している。

2つ目は深刻な人手不足だ。新型コロナ蔓延で店舗の休業を余儀なくされていた時にはアルバイトやパートなどを減らして耐え忍んできた。ところが、ここへきて客が急増したことで、調理場もホール係も圧倒的に人が足らなくなっている。席には着けたものの、ホール係がなかなか注文を取りに来ないといった経験をしている人も多いに違いない。

人手不足に拍車をかけているのが外国人労働者の減少である。国が新型コロナ対策で外国人の入国を厳しく制限していたこともあり、日本語学校への留学生などが大幅に減少した。もちろん留学生というのは隠れ蓑で、実際上は「出稼ぎ」目的の外国人が少なくない。技能実習生なども同様で、日本側も「安い労働力」として重宝してきた。彼らの多くは日本の最低賃金水準で働いているケースが多い。

円安が外国人労働者を遠ざける

そうした外国人が水際規制で入って来られなくなっていたため、現場の人手不足に拍車をかけている。コロナ前は居酒屋やコンビニエンスストアで中国人やベトナム人などを多く目にしたが、今はほとんど姿を消している。10月から外国人の入国制限が一気に緩和されたものの、留学生や技能実習生が一気に増えてくる状況ではないという。そこには深刻なもう1つ理由がある、という。

円安である。出稼ぎに来る外国人は自国への仕送りするためにやってくる。自国の年収の何倍も短期間で稼げる日本の高い賃金に憧れてやってきていたわけだ。ところが、ここへきて急速に進む円安によって、日本の賃金の魅力が大きく削がれているのだという。

毎年改定される最低賃金は2022年10月から全国平均で3%引き上げられたが、これは円建て給与の話。この1年で急速に円安が進んだため、ドル換算すると20%以上も下落したことになる。しかも世界の物価は上昇しているから、日本円建ての給与がかつてほど輝きを持っていないのである。

本国の給与水準が大きく上がっている中国人は、もはや日本の「3K職場」では働かない。居酒屋でアルバイトする中国人留学生は激減している。その穴をベトナム人などが埋めていたが、円安で手取りの給与が減るようだと、景気の良いアジア各国で働いた方が収入が多いということになりかねない。

つまり、なかなか上がっていかない日本の給与と円安がダブルパンチになっていて、日本の「現場」で働く外国人がコロナ前の水準まで一気に回復するとは考えられていないのだ。この外国人労働者不足が飲食業界に大きな打撃を与えている。

パート・アルバイト時給、大幅上昇

3つ目は人件費の増加である。深刻な人手不足の結果、パートやアルバイトの時給は急速に上昇している。都内のファーストフード店では高校生を対象にしたアルバイトの時給が「1100円以上」が当たり前になってきた。深夜になればさらに上がる。

当然、飲食店で働くパートやアルバイトの時給も大きく引き上げなければ職場には戻って来ない。外国人も、円安になってもその分給与を引き上げれば戻ってきてくれる可能性は高まる。つまり、現場に近いところから、給与が急速に上昇しているのだ。

ここへきて飲食店の倒産や閉店が増加傾向にある。もともと企業倒産は景気下落期よりも底を打って回復する過程で増加する傾向がある。というのも景気が悪化している最中は「仕入れ」を大幅に減らしたり、「従業員」を減らすことで、コストを下げられる。

特に今回のコロナの場合は、政府や自治体の要請で店舗を閉めたため、様々な補償金も入ってきた。その補償がなくなったうえに、原材料費の高騰と人件費の上昇が襲いかかってきた。

「もはや経営を成り立たせるのは至難の技だ」と居酒屋を廃業した経営者は語る。ポストコロナで人々の行動パターンも大きく変わり、会社帰りに居酒屋で一杯といった風習が今後、本格的に復活してくるのかも分からない。

客が戻ってきて大忙しの飲食店かと思いきや、実は前途多難というのが現況のようだ。