だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

自動車の買い替え年数について

2020-08-26 20:49:28 | Weblog

 大量生産・大量消費の社会は持続不可能と言われるが、一方でこれだけ大量の人間が地球上に生きているのだから、消費財を大量に生産することは必要である。そうでなければ貧困ということになり、これはこれで持続不可能な社会と言われることになる。ということは、大量生産・大量消費自体が悪いわけではなく、その様態が問題となるということだ。

 ある消費財の耐用年数と買い替え年数を比べて、

耐用年数<買い替え年数

の場合は、耐用年数を超えて使用しているということで、この状態を貧困と定義できる。

一方、

耐用年数>買い替え年数

の場合は、まだ使えるのに買い替えるということで、これの状況を「モード」と呼ぶ。その財の機能だけではなく、デザインや目新しさという要素が加味されて、機能上はまだ使うことができるのに、新しいものに買い替えるという状況だ。持続不可能なのはこの状況である。企業は宣伝広告に多額の費用を使い、新製品の開発のサイクルを早くして、使用者に今使っているものを捨てさせて、新製品を買わせようとする。その分、資源・エネルギーが無駄になり、廃棄物が増えることになる。今日私たちが購入する消費財の多くがこのパターンである。

ここで、耐用年数に対する買い替え年数の比を買い替え指標と定義する。

買い替え指標=買い替え年数/耐用年数

これは耐用年数の何割くらいの年限で買い替えられるかということを示し、この数値が小さいほど「モード」の要素が強くなるということになる。

 これを今日の代表的な消費財の一つである自家用車について見積もってみた。多くの人は新車を買って何年くらいで買い替えるか?これを見積もるのに、中古車として販売されている年式を調べてみた。大手中古車販売サイト(「カーセンサー」https://www.carsensor.net/usedcar/search.php?AR=0&SKIND=1

)に登録されている車の年式から現在から何年前に新車として登録された車かということを見ると、3年、5年、7年、11年、13年にピークが見られる。3、5、7、11年は車検のタイミングだ。車検を機に新しい車に乗り換えるというパターンが見える。13年は車検とともにこれを超えると年々の自動車税が割高になるタイミングであり、長く乗った車もそこで手放すというパターンがあることがわかる。一方、自動車の平均使用年数(新車登録されてから廃車になるまでの平均年数)は2018年度で13.24年である(一社自動車検査登録情報協会

https://www.airia.or.jp/publish/file/r5c6pv000000m20m-att/r5c6pv000000m211.pdf)。この年数は年々増大してきたが、現在では自動車税が割高になる13年のタイミングと一致している。

 ここで13年ですべての新車が一回は乗り換えられると仮定して、中古車販売サイトに登録されている年式が新車から初めて手放された車齢と仮定して推測すると(すべての登録車はいわゆる「ワンオーナー車」という仮定で、実際は違うので年式を長めに推定することになっている)、平均の買い替え年数は約6年となった。

 自動車の機能上の寿命は年数よりも走行距離で表現した方が適切である。年間平均走行距離は約6,000kmということで(ソニー損保「2019年全国カーライフ実態調査」https://www.fnn.jp/articles/-/16832)、これに6年をかけて四捨五入すると、40,000km乗ったところで買い替えるというのが平均的な買い替え距離ということになる。

 一方、自動車の耐用走行距離はどれほどだろうか。自動車は定期的なメンテナンスとしてオイル交換やバッテリー交換がある。それを超えた交換部品としてはエンジンのタイミングベルトがある。これは自動車の取扱説明書には10万kmで交換と書いてある。ということは、想定される寿命が10万kmということはありえず、少なくともその倍の20万kmはあると考えるのが妥当だろう。実際、タクシーは更新するまで30万kmから50万km走るという。私の経験では、前に乗っていた車は32万kmまで走った。それまでエンジンがかからなくなるような致命的な故障はなかった。きちんとメンテナンスを行い、時々に不具合が出る部品を交換しながら、大過なく30万kmを走った。廃車にしたのは、エンジンが不調になり、エンジンのオーバーホールか載せ替えを考えなくてはいけないと判断したタイミングであった。ということで、少なめに見積もって20万kmというのが妥当なところではないだろうか。

 そうすると、自動車(自家用車)の買い替え指標は

4万km/20万km = 0.2

ということになる。言葉を変えると、もしこれを1にすることができれば現在登録されているのと同じ台数の自動車を作るための資源・エネルギーの消費量が0.2=1/5になる。逆に言えば現在の状況は資源・エネルギーを5倍ほど「ムダ」づかいしていると言える。

 一方、みんなが車を20万km走るまで買い替えなかったとしたらどうなるか。買い替えで中古車を買う場合もあるので過剰な見積もりとなるが、新車の販売台数が1/5になるということだ。大ざっぱに言って自動車産業の利益と雇用が1/5になるということでもある。

 つまり、私たちの社会は資源・エネルギーを「ムダ」使いしながら企業の利益と雇用を維持している社会ということだ。私たちが仕事で頑張れば頑張るほど、地球の資源は過剰に消耗されていくという構図になっている。あちらを立てればこちらが立たないという関係をトレードオフというが、この資源の「ムダ」使いと企業利益・雇用の維持というトレードオフの袋小路が、つまり私たちの社会の持続不可能性なのだと捉えることができる。

 

 

 

 

 

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